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011★神無月の血と常識って?4
しおりを挟む駐車場で待っている聖子のもとに急ぎながら、聖樹はスマホを取り出した。
母・悠美に、今日は遅くなると連絡するタメに‥‥‥‥。
スナックのママをしていても、何かと連絡してくる悠美に心配させたくなくて聖樹は、メールを素早く打ち込んだ。
母さん‥友達と‥イベントの本の打ち合わせで‥遅くなると思う‥
もしかしたら‥‥泊まるかもしれない‥‥
だから‥‥心配しないで‥‥‥‥
‥‥それと‥母さんが‥嫌がっていた‥
ファミレスのバイトは、止めたよ‥‥
‥‥次の‥作品を書く時間が‥‥‥‥
ちょっと‥‥足りなくなってきたからさ‥‥
じゃ‥また‥‥連絡するね‥‥
PS
この前のイベント用に書いた本‥
テーブルの上に‥置いてあるから‥‥
後で感想を聞かせてね‥‥‥
簡潔に、それでいて内容を疑われないように、手早くメール文を書き上げる。
良し‥こんなもんで‥‥イイかな‥‥この時間なら‥‥
母さんも‥美月とかに‥電話する‥心配も無いしな‥
ごめんね‥‥ウソついて‥‥
メール内容を確認し、心の中で母・悠美に謝りながら、ピッと送信する。
でも‥‥父さんに会ってから‥‥
母さんに‥‥話したいと思うんだ‥‥
色々と聞きたいこともあるから‥‥‥‥
1つ頭を振って意識を切り替えた聖樹は、広い駐車場を見回した。
すると、伊藤と呼ばれていた男が車の脇に立っている姿が見えた。
聖樹は、聖子の乗っている車の位置がわかったので、軽く走り出した。
車の脇に、聖樹が着くと、伊藤は無言で後部座席のドアを開けた。
スルリと後部座席に滑り込んできた聖樹の様子を見て、聖子は愛らしく首を傾げて言う。
「お兄様‥‥走って来たのですか? ‥‥それじゃ‥いま、お飲み物を‥喉が‥渇いてますでしょ? ‥‥」
車に乗り込むと同時に、聖子が水滴のついているベットボトルを差し出しながら聖樹に言う。
「サンキュー‥」
喉の渇きを自覚した聖樹は、差し出されたアクエを、礼を言って受け取りすかさずゴクゴクと飲んだ。
染み渡るアクエのひんやり感に、心癒された聖樹は、はふっと軽い溜め息を吐く。
そして、聖樹が、アクエを飲み終えるとほぼ同時に、伊藤の運転する車は走り出す。
流石は‥‥高級車の‥レクサ○‥静かだなぁー‥‥‥‥
でも‥エンジン音が無いと‥信号が無い上に街頭も無い交差点で‥
‥この類いの車は‥‥かえって‥危ないんだよなぁー‥‥‥
自転車で‥‥何度も‥出会いがしらの事故を‥やってしまいそうに‥‥‥
‥じゃなくって‥‥俺も‥ちょっと‥現実逃避しているなぁー‥‥
やっぱり‥‥初めて妹と会って‥‥初めて父親と会話して‥‥
‥‥けっこう‥‥ショック‥‥受けているんだろうなぁ‥‥‥‥
ちょっと、溜め息を吐き出し、聖樹が自分のなかに入り込んでいると‥‥‥。
聖樹の前に、聖子が鏡をずいーっと差し出す。
「お兄様‥お父様が‥話したいって‥‥」
聖子の声と鏡のおかげで、聖樹はインナースペースから浮上する。
鏡に視線を向けると、父親の聖が、くすくすと笑っていた。
「‥聖樹‥お前は‥何かに‥夢中になると周りが見えなくなるようだな」
「俺の内心を‥‥また‥読んだんですか?」
「だから、さっきも言っただろう‥‥だだ洩れなのだと‥‥」
「それって‥‥うしろの美人さんのおかげですか?」
