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0067★異世界で、初めて口にした食べ物
しおりを挟む蒼珠は、ごきゅっと無意識に喉を鳴らしてから、口を開く。
「流石に、砂漠の渇いた風のせいか、喉がすごく渇いた。
なにか飲みたいし‥‥‥食べ物も食べたい‥‥‥
俺が口に出来そうなモノってある?」
蒼珠の言葉に頷いて、朱螺はゾルディにくくった荷物の中から、大きな胡桃もどきを出す。
『これは どうだ? 人族のお前でも食べれると思うが‥‥‥』
どう見ても‥‥‥く‥胡桃?‥‥だよなぁ‥‥‥‥
それも、見るからに、とんでもなく堅ぁ~い鬼胡桃‥‥‥
たぶん‥‥大き目のメロンくらいの大きさあるけど
大きさが大きいだけの胡桃なのかなぁ‥‥‥食べがいありそう‥
だけどぉ‥‥これ‥どうやって、割るのかなぁ‥‥‥
差し出された、大きな胡挑もどき?と朱螺の顔を交互に見て、蒼珠は問う。
「これは、どうやって食べる物なんだ?
食べかた理解(わか)らないんだけど‥‥‥」
困ったような表情で自分を見る蒼珠に、朱螺はクスッと微笑(わら)う。
そして、見た目はどぉー見ても、とても堅そうな大きな鬼胡桃もどきを、朱螺は、たいして力を入れることもなく、パキッと真っ二つに割って見せる。
『これは 薄い緋色の鱗状の華を咲かせる
《華鱗(かりん)》と呼ばれるモノの果実だ
左右に違うモノが入っている
片方に 種子を発芽させるための栄養水が
もう片方は 全部種子本体だ
かなり柔らかい種子だから お前でも食べられるだろう
ほら コレを使え』
そう言いながら、朱螺は先端が尖ったストローと、やはり先端がギザギザに尖ったスプーンを手渡してくれた。
小学校の給食などで、よく使用されているような形のスプーンに、蒼珠は無意識に微笑(わら)う。
うわぁ~‥‥すっげぇ~懐かしい気がする
子供の頃に使ったヤツとよく似てるなぁ‥‥‥
まっ素材は全然わからないけど‥‥‥‥
手にしっくり馴染んで、使い易い
それにしても‥‥‥‥《華鱗(かりん)》ねぇ‥‥‥
どんな華を咲かすんだろう? 鱗状の華かぁ~‥‥‥‥
さて‥味はどうかなぁ?
嬉しそうに、2つに割られた《華鱗(かりん)》のどちらに、先に手をつけようかと悩んでいる姿に、朱螺は双眸を優しく細める。
ちなみ、朱螺は蒼珠との一連の会話の間も、なが~い真紅の髪で器用に手綱を操作し、ゾルディの歩調を調節していたりする。
そう、振動が少ないように、ゆっくりと歩かせていたのだ。
朱螺に肩を抱き込まれ、支えられている蒼珠は、手渡された2つの《華鱗(かりん)》を、片方ずつ振り、微かに水音のする方にストローを刺した。
ストローは、プツンと皮膜を破るような感触を、蒼珠の手に伝える。
そしてと、ストローを突き刺した蒼珠は、なんのためらいもなくストローを咥え、中の液体を啜った。
「‥‥‥甘い‥少し酸味があって‥‥ん~‥と‥‥これだとぉ~‥‥‥
あぁ‥そうだ‥‥‥グレープフルーツのジュースに近いかな?
‥‥‥美味しいよ、朱螺」
嬉しそうに言う蒼珠に、朱螺は微笑う。
『それは良かった お前の口に出来そうな物は あまりないんでな
どうかな?と思ったが‥‥‥‥
食べられるうえに美味しく感じられるのは幸いだ
まさか人族の それも異世界の者を拾うとは思ってなかったから‥‥‥
人族用の物は用意してなかったんでな』
朱螺の言葉で、蒼珠は、それが本来は、人族が食べる物ではないことを知る。
う~ん‥‥‥食べる物も、まるっきり違うのかなぁ?
朱螺は、どんな物を食べてるンだろう?
一応、コレを待ってたんだから、食べるんだろうけど?
「朱螺は、食べないのか?」
その言葉に、朱螺はクスッと微笑って、蒼珠が手にしている《華鱗》の果実に刺したストローに顔を寄せ、口に咥えて中身を啜って見せる。
『‥これで良いか? ‥ン?
‥‥‥蒼珠が 我々魔族の者に対して
どんな知識を持っているかは判らないが‥‥‥‥
私達も 水分は採るし 食物も口にするぞ
ただ好みがあって 人間達が食べる物と
我々魔族の者が口にする物は あまり重ならない
それに 地域差というモノもあるのでな‥‥‥
さっき 説明しただろう
人間達が住める地域と 我々が住む領域は
基本的に 別々なのだ‥‥‥
だから 採れる食べ物も違うというわけだ
だからと言って 住む区域が 我々と
まるっきり重ならないわけではないのだが‥‥‥‥』
「‥‥‥‥が? ‥‥‥‥その他に、何かあるの?」
ちょっと考える素振りをした朱螺は、蒼珠の瞳を覗き込む。
‥‥‥っ‥すっげ~‥朱螺の瞳って、銀色と紫色なんだ
あっ‥‥瞳孔は、すっごい深い蒼色だ
あまり違和感がなかったのは、白目の部分が蒼みがかった銀色で
黒目の中心が深い蒼色で、のこりの部分が、濃い紫だから‥‥‥‥
日本人ぽく見えたセイなんだな
くすくす‥‥‥流石に、天て付いても魔族だけあって
瞳孔は、やっぱり縦長なんだぁ~‥‥‥‥
‥‥すっげ~‥綺麗な宝石のような一対の瞳‥‥
魅入られるって、こういうのを言うんだろうなぁ~‥‥‥
朱螺に瞳を覗き込まれた蒼珠は、一時はぽぉ~っとしてから、ハッとする。
自分をみつめる朱螺の双眸の美しさに、見惚れてしまった蒼珠は、正気に戻って問う。
「‥‥うん? ‥なに? 朱螺‥‥‥」
しかし、朱螺の双眸に魅入ってしまった恥ずかしさは拭いきれない。
あうぅぅぅ~‥‥はずいっ‥くそっ‥‥‥乙女かっ‥‥‥俺は‥‥
羞恥心から、蒼珠は視線を無理矢理外して、栄養水の入った《華鱗》の果実を、朱螺に手渡した。
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