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0107★蒼珠、酔っ払う

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 蒼珠は《水瓜》の皮が放つ、躯に纏い付くような濃密な甘い匂いを、直接大量に深く吸い込んでしまった。
 その独特な甘い香りに取りまかれた蒼珠は、その濃厚すぎる香りにクラクラしてしまう。

 「何だぁ? ‥‥‥すけぇ~持ち良い香りだぁ~‥‥‥‥
 クスクス‥‥‥朱螺ぁ‥‥‥この《水瓜》ってぇ~‥‥‥
 匂いだけでも、甘くて凄く気持ち良くなるんだなぁ~‥‥‥」

 上機嫌で、極上の愉悦感に浸っているような、どこかうっとりした表情で、クスクス笑いを浮かべている蒼珠に、朱螺は、その事実に直ぐに気付いた。

 〔これは‥‥ もしかして‥‥‥〕

 蒼珠が自分で《水瓜》の皮を十字に引き裂いたことで放たれた、独特のあまぁ~い匂いが、躯に染み込むかのように纏わり付いたことで、酔っ払ってしまったのを‥‥。

 『ふむ‥‥《水瓜》には 人族に対して‥‥‥‥
 こういう催淫効果があるのか‥‥知らなかったな

 それとも 蒼珠が特異なのかな?
 異世界から来た人族の蒼珠には この世界の

 我々魔族が食す物に含まれる 何かに抵抗力が
 ないのかもしれんな‥‥

 その何かが催淫効果になっているというところかな?
 何にしても 面白い反応だな‥‥‥くすくす』

 蒼珠の正面に座って、蒼珠の様子を観察しながら《水瓜》を無造作に食べていた朱螺は、蒼珠の横に移動して、その香りに酔っ払ってしまった蒼珠の躯を抱き込む。

 『蒼珠 ほら 食べてごらん 美味しいぞ』

 皮を剥いた実を、伸ばした爪で食べやすい大きさに切り取り、蒼珠の口に待って行く。
 すると、蒼珠はクスクスと楽しそうに朱螺にしなだれながら、果肉を食べる為に、素直に唇を開く。

 朱螺は、開いた蒼珠の唇に、無意識にゴクリッと喉を鳴らしながら、その開かれた口腔へと一口大にした《水瓜》の果肉をポイッと入れてやる。

 口腔に放り込まれた《水瓜》の果肉を、蒼珠はためらうことなく咀嚼する。

 「うわぁ~い‥‥美味しい‥‥うぅ~ん‥‥‥
 この噛みごたえもイイ‥‥朱螺‥もっとぉ~‥‥‥」

 《水瓜》の放つ、甘ったるい独特な香りに酔っ払い、マタタビを食らった猫と化した蒼珠は、朱螺の胸元に、ご機嫌でスリスリと頭を擦り付けて懐く。
 朱螺は、蒼珠に懐かれる心地よさに酔う。

 『ほら まだまだあるぞ 口を開け』

 朱螺に言われて、素直に開いた蒼珠の口腔へと《水瓜》を入れてやる。
 モギュモギュと、幸せそうに口に入れられた《水瓜》の果肉を食べる蒼珠の頭を撫で、その少し長めの髪を梳いてやる。

 朱螺に撫でられることが意外に心地よいらしく、蒼珠は双眸をうっとりと細めて、喉を鳴らす猫のような仕草で、朱螺の胸に再び擦り付く。

 幼い頃から他人に甘えることを拒み、自分に自制を強いて来た蒼珠は、初めて強い者に庇護される立場に溺れた。
 ずっと、父親という名の一家の大黒柱というモノが存在しなかった蒼珠にとって、初めて味わう安堵感であった。

 胸に擦り付いて、クスクスと幸せそうに笑っている蒼珠に、朱螺は悪戯心から《朱華》を手渡してやる。

 『ほら 今度は赤い実だ』

 「‥‥うん‥‥」

 先刻、朱螺の説明に取り落とした《朱華》に、なんの疑問も疑いも持たず、一瞬のためらいもなく、蒼珠は《朱華》にかぶりつく。

 「わぁ~い‥‥-おっきな苺だぁ~‥‥あれ? でも
 なんで丸いんだぁ? ‥新製品? 今年の新種?
 でも、果汁いっぱいで美味しいぃぃ~‥‥‥」

 口腔いっぱいに広がる苺味に、蒼珠は夢中になる。
 《水瓜》の催淫効果のセイで、判断能力が極端に落ちている蒼珠は、果汁で濡れた手をペロペロと舐めてから、朱螺の耳に無造作に触れる。
    
 そして、今は普通の状態に戻っている手触りに、蒼珠は至極残念そうに呟く。

 「なぁ~んだぁ‥もう、戻っちゃってるのかぁ‥残念‥‥
 すっげぇ~‥‥‥気持ち良い手触りなのに‥‥あぁ‥‥
 そうだ‥朱螺って水龍族の血を引くって言ってたよねぇ‥‥
 だから、水に入ると銀鱗が浮かぶって‥‥‥」

 酔っ払い特有の脈絡の無い問いと行動に、朱螺は蒼珠が何を言いたいか理解しかねるが‥‥‥‥。

 『ああ そうだが それがどうかしたか? 蒼珠?』

 よりスキンシップを好むかのように、蒼珠は朱螺の真紅の髪に両手を絡めて言う。

 「‥んぅ~‥‥髪の感触も‥気持ちイイ‥なぁ~‥‥‥
 水龍族の特性を持ってる朱螺は‥‥朱螺にもぉ‥‥‥
 【逆鱗】ってあるのかぁ?
 あはっ‥‥これって、気持ち良い‥‥‥」

 髪先で蒼珠の躯を包み込み、緩やかな愛撫を施しながら、朱螺は蒼珠の質問を聞き返す。

 『‥‥蒼珠‥‥【逆鱗】? ‥‥とは 何だ?』

 朱螺の問いに、蒼珠は朱螺に抱き着いたまま、聞いたことのある話しを口にする。

 「‥‥えっとぉ~‥‥‥‥俺達の方の伝説でぇ~‥‥‥
 龍って呼ばれる種族がいて‥‥その喉の部分にぃ‥‥‥

 1枚一枝だけ‥逆さに生える鱗があるて言われてるんだぁ

 その【逆鱗】と呼ばれている鱗を触られると‥‥ねぇ‥‥
 どんなに普段おとなしい龍でもぉ‥‥その場にいるぅ‥‥

 生き物すべてをぉ‥‥殺し尽くすまでぇ‥暴れるってぇ‥‥‥
 伝説があるんだぁ‥‥‥一瞬でぇ‥暴龍ンなるんだって‥‥‥」

 酔っ払ってしまった為、少し舌っ足らずのような口調でそう蒼珠を抱き締め、朱螺はちょっと考え込む。
 が、その沈黙する朱螺に不安を感じた蒼珠は、朱螺の首筋に抱き着いていた腕を外して小首を傾げる。

 「朱螺ぁ~‥‥もしかしてぇ‥‥‥怒ったのぉ‥‥」

 そう言ってうなだれる蒼珠に、朱螺は首を振る。

 『いや そういう話しを 私も 子供の頃に聞いた
 ような気がする そうか‥ アレは 龍種族の話し
 だったのか‥‥‥【逆鱗】か‥‥‥

 水龍族の血筋を引き 水に触れると銀鱗が浮かぶ
 私にも ソレ(=【逆鱗】)はあるのだろうか?』

 朱螺の言葉に、蒼珠も愛らしく首を傾げた。





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