悪戯な運命の女神は、無慈悲な【運命の糸】を紡ぐ

0093★《魔石》は増えるの？

　〔さて　困ったな
　そういう事例は　聞いたことがない
　書物の中にも　見たことがないな
　私の場合　特殊すぎて‥‥‥‥〕

　少し考えてから、自分の知識の中にも、そういう事例などが無いことを確認し、朱螺は蒼珠に向かって言う。

　『そういう話しは　見たことも聞いたこともない
　だから　どうなるかは　判らないな
　その時の状況にもよるだろうしな』

　首を傾げた朱螺に、蒼珠はオウムのように復唱する。

　「状況？」

　『そう　状況だ‥‥‥　例えばだ
　私から抉り盗られた《魔石》を手に

　誰かが　私を支配しようとしたとしよう

　その時　私に《名付け》た者　この場合は蒼珠だな
　が　私に《名付け》た時の意味を込めて‥‥‥‥

　私に《契約》の名の下に命令すれば‥‥‥‥
　たぶん　蒼珠の命令が優先されるだろう』

　「そうなのか？」

　『優先順位と呪縛力を考えるとな
　《真名》が持つ呪縛と《契約》が持つ呪力は
　どちらも　かなり強いからな

　呪縛と呪力の双方が持つ《力》の相乗効果で
　蒼珠が私を呼ぶなら　《魔石》の呪縛を振り切って
　お前の方に応えるだろう

　まぁ　もしも　そういうことがあったならの
　話しだがな‥‥もし　そんなことになったら‥‥‥

　蒼珠を危険に晒すことになるから‥‥‥
　そんなことにはなって欲しくないな‥‥
　蒼珠を魔族同士の争いになど巻き込みたくない』

　朱螺の言葉に、双眸をパチパチさせた蒼珠は更に問う。

　「え～とぉ‥‥それじゃ‥今度は、別の質間な
　《魔石》って、誕生した時に数が決まるの？

　それとも、年を経て《魔力》が増大したりして
　体内に新しく出来るモノなの？

　それと‥《雌珠》や《魔石》って
　人族にも、そんなに簡単に扱えるモノなの？

　前に、魔族の血肉を喰らう、人族がいるって
　言ってたけどさ
　実際には、どういう風になるの？」

　純粋な疑問だろうソレに、朱螺は双眸の瞳にチラリと真紅を灯らせながらも応える。

　『《魔石》は　この世に誕生した時には
　既に体内に存在していて《魔石》が
　後から　増えることはない

　ただ《魔力》の増大で《魔石》の大きさや
　色は変化すると聞いている』

　「ふ～ん‥‥‥《魔力》とか増えて
　色とか大きさとかは変化するけど

　取られたらそれっきりなのか‥‥
　新しい《魔石》は体内で出来ないんだ」

　かなりガッカリした様子で言う蒼珠に、朱螺は苦笑する。
　蒼珠が、なにを知りたかったかをさとり、自分の危機感が取り越し苦労であることを実感しつつ、一応は言う。

　『抉り盗られた《魔石》が　体内で新しく
　もう一度出来るとは聞いてないな』

　トドメの言葉に、蒼珠は溜め息をこぼれ落とす。

　「そっかぁ‥‥じゃあ‥朱螺の盗られた《魔石》は
　もう、戻らないんだ‥‥‥残念だな‥‥

　それじゃ、頑張って生体武器を身に着けて
　《魔石》を取り戻さなきゃならないじゃん」

　蒼珠の優しさに、朱螺は微苦笑を漏らして言う。

　『あぁ‥‥残念だ‥が‥‥今は　生体式器を
　手に入れることを優先するしかない‥‥‥

　それでも　同じ魔族に属した者に奪われたのは
　まだ幸いなのだ‥‥‥

　子供の頃に聞いた話しだがな‥‥‥‥

　人族‥‥ごく稀に人間族‥‥の者に捕らわれると
　最初に《魔力》の源となる《魔石》を抉り採り

　その者の《魔石》で《真名》を奪い盗り
　抵抗出来ないように　呪縛した上で

　生きながら貪（むさぼ）り喰われる     
 ‥‥と聞いている

　そして　血肉を生きたまま喰らった者は
　喰われた者が有していた《魔力》や《魔石》を
　自在に使えるようになると言われている‥‥‥』

　言い淀む朱螺の話しをぶった切るように、蒼珠はものすごぉ～く厭そうに言う。

　「‥‥げろぉ～‥‥‥生きたまま喰うのかぁ‥‥
　そういう人達とは　出来る限りお付き合いなんて
　したくないなぁ‥‥‥‥

　そういう人達が存在しない村とかってあるのかなぁ？
　そういうの知ってる？　朱螺
　そういう場所があるって聞いたことある？」

　やだなぁ‥‥あの２人が、執拗に追われてた‥‥‥
　あそこの村も、きっとそうだったんだ‥近寄るまい

　いかにも厭そうに言う蒼珠に、朱螺は自分が懸念していたことを失笑する。

　〔本当に　蒼珠は　種族が違うな
　この世界の人族の性格と　かなり異なる〕

　「ぅん？　なに？　なに？　俺、何か
　朱螺が笑うようなこと言ったかぁ？」

　朱螺の失笑を見た蒼珠は、朱螺の首筋に両腕を絡めながら問う。
　そんな蒼珠に、朱螺は優しい微笑みを浮かべた。