妖魔戦輝

ブラックベリィ

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010★タケル落とし穴に落ちる

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 タケルの住む集落は、時ならぬ肉祭りが収束してしばらくは平穏な日々が続いていた。
 勿論、ちょっと自分でも危ないコトをしたという自覚があるタケルは、基本的に集落内で自分のできるお手伝いをして過ごしていた。

 ただし、1日の内の1時間くらいは、ソッと運び込んだ繭玉を見に行っていた。
 もっとも、念話できたのは集落の直ぐ近くに運んだ時だけで、それ以降はうんともすんともしなかった。

 毎日、念話で交信できるかな?と期待していただけに、念話で交信できないことを残念に思っていた。
 それと同時に、自分がホーンラビットを運ぶ時に重量を軽減させたのが繭玉と判っているので、持っている【力】を使い切ってしまったのかもしれないとも思っていた。

 だから、再び【力】が使えるようになる為の、充電期間なので念話が使えないのかもしれないと考え直し、大人達に怪しまれないようにしていた。

 勿論、タケル自身は気付いて無かったが、大人達はタケルを心配して、後をつけていたのは確かな事実だった。
 そして、タケルが大樹の幹に開いた穴に入り、奥で幹の内側に寄りかかりながらボーっとしているのを確認して、そっとしていたのだ。

 タケルは、念話で一生懸命に繭玉に寄りかかりながら話しかけていたが、声に出していなかったので幸運にも、気付かれることが無かったのだ。
 もし、繭玉が見付かっていたら、タケルだけではなく親兄弟、親類縁者にまで、迫害が及んでいただろう。

 タケルは知らないことだが、実はそのくらい、閉鎖的な集落なのだ。
 元が、秘された守護地だけに、その存在を少しでも危うくするモノを持ち込むと、村八分どころか、追放待ったなしなのだ。

 だから、守護地の守護結界の外から、外界のモノを運び込むには、集落に害意とならないかを詳細に確認しないと、持ち込みは許されない。
 マサルのように、集落のリーダー役となり、他の秘された守護地に居る家畜や野菜の種子などを交換しに行くこと以外で、外のモノは持ち込まれない。
 そんな閉鎖された空間だった。

 大人達は、他の子よりもおとなしいタケルが、自分の隠れ場所としての秘密基地という認識で一致し、そこに隠れている時は極力放置してやろうということで誰も何も言わなかったのだった。
 ある意味で、日頃から良い子を演じるタケルへのご褒美的な処置(見ないふり)だった。

 そんな大人達の目こぼしに気付かないまま、タケルは今日も大人達に頼まれたお手伝いをちゃんと終えてから、繭玉を隠した穴へと向かうのだった。
 そんなタケルを面白くないと思っているやんちゃな子供達は、テクテクと集落の回りにある森林に向かうタケルを、家陰からジッと見ていた。

 やんちゃな子供達は、大人達にほとんど怒られたことのないタケルを疎ましく思っていた。
 その子供達の集団は、年齢的にバラバラだった。
 集団の中には、タケルと年の近い者もポツポツとは居る。

 ただ、近年不作が続いたことで、集落に居る子供達のほとんどは、タケルよりも年上の者ばかりだった。
 隠された守護地の集落ゆえに、外界との交流はほとんど無い閉ざされた世界の中で、誕生する子供達は、貴重な集落の宝である。

 必然として、子供達が怪我をしないように、健やかに育つようにと、大人達は見守りを強くしていた。
 それゆえに、大人達の善意の監視は限りなくきつかったのだ。
 何故なら、子供特有の浅慮で、大人達の言うことを聞かず危ないコトを平気でするからである。

 だから、おとなしく大人の言うことをちゃんと聞き、割り振られた仕事も手を抜かずに黙々とするタケルに対しての、善意なる監視は緩かった。
 そんな、自分達よりもかぎりなく自由を許されているタケルを、やんちゃな子供達は面白く思わなかったのは当然のことだった。

 いつもいつも自分達ばかりが注意され、時にお仕置きとしてお尻を叩かれたりするのを、ただただ理不尽と思い、怒られないタケルが悪いと、勝手に恨んでいた。

 勿論、してはいけないと言われたことを聞かずに、集落で大事にしているモノを触って壊したりした、自分達が悪いことをしたと反省することもない。
 ただただ自分達と行動を共にしないことで、大人達に怒られないタケルが悪いと決めつけているのだ。

 そんなやんちゃな子供達は、タケルが最近良く行く場所へと通じる獣道に深い落とし穴を掘っていた。
 それでタケルが怪我をするとかいうことを、誰も考えたりはしなかったのは確かなことだった。

 自分が向かう先に、そんなこと(落とし穴が掘られている)をされていると知らないタケルは、何時もと同じように、繭玉を隠した大樹へと向かっていた。
 そして、やんちゃな子供達が掘った落とし穴に落ちたのは確かなことだった。

 タケルが落とし穴に引っかかったことを喜びつつも、誰がやったかを知られないために、穴の中を確認するような子供は居なかった。
 ただ、ガサガサと言う音が、その場から消えるだけだった。








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