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014★タケルは【契約】と共に友達を得る
しおりを挟む自分の状況と状態が判らないそこに、聞きなれない同じ年くらいの子供の声を聞き、タケルは小首を無意識に傾げる。
えっとぉー………誰?
そう思ってから、自分の現在の状況にいたった経緯が思い出される。
俺は、あの繭玉を抱き締めて………
すぅーっと意識が遠くなって……
いつの間にか、完全に途切れていた
そこで、タケルはハッとする。
自分を抱き締めている者が、おそらく繭玉から羽化したモノだと。
なぜなら、タケルは確かに大きくなった繭玉を抱き締めた感触と記憶があるからだ。
「タケル? 大丈夫ですか?」
名前を呼ばれ、再度タケルを気遣うように問い掛けられて、タケルは無意識に頷く。
「ああ……大丈夫だ………」
ほとんど無意識に、その問いかけに応えてから、
タケルはその落ち着いた声音に含まれる優しさから、一切の危険を感じなかった。
「じゃなくて…繭玉…から……その……孵化? 羽化?」
適切な言葉が見付からなかったタケルは、自分を抱き締める腕から身体を離して、その対象を視ようとする。
勿論、元繭玉である、今は少年の姿をしているモノは、タケルに対して害意を持っていないので、素直にその抱き締めていた身体を解放する。
えぇーとぉ……俺と同じくらいの年齢?
繭玉から…人間って孵化するのか?
小首を傾げて埒も無いコトを考えたタケルに、その少年はクスクスと微笑う。
「ふふふふ………人間は繭玉から孵化なんてしませんよ」
的確にタケルの思考を読んだ少年の言葉に、タケルは更に小首を傾げて問い掛ける。
「それじゃ…キミは何になるの?」
素朴なタケルの質問に、今度は少年が小首を傾げる。
「そうですねぇ…種族としては****ですけどねぇ……」
タケルは聞き取れなかった言葉に目をパチパチする。
その仕草から、少し苦笑いを浮かべて、少年は再び口を開く。
「やはり、聞き取れないようですね……う~ん……タケル達人族の言葉で言い表すならば………魔性? 魔物? 妖魔? そう言うモノでしょうかねぇ? ようするに、タケル達とは違う次元のモノですね」
たまに大人達の会話に出ては来るが、実物を知らないタケルには、その言葉が表わす脅威を感じることはできなかった。
「???」
真っ直ぐな瞳で、タケルは自分と同じ少年の姿をとる、元繭玉だったモノを見詰める。
「まぁ……異世界からの侵入したモノですから、この地球と呼ばれる惑星からしたら、外敵に相当するモノでしょうかねぇ………」
淡々とそういう元繭玉の少年に、タケルはちょっと考える。
えーとぉー………危険なモノなのか? ソレを自分で言う?
けど、俺は繭玉に対して、何にも危険を感じなかったんだけど?
いや……じゃなくて……あの時なんか飛び回っていたのは、彼と同じモノ?
タケルの思考を読んで、少年は頷く。
「そうですね…アレは、私と同じような………妖魔ですね」
自分の立ち位置を言葉で確定した少年に、タケルはなるほどと頷く。
「そっか……キミは…妖魔って種族なんだな………名前は無いのか?」
子供特有の無邪気さで、タケルは問い掛ける。
それに対して、少年は肩を竦めてみせる。
「そう……この世界では、まだ持って無いかな………だから、タケルに名付けて欲しいな………私を守ってくれた貴方から、名前が欲しい」
そう言われて、タケルはちょっと考える。
名前かぁ………う~ん……妖魔って種族らしいから………
う~ん…まんま…ヨウマ…は…なんか合わないよなぁ
まじまじと、少年形態をとる元繭玉だったモノを見詰めて、タケルはその特徴に気付く。
その髪と瞳には、カラスの濡れ羽色と呼ばれような、射干玉色の中に現れる漆黒の浮かぶ青みがあることに。
青…いや……蒼……それに…黒……いや…闇だな
蒼と闇……あわせて、蒼闇で……ソウマ……かな?
平仮名、カタカナ、漢字、習っていて良かった
真名とかいうモノがあるって言ってたし…………
「よしっ……決めた……それじゃ、今日からキミはソウマだよ」
蒼い闇という漢字を思念で送りながら、タケルは元繭玉だった少年にソウマと名付けた。
その瞬間、確かにソウマはこの地球という惑星の中に、確かな足場を手に入れたコトを知覚する。
同時に、自分に名付けを行った少年に対する愛しみと執着を覚える。
時に、名付けは鎖となって存在や行動を縛り付けるモノとなるが、ソウマと名付けられた妖魔は、それを嬉々として受け入れた。
「私の名前は、ソウマ」
口に出して、与えられた名前を口にして、少年はにっこりと笑う。
「そう、今日から、キミはソウマ、そして俺の友達だ」
妖魔に対して、鮮血を与えて名付けることが【契約】となる真実を知らないまま、タケルはソウマと契りを結んだのだった。
そして、魔性や妖魔などと呼ばれるモノは、基本的に問い掛けられないことに対して、何かを教えるというコトは無かった。
実際、今回も種族と名前は?と聞かれたので、この地球と言う世界で該当する種族を答え、名前が無いので欲しいと望んだだけだったりする。
ソウマは、この地球という世界の知識を空間から吸収しても、擬態した人類としての経験値は存在していなかった。
例え繭玉から誕生したてでも、ソウマは、自分がそこに存在するということに不自然を感じさせない方法は理解っていた。
だから、タケルに鮮血と同時に其処での形態を与えられ、名付けと言う【契約】を結んだと同時に、守護結界に守られた守護地に存在する生き物全てに、最初から存在していたという記憶を刷り込む。
それは、息をするよりも簡単なことだった。
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