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0125★再び朱螺のもとへ

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 『‥せい‥じゅ‥‥‥蒼珠‥‥どうした? 蒼珠
 大丈夫か? 私の声が聞こえているか? 蒼珠』

 優しい声音で、心配そうに自分に呼び掛ける朱螺の声に、あのおぞましい感覚を味合わずに、朱螺の側に戻れたことを実感した蒼珠は、無意識に微笑(わら)う。

 「‥‥しゅ‥‥ら‥‥‥」

 蕾みが緩やかに綻ぶかのように、はんなりと微笑(わら)う。
 そんな蒼珠に、朱螺はホッとした様子で、悔恨の滲む呟きを唇から零れ落とす。

 『‥かなり‥うなされていたぞ‥‥‥やはり‥‥‥‥
 私の行為は まだ‥今のお前には きつかったようだ
 ‥‥‥お前を こんなに苦しめるとは思わなかった』

 寝汗に濡れた前髪を優しく梳き上げる、朱螺の指先の暖かい感触に、双眸を気持ち良さそうに細めて首を振る。

 「‥‥‥ちょっとばかり‥夢見が悪かっただけだ‥‥
 うなされてたのは‥‥朱螺のセイじゃない‥‥‥」

 言いながら、蒼珠は内心で首を傾けていた。

 あれ? まだ‥夜明け前なのか? ‥かなり薄暗い?
 ‥‥‥じゃなくて‥これって‥‥布の色か?

 じゃあ、ここって天幕か何かの中なのか?
 朱螺は、テントとかも、待っていたのか?

 へぇ~‥‥ゾルディの背中に積まれた荷物の中には
 こんなモンもあったんだぁ?

 ‥‥あ‥‥‥もしかして俺のセイか?
 俺に《魔力》がまるっきりないから‥‥‥今まで‥

 《魔力》に対して、制約の空白地帯に入っても‥‥‥
 朱螺は、テントとかを出さなかったんだ‥‥‥

 その事実に気付き、愕然とした蒼珠は、ガックリと肩を落とす。

 うぅ~‥‥俺って、マジで朱螺の足手まといじゃん
 マジで、まるっきりの役立たずじゃねぇ~か‥‥

 その上で、まだ全然 《契約》の代価を支払ってないし
 ひとつの知識、または、ひとつの物に対して一夜‥‥‥

 とか言っておきながら‥‥朱螺と、本当の意味では、まだ
 1回もしてないんだよなぁ‥俺‥‥はぁ~役立たずだ‥‥

 起き上がることなく、突然そのままうなだれてしまった蒼珠に、朱螺は静かな声音で問う。

 『どうした? やはり気分でも悪いのか? いや違うか‥‥
 あぁ‥‥そうか‥‥やはり私の《精》は‥《魔力》は‥‥‥

 私が考えていたよりも お前の躯にはつらかったのだな
 肌を合わせるような行為にさえ まったく慣れていない

 お前には まだまだ早過ぎた行為だったな‥‥残念だが
 もう少し体調の様子を見て 今度は もっとゆっくりと
 躯を合わせる行為に馴染むようにしなければならないな

 私も【逆鱗】を 蒼珠の指先で撫でられた時に味わった
 何とも言えない 快楽に引き摺られてしまったからな

 欲望のまま暴走した 私の突然の変化は お前にとって
 かなりの衝撃だったのだろう

 喉もとの【逆鱗】から全身に走った愉悦感に侵食されて
 正気を失ったまま 蒼珠の躯を 欲望のおもむくまま
 あさましい衝動に狂って 食ろうとしたのだからな

 もし あのまま お前をむさぼっていたらと思うと‥‥‥
 今の状態ではいられなかったろう 私も‥お前も‥‥‥』

 少し肩を落とした朱螺に、蒼珠は自分の躯に落ち掛かる真紅の髪を握って首を振る。

 朱螺ぁ~‥そこに行っちゃう? って‥しょうがないか‥‥
 きっと、あの変化は、朱螺にも予想外だったんだろうし‥‥

 じゃなくて‥‥‥話しを‥マジで、原点に戻さないと‥‥‥
 俺も、心情的に‥‥何時までも、逃げてらんないし‥‥‥

 「違う‥朱螺‥そうじゃなくて‥‥俺を連れているセイで‥
 朱螺に、青空の下で野宿とかさせてしまったのかなぁ‥‥‥

 って思っただけ‥‥俺に《魔力》が、まるっきりないセイで
 朱螺に迷惑かけたよなぁ‥‥‥って思ったから‥‥‥
 せっかく、制約の空白地帯に入ったのにさぁ‥‥‥‥」

 蒼珠の言いたいことを理解した朱螺は、蒼珠が見惚れるほど柔らかく微笑(わら)う。

 『なんだ‥‥‥ そんなことを気にしていたのか?
 お前を腕に抱いていられるならば 私は どこでも

 一向に困らないぞ 魔に属する者だからな‥‥‥
 野宿でも 身体的な負荷などないから気にするな』

 そう言いながらも、朱螺は水浴びだけで気がすまなかった蒼珠が、失った血液が新たに増血されていない状態にもかかわらず、自分を探して湖の底深くにまで潜って来た時に、陸地に引き返さなかったことをかなり後悔していた。

 『よほど人族の蒼珠の方が テントや家というような
 自然環境の変化から身を護るモノが必要だろう‥‥‥
 まして お前は大量に血液を失ったあとなのだから‥‥』

 いくら蒼珠本人が望んだこととは言え、陸地に上がらずに、そのまま湖底探索などしたセイで、更に躯をかなり衰弱させてしまったのも確かなことだった。

 その上で、水中に潜ってまで自分を探しに来た蒼珠に、強い欲望に引き摺られるまま、多量に《魔力》を含んだ《精》を、体内に注いでしまったことも後悔していた。

 朱螺は、衰弱している心身を、立て続けに痛め付けてしまったと思っていたので、蒼珠をいたわるように髪を撫でながら、優しい言葉を続ける。

 『蒼珠 まだ 体調は万全ではないだろう 失った血液が
 そう簡単に 短時間で 血液量が元の状態に戻るとは
 聞いたことがないからな

 どちらかというと 大量出血のあとは 後々まで倦怠感が
 続くと聞いたことがあるのでな‥‥‥

 ゆっくりと お前を休ませてやりたかったから ここに
 屋敷を創造(つく)ったのだ

 幸い 私の《精》を受け入れてくれたから《魔力》で
 創造(つく)った建物でも大丈夫になったことだしな

 どうせなら もっとゆっくり蒼珠を知りたい

 私は魔族だからな 蒼珠の体内に侵入しなくても‥‥
 《精》を放たなくても‥‥‥十分に お前を感じられる‥

 それに お前が私の施すモノに快楽を感じてくれれば‥‥
 《情波》も味わえるからな‥‥‥‥くすくす‥‥‥‥
 だから 蒼珠も 私の施すモノを感じてくれ‥‥』

 耳朶を甘咬みしながら優しく囁かれたセリフに、蒼珠は真っ赤になった。





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