上 下
119 / 183

0118★そして、朱螺も自分の想いに気付く

しおりを挟む



 柔らかな眠りに入った蒼珠を起こさないように、ソッと甘やかな声音で囁く。

 『拾った時は 完全に打算だったのにな‥‥‥
 《魔力》が制限される この黄封砂漠を渡る為に
 人族の少年は とても好都合だった

 そして 見るからに無防備な肢体で 怯えている姿が
 私の劣情を そそったのも 事実 

 我等 魔族のことも 常識も 何も知らない
 その上で 〈入れ墨〉がありながら 実際は
 まっさらな者と知った時 激情が走った 欲しいと

 今は お前に無条件で懐かれて 縋られるのが
 とてつもなく 気持ち良い‥‥‥

 出会った時は この黄封砂漠で消耗した《魔力》と‥‥
 あの女に‥‥っ‥‥ 抉り取られた《魔石》分の
 《魔力》を補う為の糧として《契約》したのにな‥‥』

 眠りの園の住人と化した、穏やかな寝顔を見せる蒼珠の顔や躯に、口付けの雨を降らせながら、朱螺は思いを込めて聞く者のいない愛を囁く。

 『自分の置かれている現状も‥‥ 私が持ち掛けた
 《契約》の意味も まるで理解していないのを利用し
 性交渉を代価に《契約》したというのに‥‥‥‥

 何時の間にか お前に惹かれている私が ここにいる
 ほんの2‥3日 一緒に居ただけで‥‥‥
 私は お前を愛し初めてしまったようだ‥‥‥

 初めて お前を本気で愛しいと思ったのは 何時だろう?
 首筋を無防備に晒し 吸血を許諾した時は 好ましいだった
 あぁ‥ 水に触れて異形体に変異した あの時かな?

 私の 中途半端な銀鱗姿を見て 何のためらいもなく
 美しいと言ってくれた あの時 私は 初めて
 自分が 何を求めていたかを知った‥‥‥

 私は ありのままの姿の自分を 愛してくれる者を
 求めていたのだ‥‥‥

 お前は 私を愛してくれるか? 蒼珠
 異種属である‥純粋な天魔族ですらない私を‥‥‥‥』

 まるで今の朱螺の言葉にでも反応したかのように、蒼珠の両腕がユラリと空に持ちあがり、無意識に朱螺の躯の一部を求めて彷徨(さまよ)う。

 「‥しゅ‥らぁ‥‥クスクス‥‥‥き‥もち‥‥イイ‥‥」

 指先に触れた朱螺の長い髪に両腕を絡ませ、髪の束を抱き締めて、蒼珠は眠りの中で微笑(わら)う。

 『夢の中でも 私と一緒にいてくれるのか? 蒼珠
 父の種族 天魔族の者にも 母の血筋である‥‥‥

 水龍族の者にも おぞましいと疎まれた半端な姿を
 美しいと言ってくれたお前に 愛されたい‥‥‥‥

 お前を 天魔族と水龍族の 双方の性の絶技で
 かならずや 私の虜にしてやろう‥‥‥‥
 この私の庇護から離れたくないと思うように‥‥‥

 私だけを愛するように‥‥たんと甘やかしてやろう
 お前の愛を得る為ならば どんな犠牲も厭わない‥‥‥
 お前のすべてが欲しいぞ 蒼珠』

 幸せそうに自分の髪を抱え込んで眠る蒼珠に、朱螺は甘い表情で微笑みながら、愛しい者を手に入れる為の手段を考え始める。

 『今は このままで良い ‥‥ふふふふっ‥‥‥
 どんなことをしても 必ずお前の心を手に入れるぞ‥‥

 さてと自虐的な思いに浸るのは 私の趣味じゃない‥‥
 せっかく 危険を承知で 蒼珠の躯に《魔力》を含んだ

 《精》を注いだのだ まぁ‥思っていたよりも 私の
 《魔力》が充実しすぎていて‥予定より危なかったが‥‥‥

 さて 当座の間 ここで暮らす為の屋敷でも創造するか‥‥
 純粋に《魔力》で創造した屋敷では 一切の《魔力》を

 持たない者は暮らせないからな 無理をして暮らせば‥‥‥
 屋敷が放つ《魔力》の重さに耐え切れず 押し潰される

 その《生命力》を削られて どんどん衰弱して行くが‥‥‥
 私の《魔力》を含んだ《精》を注いだ蒼珠ならば‥‥‥
 少しの間は 大丈夫だろう』

 〔蒼珠は 好奇心が旺盛だから 注いだ《魔力》が
 消費されて 消える前に 再び注いでやればよい

 何度も繰り返せば いずれ《魔力》に慣れて‥‥‥
 自然界にある魔素を取り込めるようになるだろう

 蒼珠には 私の《魔力》を受け止められるだけの
 素質があることが判ったから 妙な遠慮はしない
 受け入れられる器があるのだから‥‥‥‥

 蒼珠が 私を必要(《魔力》の供給源として)と
 しなくなる前に 私の虜にする 手放すものか‥‥〕

 穏やかな寝顔を見せる蒼珠を抱き締めながら、朱螺は屋敷を構成する為の、長い呪文を詠唱し始める。

 低く高く、一定のリズムで《魔力》を編むように、創造の為の呪文を唱えながら、朱螺はさほど大きくない屋敷を短時間で作りあげる。

 出来上がった屋敷に、フッと満足げな微笑みを浮かべ、朱螺はそのまま短い空間移動の呪文を唱えて寝室へと転移する。

 その場に置き去りにされた駆竜種のゾルディは、毎度のことなので、何時も通り屋敷に作られた、自分用の小屋へと勝手に入る。

 そして、居心地を良くする為に、敷き藁を掻き寄せていた。

 完全に安全な場所で、しばらく振りの敷き藁たっぷりの小屋での休息に、ゾルディは大きな欠伸を1つして、クルリッと丸まり穏やかな眠りに入った。

 その頃、蒼珠を抱えて寝室に転移した朱螺は、巨大な天蓋付きべットに熟睡状態の蒼珠をソッと降ろしていた。

 柔らかなベットに蒼珠を寝かせ、朱螺は新たな《結界》を屋敷全体に張る。

 朱螺としても、制約の一切ない安全な場所での休息は、本当に久しぶりなのだ。
 まして、自分の《魔力》で創造した屋敷で‥‥‥‥。

 《魔石》を奪われたことによる、心と身体の傷痕が癒えきるまえに‥‥‥‥。
 失った《魔石》と《魔力》を補う為に、幻と謳われる生体武器を求めて‥‥‥‥。
 極力《魔力》を節約して、満足な休息などしていなかった朱螺は、蒼珠へと視線を向けて、無意識に微笑んだ。





しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

何も持たない僕の話

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王様の伴侶 -続・辺境村から来た少年-

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:59

無垢な少年

BL / 連載中 24h.ポイント:910pt お気に入り:123

ずっとこの恋が続きますように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:40

幻想後宮譚 叛逆の玄竜妃と黒燐の王

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

宿命の星〖完結〗

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

処理中です...