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0128★朱螺の告白

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 蒼珠からの再度の訴えに、朱螺は少しだけ沈黙する。

 〔ふっ 《契約》の代価 か‥‥‥ 確かに 欲しい
 それで蒼珠の全てが手に入るならな‥‥‥ だが‥‥

 もう それ(躯)だけでは 満足できない私がいる‥
 きっと 欲望のまま抱いてしまえば 飢える 確実に

 《契約》の代価では‥ 躯だけの関係では とうてい
 我慢できなくなる 欲しいのだ 蒼珠の気持ちが‥‥

 私は 自分の気持ちというモノに 気付いてしまった
 そう 私は 蒼珠に心から愛して欲しいのだ‥‥‥〕

 自分の気持ちをもてあました朱螺は、その心情のまま、蒼珠に言ってみた。

 『ならば 蒼珠 私達の間で 最初に取り交わした
 《契約》の変更は 可能か? 内容を少し変えたい』

 朱螺からの言葉に、蒼珠はビクンッとする。

 えっ‥とぉ‥今‥‥ここで《契約》の変更? って
 そんなことしたら、どうなるんだろう?

 俺としては、最初の《契約》通り‥朱螺に‥躯で‥
 代価を支払う方がイイんだけど‥‥‥

 第一、他の何かで、代価を支払う能力なんて無いし
 どうせ経験するなら‥朱螺としたいし‥‥‥

 不安そうに自分を見あげる蒼珠に、朱螺は優しく笑う。

 『そう 不安そうな顔をするな 蒼珠 ひとつの知識
 又は物に対して 一夜の性交渉が代価という《契約》を
 私の恋人になるという内容に 変更してはくれないか?』

 朱螺の思いがけないセリフに、びっくりした蒼珠はマジマジと朱螺を見あげる。

 「恋人?」

 オウムのように復唱した蒼珠に、朱螺は頷いてもう一度言う。

 『そう 私の恋人になって欲しい 昨夜の あの時に
 自覚したのだ 蒼珠のことを愛しているということを

 この私の胸に ポッカリと空いてしまった 空虚
 その気持ちを埋めてくれるのは お前だけだと‥‥

 お前なら きっと いや 私の醜い銀鱗の姿を‥‥
 美しいと言ってくれた お前だけが 私の虚(うつ)ろ
 となった心を満たしてくれる‥‥駄目か? 蒼珠

 私を 愛する相手に選んではくれぬか?』

 まるで甘い睦言のように愛を問う朱螺に、蒼珠は嬉しさと不安に惑乱されて、直ぐには、応えられなかった。

 愛してる? 朱螺が‥ 俺を‥‥ ‥恋人になる?
 俺が朱螺の恋人に? これって俺の都合の良い夢か?

 俺も‥‥朱螺を‥す‥好きみたいだし‥もしかして
 それが見せている幻夢(げんむ)ってやつか?
 それにしても‥‥かなり安易過ぎないか‥‥俺‥‥

 あぁ‥そうか‥なんで《契約》の代価に、こんなに
 こだわるのか‥今‥はっきりと‥理解(わか)った

 俺は‥朱螺が好きなんだ‥ずっと一緒にいたいって
 このまま一緒にずっと旅をしたいって、思ったのは

 俺が‥異種族で、同性の朱螺を恋愛対象として‥‥
 好きになっちまったからなのか‥‥‥‥

 マジかよ、俺‥まさか、初めて好きになった相手が
 ‥‥男‥それも異世界の魔族に属する者‥‥‥‥

 蒼珠は、自分の中に、何時の間にか形成された、朱螺との《契約》に対してのこだわりと思いの正体を、唐突に理解した。
 だから、呆然としたまま、朱螺を喜ばせる言葉を蒼珠は唇から零れ落とした。

 「‥‥これって‥‥俺の‥都合の良い‥夢かな?」

 無意識に呟いた蒼珠に、朱螺は蒼珠の本音を視た気がした。

 『夢ではないよ 蒼珠 私は お前を 真実 愛した
 私の‥‥もう一つの姿を受け入れ 綺麗だと言って‥‥

 何のためらいもなく触れてくれる‥お前に愛されたい
 だから《契約》の変更をしたいんだ‥‥』

 戸惑いの合間に見え隠れする歓喜を見て取り、朱螺は蒼珠の額に優しく口付ける。

 もし今の朱螺からの告白が、朱螺本人の言うように
 本当に夢じゃないなら‥‥なおのこと‥‥

 今の俺は‥‥朱螺の恋人にはなれない
 だって、俺はまだ何の代価も朱螺に払っていない‥‥
 それには甘えられない

 せめて、一度性交渉した(代価の一部でも払った)
 あとならば、応えられるけど‥今は絶対に無理だ

 「朱螺‥‥その提案を‥こ‥断ったら‥怒る?
 《契約》の変更は‥このまましないって言ったら‥
 今までの代価だけ取って‥俺を、ここで見捨てる?」

 微かに甘えの混じった蒼珠の言葉に、朱螺は、それだけで満足した。

 〔ふっ‥‥ 気性の真っ直ぐな蒼珠らしいな‥‥‥
 やはり《契約》の代価にこだわるか‥‥‥‥

 だが 私の告白に対して 明確な拒絶反応はなかった
 それに 無意識なのだろう 私に甘えてくれる〕

 だから、朱螺はその暖かい気持ちのまま、優しく前髪を梳きあげて、指先で蒼珠の耳を優しくたどりながら言ってやる。

 『クスッ‥《契約》の変更を受け付けなかったからと
 怒ったりなどしないよ 勿論 蒼珠を見捨てたりなど
 けしてしないよ

 お前が 私を見捨てることはあっても 私からお前を
 手放すことはない

 言っただろう 私は 蒼珠に愛され 満たされたいと
 蒼珠が 最初の《契約》にこだわるなら 《契約》の
 変更しなくても良い

 ただ 私を愛してくれ ゆっくりで良い 私の中の
 もう一つの姿を受け入れたように‥‥‥

 私の《精》に含まれた《魔力》が与えた 躯を侵食する
 痛みを許容したように‥‥私の思いを受け入れて欲しい』

 朱螺は、そう囁き、蒼珠に優しい口付けを落とした。




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