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0104★色々な水中果の採取

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 「うん、どうせなら《翠桃》も、探して
 食べてみいたいな」

 『それじゃ もう少しだけ探してみよう』

 そう言って、朱螺は再び真紅の髪を広けて泳ぎ出す。
 優美に泳ぐ朱螺の姿にうっとりしながら、蒼珠も水底を見回す。
 呼吸を止めて泳ぐという労力がないので、蒼珠は丹念に辺りを見回した。

 水中での視力は、地上での通常の状態よりかなり良い朱螺は、水底に広がる藻のようなモノを見つけて、そこに向かう。

 『蒼珠 あったぞ ほら これが《翠桃》だ
 幾つ欲しい?』

 朱螺の質問に、蒼珠は逆に問う。

 「ここを、すぐに出発するのか? 朱螺‥‥‥
 それとも、少しの間、ここに滞在する?」

 蒼珠の質問に、現在とりわけ急がなければならない理由がない朱螺は、微笑(わら)って答える。

 『急がなければならないわけじゃないしな
 もう少し お前の体調が回復するまで ここに
 滞在するのも一興だな なに 時間はある
 しばらく このオアシスに滞在しよう』

 朱螺の答えに、蒼珠はちょっと考えてから答える。

 「‥‥じゃあ‥俺は‥2つ欲しいな‥
 美味しくて、もう1つって言うかも知れないから
 ‥‥朱螺はどうするの?」

 『そうだな 熟れていそうなモノを‥‥‥‥
 私も 2つ 3つ 待って行くかな』

 そう言いながら、何も持っていない真紅の髪先を《翠桃》に延ばし、朱螺はよく熟れていそうなモノを六つほどもぎ取った。

 『六つもあれば良かろう』

 朱螺が《翠桃》をもぎ取ったのを確認した蒼珠は、別のモノを見つけて問う。

 「‥‥ぅん? ‥‥朱螺ぁ‥‥あそこの‥‥‥
 水底の砂の上を這うようにしてる植物は?」

 蒼珠に聞かれた朱螺は、蒼珠が指さすモノを探す。

 と、直ぐ側に、たしかに砂の上を這うように別種の水中植物を見つけて、そちらに近寄る。

 見るからに大きなカボチャの葉のようなモノの陰に、リンゴ並の大きさで、濃い赤紫色の真ん丸な苺のようなモノが鎮座していた。

 「‥水中で‥‥‥もしかして‥イチゴ?
 ‥‥リンゴ並に大きい真ん丸な苺かな?」 

 蒼珠の言葉に、朱螺は問う。

 『蒼珠の方にもあるのか?』

 「いや、水溶栽培ってのはあるけどぉ‥‥
 水中栽培はないと思う‥‥だいいち‥‥‥

 苺って、こんな風には生ってないはずだけど
 こんなカボチャみたいな葉っぱじゃないしぃ‥‥

 でも、見るからに真ん丸なだけの、粒の大きな
 苺に見えるんだけど‥‥食べれるの?」

 蒼珠の問いに、朱螺は優しい表情で頷く。

 『ああ これも珍しい類いだ この世界では
 これは《朱華》と呼ばれている

 ここは 水中果(すいちゅうか)の珍味の宝庫だな
 これも 少し採取していこう』

 そう言いながら、やはり何も持っていない真紅の髪先を《朱華》に延ばし、朱螺は熟れていそうなモノを、さきほどと同じように六つほどもぎ取る。

 「けっこう、食べれる果物が採れたなぁ‥‥‥‥
 マジで‥この湖、食べ物の宝庫じゃん‥‥‥」

 そう言いながら、蒼珠はゆっくりと辺りを見回す。

 それにしても、魚影らしきモンが全然無いって
 流石に、おかしくねぇ? もしかして不味い?

 目的のモノ(水中果実)を手に入れたんだから
 ここは、早く湖から出るのが正解だよな

 蒼珠の感じている不安を察したよう、朱螺は言う。

 『そうだな 人族のお前が食べられそうなモノが
 あって良かった
 これだけあれば 明日の朝も食べられるな
 そろそろ陸地に戻ろう』

 なんとなくの不安感に、蒼珠は朱螺の提案にコクコクと頷く。

 「うん‥‥手に入れたいモンは手にいれたから
 ‥‥早く上がって‥‥‥食べてみたい‥‥‥」

 空腹感を思い出した蒼珠は、朱螺の髪先にある水中果達を見て‥‥‥‥

 「くすくす‥‥‥どれから味見しようかなぁ‥‥」

 そう呟いて、喜々としている蒼珠に、朱螺は微笑む。

 『では ゾルディのいる場所まで戻って
 ゆっくりと食べようか‥‥‥』

 そう言った朱螺は、蒼珠の入った《結界》を真紅の髪で丁寧に包み込み、何か蒼珠に理解らない呪文を唱えた。

 その次の瞬間には、蒼珠は朱螺の腕の中で、ゾルディが丸まって休んでいる場所にいた。

 うわぁ~‥‥これって‥瞬間移動? ってヤツ‥‥
 すっげぇ《魔力》ってこういう風に使うモンなんだぁ

 びっくりした表情で絶句している蒼珠に、朱螺は不安げに問う。

 『どうした? やはり びっくりしたか?
 その‥‥こういうのは‥‥嫌いか?』

 驚きで沈黙する蒼珠に、朱螺は怖かったか?とは聞けなかった。

 「えっ‥あぁ‥ただ単に、突然ゾルディの側に
 出たから、びっくりしただけだ‥《魔力》って

 あると、すっけぇ~便利なモンなんだなぁ‥‥‥‥
 俺も《魔力》が使えたら良いのに‥‥思った場所に
 簡単に移動出来るなんて良いなぁ~‥‥‥」

 純粋に感心している蒼珠に、朱螺はクスクスと微笑って首を振った。




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