上 下
68 / 183

0067★異世界で、初めて口にした食べ物

しおりを挟む



 蒼珠は、ごきゅっと無意識に喉を鳴らしてから、口を開く。

 「流石に、砂漠の渇いた風のせいか、喉がすごく渇いた。
 なにか飲みたいし‥‥‥食べ物も食べたい‥‥‥
 俺が口に出来そうなモノってある?」

 蒼珠の言葉に頷いて、朱螺はゾルディにくくった荷物の中から、大きな胡桃もどきを出す。

 『これは どうだ? 人族のお前でも食べれると思うが‥‥‥』

 どう見ても‥‥‥く‥胡桃?‥‥だよなぁ‥‥‥‥
 それも、見るからに、とんでもなく堅ぁ~い鬼胡桃‥‥‥
 たぶん‥‥大き目のメロンくらいの大きさあるけど

 大きさが大きいだけの胡桃なのかなぁ‥‥‥食べがいありそう‥
 だけどぉ‥‥これ‥どうやって、割るのかなぁ‥‥‥

 差し出された、大きな胡挑もどき?と朱螺の顔を交互に見て、蒼珠は問う。

 「これは、どうやって食べる物なんだ?
 食べかた理解(わか)らないんだけど‥‥‥」

 困ったような表情で自分を見る蒼珠に、朱螺はクスッと微笑(わら)う。
 そして、見た目はどぉー見ても、とても堅そうな大きな鬼胡桃もどきを、朱螺は、たいして力を入れることもなく、パキッと真っ二つに割って見せる。

 『これは 薄い緋色の鱗状の華を咲かせる
 《華鱗(かりん)》と呼ばれるモノの果実だ
 左右に違うモノが入っている

 片方に 種子を発芽させるための栄養水が
 もう片方は 全部種子本体だ

 かなり柔らかい種子だから お前でも食べられるだろう
 ほら コレを使え』

 そう言いながら、朱螺は先端が尖ったストローと、やはり先端がギザギザに尖ったスプーンを手渡してくれた。

 小学校の給食などで、よく使用されているような形のスプーンに、蒼珠は無意識に微笑(わら)う。

 うわぁ~‥‥すっげぇ~懐かしい気がする
 子供の頃に使ったヤツとよく似てるなぁ‥‥‥
 まっ素材は全然わからないけど‥‥‥‥
 手にしっくり馴染んで、使い易い

 それにしても‥‥‥‥《華鱗(かりん)》ねぇ‥‥‥
 どんな華を咲かすんだろう? 鱗状の華かぁ~‥‥‥‥
 さて‥味はどうかなぁ?

 嬉しそうに、2つに割られた《華鱗(かりん)》のどちらに、先に手をつけようかと悩んでいる姿に、朱螺は双眸を優しく細める。

 ちなみ、朱螺は蒼珠との一連の会話の間も、なが~い真紅の髪で器用に手綱を操作し、ゾルディの歩調を調節していたりする。
 そう、振動が少ないように、ゆっくりと歩かせていたのだ。

 朱螺に肩を抱き込まれ、支えられている蒼珠は、手渡された2つの《華鱗(かりん)》を、片方ずつ振り、微かに水音のする方にストローを刺した。

 ストローは、プツンと皮膜を破るような感触を、蒼珠の手に伝える。
 そしてと、ストローを突き刺した蒼珠は、なんのためらいもなくストローを咥え、中の液体を啜った。

 「‥‥‥甘い‥少し酸味があって‥‥ん~‥と‥‥これだとぉ~‥‥‥
 あぁ‥そうだ‥‥‥グレープフルーツのジュースに近いかな?
 ‥‥‥美味しいよ、朱螺」

 嬉しそうに言う蒼珠に、朱螺は微笑う。

 『それは良かった お前の口に出来そうな物は あまりないんでな
 どうかな?と思ったが‥‥‥‥

 食べられるうえに美味しく感じられるのは幸いだ
 まさか人族の それも異世界の者を拾うとは思ってなかったから‥‥‥
 人族用の物は用意してなかったんでな』

 朱螺の言葉で、蒼珠は、それが本来は、人族が食べる物ではないことを知る。

 う~ん‥‥‥食べる物も、まるっきり違うのかなぁ?
 朱螺は、どんな物を食べてるンだろう?
 一応、コレを待ってたんだから、食べるんだろうけど?

 「朱螺は、食べないのか?」

 その言葉に、朱螺はクスッと微笑って、蒼珠が手にしている《華鱗》の果実に刺したストローに顔を寄せ、口に咥えて中身を啜って見せる。

 『‥これで良いか? ‥ン?
 ‥‥‥蒼珠が 我々魔族の者に対して
 どんな知識を持っているかは判らないが‥‥‥‥

 私達も 水分は採るし 食物も口にするぞ
 ただ好みがあって 人間達が食べる物と
 我々魔族の者が口にする物は あまり重ならない
 それに 地域差というモノもあるのでな‥‥‥

 さっき 説明しただろう
 人間達が住める地域と 我々が住む領域は
 基本的に 別々なのだ‥‥‥

 だから 採れる食べ物も違うというわけだ
  だからと言って 住む区域が 我々と
 まるっきり重ならないわけではないのだが‥‥‥‥』

 「‥‥‥‥が? ‥‥‥‥その他に、何かあるの?」

 ちょっと考える素振りをした朱螺は、蒼珠の瞳を覗き込む。

 ‥‥‥っ‥すっげ~‥朱螺の瞳って、銀色と紫色なんだ
 あっ‥‥瞳孔は、すっごい深い蒼色だ

 あまり違和感がなかったのは、白目の部分が蒼みがかった銀色で
 黒目の中心が深い蒼色で、のこりの部分が、濃い紫だから‥‥‥‥
 日本人ぽく見えたセイなんだな

 くすくす‥‥‥流石に、天て付いても魔族だけあって
 瞳孔は、やっぱり縦長なんだぁ~‥‥‥‥

 ‥‥すっげ~‥綺麗な宝石のような一対の瞳‥‥
 魅入られるって、こういうのを言うんだろうなぁ~‥‥‥

 朱螺に瞳を覗き込まれた蒼珠は、一時はぽぉ~っとしてから、ハッとする。
 自分をみつめる朱螺の双眸の美しさに、見惚れてしまった蒼珠は、正気に戻って問う。

 「‥‥うん? ‥なに? 朱螺‥‥‥」

 しかし、朱螺の双眸に魅入ってしまった恥ずかしさは拭いきれない。

 あうぅぅぅ~‥‥はずいっ‥くそっ‥‥‥乙女かっ‥‥‥俺は‥‥

 羞恥心から、蒼珠は視線を無理矢理外して、栄養水の入った《華鱗》の果実を、朱螺に手渡した。




しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

何も持たない僕の話

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王様の伴侶 -続・辺境村から来た少年-

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:59

無垢な少年

BL / 連載中 24h.ポイント:796pt お気に入り:123

ずっとこの恋が続きますように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:40

幻想後宮譚 叛逆の玄竜妃と黒燐の王

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

宿命の星〖完結〗

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:14

処理中です...