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0044★再び、異世界の女性に精神だけ、こんにちは1

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 現実世界で意識がぷっつりと途切れた聖樹は、眠りという唯一の安息を得ることもなく、また、異世界に来ていた。
 いくら、聖樹が望んだこととはいえ‥‥‥‥。

 つくづく、悪戯好きな【運命の女神】が、丹精込めて紡いだ【運命の糸】に振り回されている聖樹であった。

 ‥‥えっとぉ‥‥また、ここなのか? ‥‥そして、また、意識だけ‥‥‥
 この異世界側の女性の中なわけね‥‥‥はぁ~‥勘弁してくれよぉ‥‥‥
 ‥‥‥意識だけってぇーのは、もどかしいんだよなぁ‥‥‥‥

 そう、今回もまた、聖樹はロン・パルディーアという名前の、長い銀髪と銀鱗を持つ女性の中に意識だけ堕ちたのだ。

 はぁ~‥‥意識が滑り堕ちた先が‥ここってのは‥‥‥‥
 少し‥いや、かなり厭だなぁ‥‥はぁー‥勘弁してくれ‥‥‥

 躯の持ち主が、女性で‥‥その女性と、感覚のすべてを共有してるだけに
 ‥‥‥すっごく、イヤかも‥‥‥
 まるっきり、彼女と俺の感覚の境界線が、判らないんだもんなぁ‥‥‥‥

 そう思う聖樹の眼前では、ラオスが何やら奇妙だが、どこかで見たことのあるような特徴を持つ動物を解体しているところだった。

 うぅ~ん‥‥かなぁ~り、大きな動物だよなぁ‥‥‥なにに似てる?
 えっとぉ‥縞柄? ‥‥‥を持つ、鹿か何かなのかなぁ?

 内心で首を傾げる聖樹をよそに、ロン・パルディーアは嬉しそうに言う。

 『マサカ コレガ ココデ食べラレルトハ 思ワナカッタワ』

 至極嬉しそうに言うロン・パルディーアに、大きな獲物を捕らえて来たラオスも、少し興奮気味に応える。

 『ソウデスネ 群レデ生キルハズノ 瑪瑙ガ 病モナイ健常な状態ノ
 雄ノ固体ガ ココニ居ルトハ 本来ノ住処カラ 何等カノ理由デ 
 一頭ダケ 追ワレタノデショウ 今ノ我々ニ 瑪瑙ヲ捕獲出来タコトハ
 幸イワイデス 食事ガ終ワリマシタラ 残リハ 保存食トシテ
 加工シマス 次ニ 何時 獲物ヲ捕ラエラレルカ 判カリマセンカラ‥‥』

 嬉々としている二人の会話に聞き耳を立てながら、聖樹は眼前の動物をまじまじと見て首を傾ける。

 う~ん‥‥鹿じゃなくて‥これだと‥馬かなぁ?
 しかし‥‥メノウねぇ‥‥‥漢字にすると、瑪瑙かなぁ?
 ‥‥って、確か宝石の一種の名前だよなぁ‥‥でも、ここじゃ‥‥‥
 宝石とかの名前じゃなくて、この縞馬もどきのことを言ってるンだな
 確かに、縞柄だし‥‥‥‥

 困惑する聖樹をよそに、二人は瑪瑙の肉を食べ始める。

 じゃなくてぇ‥‥‥なんか、前回に堕ちた時よりも、2人の会話が
 凄く聞きやすくなっているんだけど‥‥‥‥
 ‥‥‥そう、二人の言葉が全然違和感なく聞き取れる‥‥‥なんで?

 疑問に首を傾げていた聖樹も、かぶりついた肉の感触と、口いっぱいに広がる肉が持つ独特な味わいにうっとりとした。

 ‥っ‥‥‥美味いっ‥‥‥すっげぇ~‥‥‥口いっぱいに‥
 肉のジューシーな味が広がる‥‥‥‥

 聖樹が感じている豊かな味わいも、彼女と感覚のすべてを共有しているがゆえの副産物がもたらすモノだった。

 本来、聖樹が所属している現実世界では、明宏に躯の自由を奪われ、口からの食事を一切抜かれいるのだ。

 腸内洗浄を施されたうえで、衰弱防止のために、日に1度、直接直腸に栄養液を注入されているだけの状態なのだ。
 お陰で、聖樹は喉の渇きと、空腹による飢餓感をかなり感じていた。
 それゆえに、聖樹は、その空腹感を満たす独特な味わいにうっとりする。

