妖魔戦輝

ブラックベリィ

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012★タケルが守護結界の守護地の中に持ち込んだモノの正体

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 抱きついたことでしっかりと腕の中の繭玉の感触を実感したタケルは、内心で溜め息を吐く。

 嗚呼……繭玉…血塗れになっちゃったなぁ………
 でもこうして抱きついて、掌を繭玉に当てていると痛くない

 タケルは、怪我した傷口から溢れる血潮によって感じる、ズキズキとした痛みとぬるついた感触が、繭玉に触れると同時に消えていき、両手にぽわぽわした感覚が纏わり付いたと同時に痛みが引いていくのを感じた。

 はぁ~……実感するなぁ……繭玉が血止めしてくれてるって
 なんか痛みがどんどんなくなって、温かくて……気持ちい…や……

 そんなことを考えている間に、タケルは貧血に陥ったことで意識を喪失するのだった。
 同時に、繭玉は大きく震えて脈動を繰り返し、酷い傷を負ったタケルの両掌を治すのだった。
 ここで幸いだったのは、繭玉によって落とし穴から大樹の穴へと転移させられたことで、タケルが自分の掌の傷を確認しなかったことだろう。

 もし、タケルが自分の両の掌を見ていたら、まず間違いなくパニックまったなしだっただろうからだ。
 なんせ、落とし穴に落下する時に、本能的なモノで無意識に何かに掴まろうとしたことで、タケルの両の掌は、見るも無残なほどザクザクに切れていたのだから。

 それはさておき、貧血と安堵によって、意識を喪失させたタケルの両の掌に付いた傷跡が跡形もなく消えた頃。
 タケルが両腕を伸ばして抱えるようにしていた繭玉は、鮮血を綺麗に吸収し、純白に輝いた後、まるで白鳥が羽ばたく為に翼を拡げるかのように光りの翅翼しよく拡げる。

 繭玉を形成していた、繊細な絹織物を思わせる翅翼しよくがシュルシュルとほどけたそこには、タケルと同じ年頃の男の子へと変化したモノがいた。
 その男の子は、繭玉が消えたことで崩れ落ちるタケルをソッと抱きとめた。
 そして、大事そうに抱き込み、上機嫌に柔らかく微笑わらう。

「………クスクス……ありがとう……タケル……お陰で、ちゃんとこの世界の者に擬態できたよ…」

 タケルは知らないコトだったが、集落に持ち込んだ繭玉は、異世界から地球という惑星の保護膜の裂けめから、地球の保護膜の内部へと入り込んだ異種族だったのだ。
 勿論、地球の環境に適応する為に、相応の対価を支払って侵入した異種族である。

 地球と言う惑星が張っていた保護膜は、みずからの上で繁殖する数多の命に対する害悪を拒絶するモノだった。
 だから、みずからの上で生きるモノ達の脅威となる【力】を持つモノほど、強力に弾くモノなのだ。

 言い換えれば、そこまで【力】が強くなければ、保護膜の亀裂を通り抜けることは意外と容易いモノだった。
 ろくな【力】がほとんど無い、小さきモノ達が僅かに裂けたソコを通り抜けられるのを確認し、強大な【力】を持つモノは興味を覚えた。

 だが、どう試行錯誤しても、保護膜に出来た亀裂が、自分という個を頑なに拒んで通さない。
 ソレは、そのことに無性に焦れた。
 それでも張られた保護膜の亀裂が、じょじょに弱い魔性や妖物を通すようになったことを見て取り、強大な【力】を持つモノは本体で通ることを諦めざるおえなかった。

 そう、何故なら自分が通れるまで保護膜の裂傷が大きく開く可能性が消え、僅かずつだが修復を始めたことに気付いたからだ。
 強大な【力】を持つモノは、自分の好奇心を満たす為に、強大な【力】を内包する本体で保護膜の裂けめから入ることを断念したのだ。

 だから、自分の【力】で創造した時空間に本体と【力】の大半を封印し、ほぼ無害に近いモノへと意識核の一部を埋め込み、本体を乗っ取り、仮初かりそめの器でもって侵入することにしたのだ。

 そんな小さきモノでも、絶大な対価無しには入れないことに気付いたが、ソレは保護膜の裂けめを無理矢理に通り抜けた。
 そんなところで、やはり同じよな方法で保護膜の中へと侵入した同種とかち合ってしまったのだ。

 出逢った瞬間に、相容れないモノと反射的に判断したソレは、同種との共存というモノは選ばす、相手を滅殺することを選んだのだった。
 勿論、敵となったモノも、同じようにソレを滅殺することを選択し、激しい交戦となったのだ。

 タケルが初めての冒険で見た人影とは、その異世界のモノ達の交戦の残像だったのだ。

 もし、その時に守護地の守護結界から出ていたら、タケルの命は風前の灯火のように儚く消えていたことだろう。
 だが、その時のタケルは本能的な危険を無意識に感じて、直ぐにその場を立ち去ったのだ。

 タケルが守護地の中の集落に戻った後も、異世界のモノ達はそのままその場所でしばらく争っていたのだ。
 ほぼ互角だったが、タケルが見付けた繭玉となった方が、僅かな差で【力】に勝り、競り勝ったのだった。

 そして、ほぼ【力】を枯渇させて動きが鈍った同種を、仮初かりそめの器ごと、地球上の人族には目視出来ない保護膜の裂けめの向こう側へと、追い還したのだった。








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