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0103★水中の果実

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 はたから見たら、べたべたのカップルのようなことをしている自覚のない蒼珠は、朱螺のヒラヒラと動く耳に、再び視線を釣られながら答える。

 「うん‥‥それで良いよ‥朱螺の側に居たい‥‥
 独りで、朱螺が帰って来るのを待つのはイヤだ」

 蒼珠の甘えを含んだ言葉に、朱螺は胸の内に何か暖かいモノを感じて、再び無意識に微笑む。

 『それじゃ 向こうを探して見るか?』

 まだ、確認していない辺りを指差す朱螺に、蒼珠はコクコクする。

 「うん」

 朱螺は、嬉しそうな蒼珠を、球形の《結界》に入れて、側に連れたまま水中に潜った。
 真紅の髪で《結界》を支えながら、再び湖の底辺を緩やかに泳ぎ始める。

 うわぁ~‥‥長い真紅の髪を、水中に広けて
 ヒラヒささせながら泳ぐ朱螺の姿って‥‥‥‥
 モロに人魚みたいだぁ~‥‥‥

 蒼珠の感想など知らずに、朱螺は水底スレスレを泳ぎながら、砂の中にいるモノも探す。

 『‥この湖には‥‥』

 そう言いかけた朱螺に、遠くを見ていた蒼珠が問う。

 「‥‥ねぇ‥‥朱螺ぁ‥‥あっちにの方の湖底に
 なんか生えてる見たいだけど、アレってなに?」

 そう蒼珠に聞かれて振り返った朱螺は、蒼珠の指さした方向に、水中樹があるのを知る。

 『あれは‥‥水中樹だな‥‥‥珍しいな
 これは 水中花の果実 《翠桃》よりも
 美味しい果実が手に入るかもしれんな』

 朱螺の言葉に、蒼珠は好奇心を示す。

 「行ってみようよ‥‥何かあるかも‥‥」

 『そうだな』

 蒼珠の促しに、朱螺は頷いて水中樹へと向かう。

 そして、近寄って初めて判る大きさに、朱螺すら感嘆の声を上げる。

 『ほぉ~‥大きいな こんなに巨大な水中樹を
 見るのは 私も初めてだ

 大概は この半分にも満たない大きさだ‥‥‥‥

 しかし この黄封砂漠に存在するモノは‥‥‥
 どれも桁外れに大きい サンドワームに水中樹

 となると この水中に 何か生き物がいた場合
 かなりの大きさだろうから 警戒は怠らない方が良いな」

 辺りに危険な生物が潜んでいないかを警戒しながら、朱螺は、水中樹のたわわに実る果実のどれがよく熟しているかを、触手のように延ばした髪先で調べる。

 朱螺の長い髪の先端は、まさしく触手と言って良いモノなので、実際の手のひらよりも、詳しく対象物を調べることが出来るのだ。

 そう、朱螺は蒼珠の為に、美味しく食べられるだけ熟したモノがあるかを探しているのだ。

 蒼珠は、その水中樹の雄々しい姿に圧倒され、朱螺の言葉の半分以降を、まるっきり聞いていなかった。

 湖底にどっしりと根を張り、水中という空間に、たわわに実る水中樹。
 その果実が実っている水中樹の姿に、蒼珠は首を傾げる。

 そう、そのあまりにも見慣れた、縞柄模様の果実の姿に‥‥‥‥。

 えっとぉ~‥‥西瓜‥スイカだよな‥が、たわわに‥‥‥
 枝先に、垂れ下がるように実ってる? ‥って、あれ?

 たしか西瓜って、地面に蔓を這わせて生るンだよなぁ?
 西瓜‥いや、こう言う場合は、たぶん《水瓜》かな?

 水中の樹になっているから、単純にそう思ったけど‥‥
 どんな味がするんだろう? 美味しいのかなぁ?

 「朱螺ぁ‥これって、何て言うの?」

 蒼珠の質問に、幾つか良く熟れた物を選び出した朱螺が答える。

 『これか‥‥これは《水瓜》と呼ばれるモノだ
 水が冷たくて 水質が綺麗な湖や泉でしか採れない

 かなり珍しい物だぞ 少し採取していくか?
 充分に 熟れている果実があるぞ』

 わぁ~い‥‥ビンゴだぁ~‥‥やっぱり‥‥‥
 《水瓜》って言うンだぁ‥‥‥‥

 予想通りの答えに、蒼珠はにっこり笑いながら朱螺に聞く。

 「いる‥‥‥俺にも食べられると良いな」

 『たぶん 大丈夫だろう 水中花の《翠桃》と
 同じくらい人気の高い水の果実だ』

 「へぇ~‥‥‥じゃあ、もしかして‥‥バザール‥‥
 とかで、買ったりしたら、けっこう高いモノなの?」

 蒼珠の問いに、朱螺は頷く。

 『ああ 普通に買うと かなり高い物だな
 だから この果実は高く売れる

 なにせ 属性が水系の魔族にしか採取出来ない
 果実だからな けっこう貴重な果実だな』

 「そっかぁ~‥‥じゃ‥すっごい得したな
 朱螺が水系で良かった」

 蒼珠が嬉しそうに喜ぶ姿に、この時ばかりは、自分が水龍族の血筋を引いていて良かったと思う朱螺だった。

 「なぁ‥朱螺ぁ‥‥もう少し探す?
 それとも、1度上がるかぁ?」

 蒼珠の問いに、朱螺は延ばした髪先で選び出した水中樹の果実をもぎ取り、真紅の髪で《水瓜》を持ちながら、蒼珠を振り返る。

 『そうだな どうしようか?
 どうせならば《翠桃》も お前に食べさせたいし‥‥
 もう少しだけ 何か無いか探してみるか?
 この湖は広いから どこかにあるかもしれないしな』

 朱螺の言葉に《翠桃》にも、かなり未練があった蒼珠は頷いた。





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