 たとえ、他人の躯で感じる味わいでも、今の聖樹にはとても嬉しいモノだった。

 この、瑪瑙って呼ばれる縞馬もどきって、マジで美味いじゃん‥‥‥‥
 極上の牛肉? いや、それ以上かも‥なにに例えて良いか判ンないけどさ
 この肉がすっごく、美味しいのは確かだ‥‥‥‥

 くすくす‥‥‥‥他に、何が食べられるのかな?
 でも、他人の躯なのに‥‥‥食べたモノの味まで、感じられるのって
 感合とか共鳴とかいう段階をこえているかも‥‥‥‥
 ‥‥‥‥でも、いっか‥‥‥美味しいから‥‥‥

 まだまだ、聖樹は育ち盛りの範疇にあるのだ。
 理解できない環境や、見たこともない食べ物に対する嫌悪感よりも、自分の飢餓感を癒してくれた食べ物に、多大な好奇心を示す。

 『ロン・パルディーア様 コチラモ採取シマシタノデ  ドウゾ』

 ‥ぅん‥? ‥‥これは何だろう? 見掛けは、よく鮮魚売り場で見る
 ホヤに似ているけれども‥‥‥‥

 ラオスから差し出されモノの姿は、海で捕れるホヤの色や形と良く似ているが、どうやら何かの果実らしかった。

 ロン・パルディーアは、それをラオスから受け取り、なんのためらいもなくかぶりつく。

 プッツリと歯が弾力のある皮を食い破り、口中に果汁が広がったのを聖樹は感じた。

 うわぁ‥‥すっげぇ~甘くて美味い‥‥少しある酸味が、たまんなくイイ

 それはちょっと難のある見掛けに反して、桜ん坊の皮のようなはりのある歯ざわりと、少し酸味のある、あまぁ~いスモモのような果肉の味わいを聖樹に与えてくれた。

 現実の世界ではけして食べられないようなモノを、他人の躯でだが、味わうことの出来た聖樹は、異世界での食べ物の知識も少し得たのだった。

 取り敢えず、この異世界で食べられるモノって、他に何があるんだろう?
 このまま旅が続くんなら、他のモノも味わうことが出来るかも‥‥‥‥

 この異世界での、うっとりすほど美味しい食事で、明宏の与える恥辱行為の数々に、傷だらけにされた精神を癒される。

 現実の世界でのおぞましい立場から解放された聖樹は、好奇心いっぱいの少年に戻り、辺りを興味津々で観察する。

 ふ~ん、ここって砂漠なンだ‥‥‥マジで、辺り一面が赤い砂の海‥‥‥
 でも、何でこんなに砂が赤いンだぁ? 鉄分を多く含んでるのかなぁ?
 ‥‥‥それにしても、真っ赤だよなぁ‥‥‥‥

 ああ、そういえば、何かの実験で、真っ赤な部屋に閉じこめると‥‥‥‥
 精神状態がおかしくなるっていうのあったっけ‥‥あっ‥かぜ?

 しばらく凪いでいた風が緩やかに吹きはじめ、聖樹が精神だけ入ってしまった躯が、吹きはじめた風の流れを、頬や腕に感じていた。

 うわぁぁぁぁ‥‥‥‥風が吹きはじめたと思ったら‥‥‥‥
 赤い砂塵が舞い上がって‥‥‥視界ゼロじゃん‥‥‥どうするんだ?

 ほんの数分で、赤い砂塵が舞い上がり、あっと言う間に視界すべてを赤く染める。

 『ロン・パルディーア様 風ガ吹キ止ム 凪ノ時モ終ワリノヨウデス
 風ガ吹キハジメテ来マシタ 幸イ砂塵ガ舞ウ前ニ 食事モ終ワリマシタ

 既ニ保存食ノ処理モ終ワッテオリマス 今日ハモウ少シ移動シヨウト思イマス
 体調ノ方ハ イカガデスカ? ロン・パルディーア様』

 ラオスの問いかけに、ロン・パルディーアは視線を少し伏せ、うつむく。



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