悪戯な運命の女神は、無慈悲な【運命の糸】を紡ぐ

0141★顕現した修羅と蒼珠

　朱螺は、好きになった者から【逆鱗】に与えられた甘い愛撫に反応して、全身に銀鱗が鮮やかに浮かび上がるのを無意識に感じと同時に、意識を失墜させてしまった。

　蒼珠が朱螺と《名付け》た朱螺が意識下に沈んだ、次の瞬間。
　蒼珠が《名付け》た朱螺ではない、もう一人の朱螺、もとい天魔族の修羅が出現していた。

　顕現した修羅は、自分の喉に舌で愛撫する蒼珠をそのまま抱き締めて嗤う。

　『………クッククククク……………
　其方は……悪戯っ子のようだな　蒼珠

　昨夜の我が怖くなかったのか？　……ぅん？
　あれほど　我との〈情交〉を怖がっておったのに

　このような悪戯をすれば
　其方にとって
　取り返しのつかないことになると判っているだろう

　我は　そなたが《名付け》た　朱螺と違って
　そなたの命には従わぬ者だぞ

　泣いても喚いても
　我は　其方を我のモノにする
　覚悟あってのことだろうな』

　そう言いながら、朱螺、いや、修羅は、蒼珠の秘窟に自分の怒張した男根を押し当てる。

　『判るか？　蒼珠
　それとな　其方が
　我をどう理解しているかは理解（わか）らんが

　我は其方が《名付け》た　朱螺ではないぞ
　我は　幼少期に意識下に封じられし者だ

　ゆえに　いまだ　我の名は修羅だ』

　修羅から告げられた内容に、蒼珠は肛門に当てられ、今にも力で潜り込もうと圧迫する男根の感触に背筋を震わせながら、応えるように両腕に力を込める。

　幼少期に、意識下に討じられし者
　って、言うことは…………

　お祖母さんに拒否された時のことか？
　たしか、朱螺は…その時…自分の中の何かが……
　何処かが壊れたって言ってた、アレかな？

　きっと……あまりの哀しさに
　意識下に水龍族の属性と共に
　意識の一部を封じちゃったってことかな？

　祖父母に、手酷い拒絶をされるつらさ…………
　それは、俺も理解することが出来る
　どういう状況かなんて、なんとなくわかる

　俺自身、祖父母に疎（うと）まれていたから……
　でも、俺は、あの高慢な祖父母達から
　愛情を欲しいと思ったことは無い

　なにより、母さんは、俺を大事にしてくれた
　とても、愛してくれた

　母さんの兄である伯父さんだって
　いつも、母さんと俺を気にかけてくれていた

　だから、母さんの両親である祖父母に
　陰険で残酷な方法で、何度傷付けられても
　それで精神が壊れることは無かった

　だって、俺にとって、祖父母という存在は
　他人以上に、遠く疎ましい存在だったから

　俺に愛情を注ぐ、母さんと伯父さんを
　自分の価値観だけで、貶める傲慢な存在

　ほんのひとカケラさえも
　記憶にとどめたく無い存在が、祖父母だった

　もしかしたら、俺を玩具のようにもてあそぶ
　あの男（明宏）よりも、無価値な存在かもしれない

　屈辱と汚辱に塗れる俺を、もてあそぶ
　それでも、俺自身を見ている

　性奴としてかもしれないが
　そんな思いなど欲しいとは思わないが
　あの男（明宏）は、俺に好意を持っている

　こうして、遠く離れてみて判るモノがある
　そして、自分の気持ちも…………

　俺にとっての肉親は、母さんと伯父さん
　そして、俺の存在を喜んでくれた
　父さんや聖子だけだ

　母さんの両親は、俺にとって身内に該当しない
　もしもの話しだが…………

　祖父母か、あの男（明宏）どちらかの手を
　二択で選ばなければならないことになったら

　俺は、迷わずあの男（明宏）の手をとるだろう

　それぐらい、あの祖父母は俺にとって無価値だ

　それを考えると、修羅は精神的に
　とても純粋だったんだろうなぁ………
　祖母の手酷い拒絶だけで
　精神が壊れて、封じてしまうほど………

　でも、そんなこと、俺にはどうでもイイ話しだ
　それも含めて、顕現した修羅も
　俺の朱螺であることに変わりないんだし………

　そう思った蒼珠は、修羅の身体を精一杯抱き締めて言う。

　「…そ…それでも…俺にとっては…朱螺だよ
　【逆鱗】に触れて現れる、修羅も…
　俺の朱螺であることに変わりないよ

　命に従わない………そういうのは関係ない
　俺は、そのままの朱螺が好きだよ
　銀鱗が浮かぶ神々しい修羅も…好きだ……」

　蒼珠からの思わぬ応えに、朱螺は嗤う。

　『我に　その躯を侵されて………
　その言葉が言えたなら
　其方の言葉を　信じてやろう　蒼珠』

　不審も露（あらわ）な修羅のセリフを聞きながら、蒼珠は、修羅の髪先が全身に這いまわり、性感を刺激しされるのを感じた。