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0101★異形美?

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 蒼珠の態度が、銀鱗を見る前となんら変わらないことにホッとしながら、朱螺は柔らかな声と言葉で、つい言い訳をしてしまう。

 『すまぬな あまり このような姿を 蒼珠に
 見せたくなかったんでな‥‥‥』

 そう言いながら、朱螺も蒼珠同様、水面に広げた自分の真紅の髪の上に乗り、蒼珠の視線の高さに合わせる為に座り込む。
 隣に座り込んだ朱螺の言葉に、蒼珠は首を傾ける。

 「‥‥? ‥何が? ‥‥‥」

 蒼珠のなにもわかっていないらしい問いに、朱螺は静かに双眸を閉じて言う。

 『‥‥っ‥‥ この銀鱗が躯に浮かぶ状態は‥‥‥
 仲魔の天魔族の者でも嫌がる姿なのだ

 まして、お前は人族‥‥‥それも、我々のような
 異形の姿を持つ者が存在しないような‥‥‥‥
 異世界から来た者だ

 このような醜い姿を見たら‥‥と思ったらな‥‥‥
 水に触れると‥‥どうしてもこの姿になってしまう

 それに、水中花の果実でも有ればと思ったのだが‥‥‥』

 朱螺の言葉に、岸辺に置いていかれ、自分の〈入れ墨〉の変化にワタフタしていた蒼珠は首を傾ける。

 朱螺ってば、そんなことを気にしてたのかぁ‥‥‥‥
 仲魔でも嫌われる姿ねぇ‥‥‥‥

 マジで、綺麗な姿だと思うんだけど‥‥‥
 俺とは、天魔族の人達って美的感覚が違うのかな?

 とにかく、朱螺が銀鱗のことを気にしてるなら‥‥‥‥
 あまり姿については口にしない方が良いな‥‥‥

 ちょっと‥‥いや、かなり‥‥興味あるけどさ‥‥‥

 それよりも、水中花ってなに? 綺麗な花なのかな?
 わくわくするな‥‥どんな果実が実るんだろう?
 どんな‥‥‥美味しいモノなのかな?

 まだ見つかってないなら、一緒に探せばいいんだし‥‥‥
 ‥‥って、俺は長く水中にいられないんだよなぁ‥‥‥‥

 「その‥水中花とかいうモノの果実‥無かったんだ」

 蒼珠の確認の言葉に、朱螺は素直に頷く。

 〔蒼珠は、この銀鱗が浮かぶ姿を嫌悪していない?
 と、いうよりは、他に興味が向いているようだな

 負の感情の苦味を帯びた《情波》は感じられない‥‥‥
 蒼珠に、そういう意味での‥感情の揺れがない‥‥‥‥
 ということは‥本当に、この姿は嫌われていない?〕

 普通の態度のままの蒼珠に、朱螺は内心でかなりホッとしながらも、残念そうに頷く。

 『ああ‥‥この湖には、無いかもしれんな‥‥‥
 ‥‥‥残念だ‥‥‥水中に咲く花の実で‥‥‥‥
 《翠桃》と言って 甘い果実なんだが‥‥‥

 人族の蒼珠でも 食べられるかな? と 思ってな
 とりあえず その辺を探して見たんだが』

 すいとう‥ねぇ‥すいって水? それとも、翠かな?
 とうは糖? 桃? 果実系ならそういう漢字かな?

 「なぁ‥その《翠桃》って、どんな字を書くんだ?
 でもって、どんな形してるの?」

 蒼珠の問いに、朱螺は蒼珠の眼前に水の塊で作った《水珠》を浮かべて、その色彩と文字を同時に映し出す。
 ちなみに《水珠》は文字の通り、水で水晶珠のようなモノを作ることをいう。

 『こういうモノだ 字はこう書く《翠桃》』

 あっ‥‥やっぱり‥‥翠色の桃ってことか
 味も、桃に近いモノなのかな?
 だったら、きっと美味しいに違いない

 《水珠》に映し出されたモノを見た蒼珠は、その《翠桃》を食べて見たいと思った。
 その見た目は、巨大な桃で、色合いは薄い緑色をしていた。

 「翡翠色って、こういうの言うんだろうなぁ‥‥‥‥
 綺麗な果実なんだ‥‥」

 食べてみたいという言葉を飲み込んだ蒼珠に、朱螺は優しく微笑む。

 『では もう少し探してみるか?
 まだ あちらの方は探してないしな‥‥』

 一瞬諦めようかと悩んだが、朱螺の言葉に、蒼珠は嬉しそうに、コクコクする。

 「俺も一緒に行きたい‥‥‥‥だめ?」

 縋るように問う蒼珠に、朱螺は視線を伏せたまま問う。

 『‥‥‥蒼珠‥‥‥イヤではないか?
 このような姿の私の側にいるのは‥‥‥』

 朱螺の水中での姿を美しいと思っている蒼珠には、朱螺がこだわる意味がイマイチどころか、かなり理解出来ていなかった。

 えぇ~とぉ‥何か言ってあげた方が良いのかな?
 俺としては、朱螺の銀鱗がある姿って、かな~り
 綺麗だと思うんだけど‥‥

 その姿を恥じ入るようにうつむく朱螺に、蒼珠は言葉を飾らずに、思ったことを、そのままあっさりと口にする。

 「えっとぉ‥なんて言ったら言いか判らないけど‥‥
 俺達が崇める身近な神様の1人で‥水神なんだけど‥

 龍って呼ばれてる、想像上の幻獣? いや、神獣かな?
 なんだけど‥人化すると朱螺みたいなイメージかな?

 だから、朱螺のお母さんの血筋‥‥え一と、水龍族って‥‥
 ‥まるっきり、龍神そのままの姿なんだぜ‥‥‥

 ウチじゃ神様の姿だから‥‥嫌悪感なんてないよ‥‥
 朱螺のコレも綺麗だし‥‥銀鱗のある蛇系の姿って‥
 俺は、けっこう好きな姿だぜ‥‥‥」

 そう言いながら、ガラス細工のような耳に手を伸ばしてから、蒼珠はハッとして空中で手を止める。

 え~とぉ~‥あれ? 耳って敏感な部分だっけか?
 流石に、不用意に、耳に触ったりしたら‥‥‥‥
 やっぱり‥‥不味いかな?

 すげぇ~綺麗だから、いじってみたいんだけど‥‥‥
 それでも‥不用意に耳に触るのは不味いよなぁ‥‥‥

 触る直前に、そのことに気付き、蒼珠は逡巡(しゅんじゅん)する。




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