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0113★生還? 蒼珠正気になる

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 深淵へと堕ち始めた蒼珠は、最後の足掻きのように、朱螺を恋い慕いながら、その名を必死に呼ぶ。

 「‥ぅグッ‥‥‥うわぁぁあぁあぁ‥‥‥‥
 こわい‥‥くるしい‥‥堕ちる‥‥朱螺ぁぁ‥‥」

 《精》に含まれた《魔力》に侵食され、味わう苦痛に惑乱して、発狂寸前の中で、施される愛撫と、いたわりのある甘い朱螺の言葉に支えられ、蒼珠は無意識に手を伸ばす。
 朱螺に縋る為に‥‥‥‥。

 ‥つ‥らい‥よ‥‥こんなに‥朱螺に《精》を‥‥‥
 躯の最奥に‥注がれるのが‥‥‥つらいなんて‥‥‥

 朱螺の姿を受け入れたように‥‥受け入れろって‥‥‥‥
 言うけど‥‥あの銀鱗の姿は‥‥‥龍神みたいで‥‥‥
 最初から凄く綺麗で‥好きだと思った‥‥

 朱螺が俺に注いだ《精》も‥‥好きって思えばイイのか?
 細胞の1つ1つに浸透し‥‥侵食するような‥痛み‥‥‥

 ああ‥なんか‥わかった‥きっと‥行為に対する嫌悪感が‥
 あの男が‥した‥‥ことが‥‥おぞましくて‥反発して‥‥‥
 ぅぐっ‥考えるな‥いや‥朱螺のことだけ考えろ‥‥おれ‥‥

 ‥っ‥‥この《精》の放つ馴染みない‥‥異質な侵食は‥‥‥
 《精》に含まれている‥‥‥朱螺の《魔力》なのか?

 朱螺の異形な姿を受け入れたように、すべて受け入れる?
 どうやって? この直腸内の腸壁を侵す‥強烈な痛み‥‥‥
 異物感すら伴なうような‥‥細胞が侵食される苦痛‥‥‥

 でも‥‥この痛みをもたらしているのは‥朱螺の《精》‥
 朱螺の《魔力》‥‥受け入れなければ‥これは‥朱螺‥‥

 ‥‥あぁ‥そういえば‥‥魔族の女性にとっての《精》は
 体内に宿った‥我が子を育てるのに必要なエネルギーだっけ

 異質な《魔力》や《生命力》が含まれた人族とは相容れない
 濃縮された《魔力》という名の高濃度エネルギー‥‥

 この《精》に含まれた《魔力》というモノは‥《魔力》を
 保有しない‥‥人族の躯とは本来相容れないかもしれない

 でも‥朱螺のすべてを受け入れたように‥‥俺は《精》を
 いや‥そこに含まれた朱螺の‥《魔力》受け入れる‥‥‥

 これも‥‥朱螺の一部だ‥‥‥《契約》したから‥朱螺‥
 どんなに苦しくても‥俺は‥すべてを受け入れるしかない

 あの男の腕の中で‥もてあそばれて‥狂うくらいなら‥‥‥
 朱螺の腕の中で狂いたい‥たとえ‥発狂しても‥いい‥‥‥

 俺は朱螺を拒絶しない‥朱螺‥どこ? 朱螺が‥見えない
 怖いよ‥朱螺‥助けて‥‥俺を‥抱き締めて‥くれ‥‥‥

 狂気の淵を彷徨(さまよ)いながらも、朱螺の声に導かれるまま、蒼珠は呼ぶ声を頼りに、途切れそうになる意識を無理矢理繋いで、両腕を彷徨(さまよ)わせる。

 「‥しゅら‥‥どこ? 朱螺‥‥‥だ‥きしめ‥て‥‥‥
 こわい‥‥から‥‥俺を抱き締めて‥‥くらい‥‥
 深淵に沈みそうだ‥‥朱螺‥‥どこ‥たすけて‥‥」

 双眸からボロボロと涙をを零しながらも、蒼珠は朱螺を求める。

 『蒼珠 良い子だ 私はここだ お前の前にいるぞ
 戻って来い 蒼珠』

 彷徨(さまよ)わせる両腕を掴み、自分の躯にしがみつくように導く。
 両手を導かれた蒼珠は、唯一の縋る者に両腕を必死に絡めて、深淵へと堕ちかけている意識を留める。

 自分の躯にしがみついた蒼珠の躯を、朱螺も抱き締めてやる。
 その苦痛に戦慄く全身を髪で包み込み、全身に飛び散ったガラスの破片のような《精》の苦痛に晒され続けた蒼珠の精神と躯の痛みを‥‥苦痛の破片をひとつひとつ熔かしてやる。

 そして、朱螺は蒼珠の苦痛を和らけるために《朱華》を搾(しぼ)り、その果汁に持っていた酒を少しだけ混ぜる。

 空中で混ぜた《朱華》の果汁と酒を《魔力》で作りあげた器と、グラスに注ぐ。
 そして、人族の蒼珠に‥合うかどうか判らないので、魔族の酒を少量混ぜた《朱華》の果汁を口移しに飲ませる。

 コクッと喉が鳴り、蒼珠は朱螺が与えた《朱華》の果汁を飲み干す。
 と、同時に、どこかで何かが蠢くモノを感じた。
 擬音にすれば、器械のスイッチを入れた時に微かに響く、カチッという音と共に始まる稼動音だろうか?

 そんな自分の中の何かが変化したことに気付くだけの余裕が無い蒼珠は、口腔に流し込まれた美味しいモノに意識を奪われていた。

 ‥‥えっ‥とぉ‥‥‥コレ‥お酒だぁ~‥‥
 うわぁ~い‥すっごく美味しい‥‥

 甘い香りと口腔に広がる果汁と、それに含まれる酒成分の美味しさに導かれ、現金にも、狂気の淵を彷徨(さまよ)っていた蒼珠は一気に正気になる。

 「‥‥朱螺‥‥」

 完全に、与えた濃厚な《魔力》の衝撃波を乗り切ったことにホッとして、朱螺は蒼珠に向かって言う。

 『良かった 正気になったか 蒼珠 すまなかった
 初めて 私の行為を受け入れたお前に 濃い《精》を

 注ぎ過ぎたようだ‥‥‥ ここまで自分の《魔力》が
 充実していることを考慮してなかった‥‥‥‥‥

 異種族の経験の無い者にするようなことではなかった
 本来は 何度も情を交わしたあとに‥‥‥ゆっくりと

 《精》に含まれる《魔力》に慣らしながら注ぐモノを
 ‥‥急に与え過ぎた ‥‥済まなかった‥‥蒼珠

 あまりにも、急速に湧いた情欲に呑まれてしまった‥‥‥』

 朱螺の言葉に、蒼珠は震える手で、手触りの良い朱螺の髪に縋る。

 「ん‥もう‥平気だ‥朱螺の《精》を‥1回受けただけで
 あんなに衝撃を受けるとは思ってなかったから‥‥‥」

 いまだに微かに戦慄いたままの唇で言う蒼珠の躯を抱き起こし、朱螺は自分の膝の上にソッと抱えるように座らせた。






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