上 下
159 / 183

0158★閑話・喫茶店〔ワルツ〕に到着

しおりを挟む



 隣りに灰茨が乗り込んだことを確認した聖子は、淡々と命令する。

 「とりあえず、聖樹お兄様が最後に目撃された
 喫茶店に向かってちょうだい」

 冷静な口調の響きの中に潜む不機嫌のオーラから、灰茨は感情の窺がえない声で答える。

 「わかりました
 出るぞ、伊藤…まずは、喫茶店〔ワルツ〕だ」

 灰茨は、聖子の命令に答えて、先導役となる前車にそう指示を出す。
 その指示に、先頭車のハンドルを握る伊藤が応じる。

 『はい、了解しました』

 運転手役の伊藤は、チラッと隣りに乗り込んだ杉山と頷きあって車を発進させた。

 その後を、聖子の乗る車が、その後ろに、浜地がハンドルを握り、武名が同情する車が続き、その後ろに椎名と青木が乗る車が続いた。
 勿論、バイク組は、聖子の乗る車の側を伴奏している。

 聖子自身はそこまで自分の身を心配していなかった。
 が、聖の側近達にとっては、大事な主の愛娘だったので、厳重な警戒をしていた。

 聖子達一行は、何事も無く駅前にある喫茶店〔ワルツ〕に到着した。
 そこでは、聖子の斜め前を灰茨が先導するように、喫茶店の店内へと入った。
 ちなみに、聖子の背後には杉山と武名が付いて来ていた。

 聖子達が喫茶店の店内に入って、事情を説明し、聖樹の行方の手がかりを探す間、伊藤、浜地、椎名、青木は駐車場で待機していた。

 バイク組は、久貫だけが後からそ知らぬふりで、客として入店していた。
 小楢と喜竹はと言うと、駐車場には入らず、喫茶店の正面の入り口が見えるところに小楢が、裏口が見えるところに喜竹が張っていた。

 もしも、聖子に聖樹の行方を問われて、裏口から、または堂々と正面の入り口からどこかに連絡を入れる者が居ないかを確認する為だった。
 聖子達は、知らないことだったが、喫茶店〔ワルツ〕の店長および、店員は、聖樹を攫ったデモニアンとは一切かかわりの無い者達だった。

 聖子は、店内に入り、真っ直ぐにカウンターへと向かう。

 「すみません、店長さんをお願いできますか?」

 銀の百合学園の制服を着た、いかにも可憐なお嬢様という風情の聖子に、店員は一瞬見惚れてから、ちょっと頬を赤らめたまま、奥で珈琲豆をいじっていた店長を呼ぶ。

 「マスター……奥村マスター……
 可愛いお嬢さんがお呼びですよぉ~………
 何か店長に言いたいみたいですぅ」

 と、ちょっとうわずった声での呼び掛けに、ロン毛のわりとイケメンが現われる。

 「はいはい…なんでしょうか?」

 軽い口調で現われた店長・奥村に、聖子はまず自己紹介する。

 「すみません…私…神無月聖子と申します」

 唐突な自己紹介にも、客商売で仮にも店長をしている奥村は、イヤな顔もせずに頷いて応える。

 「この喫茶店のオーナーで店長の奥村泰明です
 それで……えぇーと…神無月様…
 その当店で何か不手際でも……」

 ちょっと困ったような顔から、クレームを言いに来たと思ったらしいことを見て取り、聖子は憔悴した表情で、単刀直入に言う。

 「私の腹違いのお兄様が行方不明になりまして
 最後に、お兄様の姿が見かけられたのが
 こちらの喫茶店だと……報告を受けまして………

 なんでも、同年代の男子学生数名と一緒だったと
 もしかしたら、お兄様は何か大変な事件とかに
 巻き込まれたのかもと思って………
 探しているのです

 お父様が危篤に陥った時、連絡しようとしたら……
 全然、携帯も繋がらなくて………」

 不安げに言う聖子の側に付いていた灰茨が、スッと前に出て言う。

 「こちらの喫茶店は、入り口や店内に数台
 監視カメラが設置されているようですが
 飾りでしょうか?

 それとも、きちんと録画されてますでしょうか?
 早急に、聖樹様の所在地を割り出し……
 お伝えしなければならないことがあるので……

 あっ…私…こういう者です……」

 そう言って、灰茨は名刺を差し出す。
 名刺を受け取った店長の奥村は、チラッと店内を見回し、そこまで客が入っていないのを確認して言う。

 「灰茨奨……えぇーと、読みは…ショウで
 よろしいんですか?」

 奥村に、軽く首を振って言う

 「いいえ、これはススムと読みます」

 「あっそうですか……じゃなくて………
 当店の監視カメラは録画しています

 ただ、そんなに長時間保管できないので……
 時間的に何時頃でしょうか?

 その行方不明になった…えぇーと少年……
 神無月様と…聖樹様ですか……と
 ご一緒に映ったモノとかございますか?

 名刺はいただきましたが……
 身分証明としては、はちょっと……
 一応、情報開示となりますと………」

 言葉を濁す奥村に、聖子は銀の百合学園の生徒手帳と、自分と聖樹と父・聖が一緒に映っている動画を見せる。

 「彼が、私の腹違いのお兄様ですわ
 お父様と和解した時のものですの………
 もう、お父様も………」

 ちょっと涙ぐむ聖子に困りつつも、奥村は動画を確認する。
 その中では、いかにも妹に振り回されて困っている兄と、病身の父親が映っていた。

 「たしかに、これは貴女ですね
 こちらが、病身の父君……で、
 探しているのは、この少年ですね」

 「はい……この喫茶店で目撃されたとの報告は
 一週間ぐらい前の日付でした……」

 「わかりました……ちょっと待って下さい」

 聖子の言葉に頷き、奥村は監視カメラの映像処理(保管期間が終わったら消去)を担当をしている弟に声を掛ける。





しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

何も持たない僕の話

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王様の伴侶 -続・辺境村から来た少年-

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:59

無垢な少年

BL / 連載中 24h.ポイント:895pt お気に入り:123

ずっとこの恋が続きますように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:40

幻想後宮譚 叛逆の玄竜妃と黒燐の王

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

宿命の星〖完結〗

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

処理中です...