上 下
85 / 183

0084★朱螺の気遣いと蒼珠の打算?

しおりを挟む



 蒼珠は、嬉々として、朱螺の腕に無意識に縋りながら言う。

 「うん‥‥水浴びしたい‥ずっと裸のままだし‥‥‥
 汗くらい流したい‥‥‥砂塵もけっこう被ったしさ‥‥‥
 朱螺は、水浴びとかしないの? もしかして 水嫌い?」

 喜々として、どっちに行けば湖が在るの?と聞きながら、蒼珠は更に朱螺に問う。

 〔さて どこまで 私のことを 話したら良いのか?
 蒼珠には あまり嘘は言いたくない だが 私の本来の姿は
 他人に好まれるような姿では無い〕

 朱螺は、切ない思いを押し殺し、穏やかな口調で蒼珠の質問に答える。

 『いや 私も水浴びはするぞ
 私は純粋な 天魔族ではないのでな

 母か水龍族の血筋の者だったので 水は好きだな
 人族は あまり水浴びしないと聞いていたので
 ちょっとびっくりしただけだ』

 朱螺の言葉に、蒼珠は無意識に眉をひそめる。

 ふ~ん、こっちの人族って、あまり水浴びしないんだ
 うわぁ~‥やだなぁ‥‥かなり不潔かも‥‥‥‥
 マジで、世界や種族違うって感じるなぁ‥‥俺‥‥‥

 もしも、あっちの世界に帰れなくて‥‥‥‥
 このままこっちで暮らすことになったら‥‥‥
 こっちの人族に紛れて生活するの大変そうだな


 「朱螺‥‥俺は、違う世界から来たんだぜ
 俺達は、水が好きな種族なんだ

 朝シャン‥‥え~と‥‥シャワー‥‥‥‥
 温水で、細かく水が出るヤツな‥‥‥

 それで、毎朝・毎晩入ってるんだせ
 時間があれば、昼にだって入るし‥‥‥

 第一、俺が生まれ育った国は、   
 すべて海に囲まれている島国で‥‥‥‥
 海洋民族って呼ばれているくらいだぜ」

 蒼珠の答えに、朱螺は肩を竦める。

 「そうだったな 蒼珠は人族と言っても
 まるっきり違う場所から来た者だったな
 つい失念してしまう

 それじゃ 湖に案内してやろう
 こっちだ‥‥おいで‥‥‥‥‥』

 朱螺に、おいでと手招きされた蒼珠は、なにを疑うこともなく、現在最も一番安全な場所である朱螺の腕に縋りつきなおす。

 砂漠の中のオアシスに、危険は付きモノ。

 水を求めて集まる草食獣と、それを狙う肉食獣は、どの世界でもきっと共通だろう。
 辺りに、どのようなモノが潜んでいるか判らない、今。

 現在の蒼珠は、この異世界で生きる為の基礎的な知識のひとつもなく、自らの身を守るための武器すら持っていなかった。

 身を護る術すら待たない、無力な蒼珠が出来ることと言ったら‥‥‥。
 《契約》と言う名の下に‥‥‥自分を護ってくれる、朱螺に縋り付くことぐらいであった。

 「こうやって、右腕に抱き着くのは不味い?
 行動に支障でる? 右腕より、左腕の方が良い?

 それとも、腕に縋り付くのは不味い?
 やっぱり‥とっさの時に、行動に支障が出るかな?

 あっ‥‥朱螺って、どっちが利き腕なんだ?」

 蒼珠からの問いに、朱螺はクスクスと微笑(わら)って、蒼珠を自分の方に抱き寄せ、ひょいっと抱き上げる。

 『そんな心配をする必要はない
 ここは 制約の空白地帯だからな

 自由に《魔力》が使える
 それと 私は両手利きだから‥‥‥‥
 どちらに縋られても支障はないぞ

 クスクス‥‥だが やはり コレの方が良い
 お前を抱き締めていると 一番実感出来るからな

 しかし‥‥流石に 血を吸い過ぎたセイで
 まだまだ顔色が悪いな

 私も もう少し加減を覚えないとな‥‥
 もっとも そうそうお前の血を啜るような
 窮地に 陥るとは思いたくはないがな‥‥‥

 吸血は お前の負担になる‥‥‥
 私は ひどくお前を気に入ってる‥‥

 たぶん 恋愛とは違うだろうけど‥‥
 蒼珠を大事にしたいと思うぞ』

 朱螺に抱き上げられた蒼珠は、その首に両腕を回して、躯を安定させる為に縋り付きながら、そのいたわりある言葉と行動に、つい比べてしまう。

 はぁぁぁ~‥‥‥‥朱螺みたいに、こうやって
 あの男も、俺をこうやっていたわってくれるならば
 少しは‥情らしきモノを‥持てるかもしれないけど‥‥‥

 あれじゃ‥‥‥情も‥なにもあったモンじゃねぇもんなぁ‥‥
 俺のこと人間扱いしてくれないし‥‥‥‥

 マジで、少しは朱螺の気遣いを見習って欲しもんだぜ‥‥‥
 あ~あ‥いっそ、このまま‥ずっとここで朱螺と旅したいなぁ

 母さんのことは心配だけど‥‥俺なんて、居ないほうが‥‥‥
 このまま、ここで生活するのも悪くないよなぁ‥‥‥‥

 腕の中で急におとなしくなってしまった蒼珠に、朱螺は問いかける。

 『どうした? 蒼珠 やはりつらいか?
 そうそう失った血液は戻らないからな‥‥‥

 やはり 今しばらくは
 私と情を交わすことは 出来なさそうだな‥‥‥
 少し残念だが しかたがないか‥‥‥‥』

 心配そうに言う朱螺に、蒼珠はちょっと打算が働いてしまう。

 あぅ~‥‥朱螺が‥俺の躯を心配してくれてるの
 すっごく理解(わか)るし‥‥
 優しくしてくれるのは嬉しい‥けど‥‥けどぉ‥‥‥

 やっぱり‥肛門を使ってする、セックスは怖い‥‥
 朱螺と《契約》‥‥でも、あと少しだけイイよね‥‥
 アナルセックスを先延ばしにしても‥‥‥‥

 心配そうな朱螺に、蒼珠は内心を隠し、大丈夫だとでも言うように縋りなおす。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

BL / 連載中 24h.ポイント:21,713pt お気に入り:7,337

【完結】イヴは悪役に向いてない

BL / 完結 24h.ポイント:1,428pt お気に入り:3,549

【完結】縁起終夜の華麗なる異世界支配

BL / 完結 24h.ポイント:383pt お気に入り:507

奴隷の花嫁 プロローグのみ R18

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:22

[R-18]あの部屋

BL / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:475

内気な僕は悪役令息に恋をする

BL / 連載中 24h.ポイント:944pt お気に入り:4,450

プレイメイト(SM連作短編)

BL / 連載中 24h.ポイント:347pt お気に入り:579

石英の華

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:7

処理中です...