「‥‥ほぉー‥‥そこまで‥‥はっきり‥見えるようになったのか?」
「‥それが‥どうかしたんですか?」
「聖子には‥ほとんど見えないぞ‥‥‥」
「‥‥聖子‥あんなに‥‥はっきりした艶やかな美人が‥見えないのか?」
「‥私には‥お父様の後ろに‥影が見えるだけですわ‥残念ですけど‥‥そこまでの霊能力は無いのです‥‥」
聖子が、寂しそうに答えたので‥‥聖樹は‥シマッタと思い‥ついぎゅっと鏡を握ってしまう。
すると、聖樹の中に、先ほどの呪文とは違う呪文が‥‥‥‥。
キラキラと輝きながら浮かんでくる。
知らない文字なのに、聖樹には、それがどういう内容なのかわかってしまう。
へえぇ~‥‥この呪文は‥‥この遠話の鏡を通して‥‥
見たり聞いたりした内容を‥自分の血の者なら‥‥‥
能力が足りなくても‥‥同じ内容を感じ取れるようにするんだぁ‥‥
良し、やってみよう‥‥
聖樹は、思い立ったら、すぐ行動の男だったので、その呪文をあっさりと口にした。
『ジ・リュー・シェ・ラン』
「お兄様‥‥いったい‥何を‥」
聖樹が、呪文を唱えるのを聞いた聖子は、思わず声を出した。
が、直ぐに、その呪文の意味を理解した。
なぜなら、鏡に映る父・聖の後ろにいる、輝く美貌の女性が見えたから‥‥‥‥。
「‥‥えっ‥こんな呪文があるなんて‥知りませんでしたわ」
驚きを口にする聖子の後に、眉をひそめて聖が皮肉めいた口調で喋る。
「ほぉー‥聖子に‥言った言葉に‥後悔して‥鏡に聞いたのか‥‥随分と‥適応能力が高いものだ‥‥‥」
後先考えずにやってしまったことを、怒られると覚悟した聖樹は黙っていた。
「‥‥‥‥」
首をすくめた亀になっている聖樹に、聖は優しい表情と声音で、噛んで含めるように注意する。
「‥聖樹‥この遠話の鏡は‥神無月の祖先が造ったモノだし‥代々‥神無月の人間が使っていたし‥血の呪縛が何重にも入っている、安全な魔道具だから‥良かったが‥後先考えずに‥呪文を口にするのは止めなさい‥‥どんな‥罠が‥仕掛けてあるかわからないモノだから‥‥‥‥」
「ごめんなさい‥‥気をつけます‥‥」
小さな子供に注意するように言われて、恥ずかしさから聖樹は頬を赤く染めた。
「‥‥まっ‥仕方が無い‥お前は‥‥神無月の者としての教育を受けていないのだから‥‥聖子‥‥お前が‥側にいて‥注意してくれ‥‥私は‥出来ないから‥」
まったりとした会話に焦れたのか、背後の女性があっさりと言う。
『だったら‥‥早く‥会えばイイでしょう‥』
「‥‥マレイ‥?‥」
『大丈夫よ‥安全に‥跳ばすから‥‥』
父・聖と背後の女性の会話に?を浮かべた聖樹は、同じモノを視て聴いている聖子に問い掛ける。
「なぁー‥‥聖子‥跳ばすって?」
「たぶん‥‥お父様の居る場所と‥この車を繋ぐ‥‥‥パソコンで言うところのショートカットをするんじゃないかしら‥‥‥‥」
『あらあら‥‥勘の鋭いお嬢ちゃんだこと‥大丈夫よ‥何の負担も無いし‥‥対価もいらないわ‥‥』
「鈴木さんや伊藤さんも一緒なんですか?」
『もちろんよ‥‥だって‥車ごとのほうが安全に運べるから‥』
マレイという女性?と会話したなぁーと思ったら、次の瞬間うっそうとした森の前に車が止まっていた。
どうやら、一気に目的地へと飛んだらしい‥‥‥‥。
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