悪戯な運命の女神は、無慈悲な【運命の糸】を紡ぐ

0091★魔族と人族の違い

　蒼珠は、指先に違和感がなくなり、普通の皮膚へと変化したのを確認してから、自分の手を上から押さえている朱螺へと呼びかける。
　とうぜん、疑問を含んだ声で‥‥‥‥。

　「朱螺？」

　その蒼珠の呼びかけに応えるように、朱螺はずっと閉じたままだった双眸を開く。
　何時もの優しい瞳が現れ、蒼珠はほっとする。

　〔さて　どう言おうか？　私にも予想外のことで‥‥‥
　まさか　勝手に　《魔石》が体外に飛び出るとはな〕

　蒼珠の手のひらへと、自らの意思で舞い落ちた《魔石》の説明をどうしようかと思ったが、１番ありきたりな理由を口にする。

　『くすくす　蒼珠　済まなかった
　ちょっとだけ　驚かすつもりだったのに
　かなりびっくりさせてしまったようだな
　それで　どうだった？　私の《魔石》は？』

　朱螺からの言葉に、蒼珠は素直な感想をもらす。

　「どうって、マジで綺麗だったぜ
　女じゃないから、アクセサリーに欲しい
　っては言わないけどさ‥‥‥

　でも、あんな悪戯は危険だぞ‥‥
　俺に《魔石》が欲しいって欲望がないから良いけど
　‥‥‥もしもってこともあるんだからな」

　その言動から、すっかり悪戯だと思っている蒼珠に、朱螺は苦笑して言う。

　『お前が安全だと理解（わか）っていたから
　悪戯したんだ　もう　あんなことはしないよ』

　悪びれもなくそう言う朱螺に、神護はちょっと不審そうにしながら、念押しする。

　「絶対だぞ。俺、びっくりしたんだからな」

　そう朱螺に言いながら、蒼珠はデジャヴを感じて、忙しなく思考をめぐらせる。

　‥‥っ‥‥そうだ‥‥‥たしか‥‥前にも
　こんなことあったよなぁ‥‥触ったら‥‥
　そう‥ポロッ‥て‥‥‥あれは‥ここに‥‥
　この異世界に初めて堕ちた時‥‥‥‥

　困惑顔で沈黙する蒼珠に、朱螺は雰囲気を変える為に、直前まで話していた話しに戻す。

　『まぁ‥《魔石》については　こんなモンだ
　あとは女の腹から採れる《雌珠》だが‥‥‥‥

　これは　魔族の女の腹からしか獲れない

　魔族の女の腹から抉ったモノを
　別の種族の女の腹に突っ込み
　子供を生ませたりすることが出来る

　例えば《雌珠》がひとつきりで
　出産するのも一度きりで　子供も
　かならず　１人しか産まないような
　種族の女でもな‥‥‥』

　「ふ～ん、そういうモノなんだぁ‥‥‥
　《雌珠》は女の腹にしか存在しないモノなんだ

　でも、他人から奪った《雌珠》を
　別の女性の腹に入れたりするの？」

　蒼珠の興味が、自分の額から飛び出した《魔石》から《雌珠》に移ってくれたので、内心でホッとしながら、説明を続ける。

　『ああ　よくあることだ　生ませたい女の腹に
　別の女から奪った《雌珠》を突っ込んで

　新たに子供を産ませることも出来るから
　この《雌珠》の奪い合いがあったりするな‥‥‥ 

　「そういうモノなのか？」

　『ああ　この《雌珠》があれば　何度でも‥‥‥
　滅ぶ直前の種族でも　女と男が１人づつ居れば
　種族の復活も簡単に出来るからな』

　朱螺の説明に、蒼珠は考え込む。

　ふむ、朱螺の説明だと《魔石》って
　《魔力》の結晶化した塊だって言うけど‥‥

　それって、人間‥もとい、人族の結石みたいに
　体内に出来るモンなのかなぁ？

　そんなの体内に出来ると‥辛いだけだけど‥‥
　魔族には、そんな感覚‥痛覚とかないのかな？

　‥って言うか《魔石》って産まれた時から
　待ってるモノなのかなぁ？

　それとも、年や《魔力》の増大と共に、体内に
　出来るモノなのかなぁ？

　‥どっちなんだろう？
　それとも、別のなにかあるのかなぁ？

　それに《雌珠》っていうヤツもよく
　理解（わか）ンねぇ～‥‥‥‥

　子供を作れるって言うなら
　子宮みたいなモノなのかな？

　頭をウニウニさせていた蒼珠は、朱螺の説明に、よく理解（わか）らないという顔のままで、新たな疑問で頭はいっぱいになってしまった。

　蒼珠は、取り敢えず、たった今浮かんだ疑問を優先して聞く。

　「なぁ‥朱螺‥‥‥その《雌珠》ってさぁ
　人間‥じゃなくて、人族の女性の子宮と
　同じような役目を持ったモノなのか？
　その《雌珠》って、一度しか使えないの？」

　蒼珠の質問に、朱螺は頷く。

　『そうだ《雌珠》は　一回の出産で砕け散る
　だから　使用出来るのは一度きりだ』 

　朱螺の説明に、蒼珠は魔族の女性の子宮は、人間の女性が持つ子宮のように内膜が剥がれて、何度も生殖機能として再生するモノではないことを理解するのだった。

　そっかー‥‥‥《魔力》のセイなのかな？
　そういう種族的な違いがあるんだぁ‥‥‥