10 / 17
010★タケル落とし穴に落ちる
しおりを挟むタケルの住む集落は、時ならぬ肉祭りが収束してしばらくは平穏な日々が続いていた。
勿論、ちょっと自分でも危ないコトをしたという自覚があるタケルは、基本的に集落内で自分のできるお手伝いをして過ごしていた。
ただし、1日の内の1時間くらいは、ソッと運び込んだ繭玉を見に行っていた。
もっとも、念話できたのは集落の直ぐ近くに運んだ時だけで、それ以降はうんともすんともしなかった。
毎日、念話で交信できるかな?と期待していただけに、念話で交信できないことを残念に思っていた。
それと同時に、自分がホーンラビットを運ぶ時に重量を軽減させたのが繭玉と判っているので、持っている【力】を使い切ってしまったのかもしれないとも思っていた。
だから、再び【力】が使えるようになる為の、充電期間なので念話が使えないのかもしれないと考え直し、大人達に怪しまれないようにしていた。
勿論、タケル自身は気付いて無かったが、大人達はタケルを心配して、後をつけていたのは確かな事実だった。
そして、タケルが大樹の幹に開いた穴に入り、奥で幹の内側に寄りかかりながらボーっとしているのを確認して、そっとしていたのだ。
タケルは、念話で一生懸命に繭玉に寄りかかりながら話しかけていたが、声に出していなかったので幸運にも、気付かれることが無かったのだ。
もし、繭玉が見付かっていたら、タケルだけではなく親兄弟、親類縁者にまで、迫害が及んでいただろう。
タケルは知らないことだが、実はそのくらい、閉鎖的な集落なのだ。
元が、秘された守護地だけに、その存在を少しでも危うくするモノを持ち込むと、村八分どころか、追放待ったなしなのだ。
だから、守護地の守護結界の外から、外界のモノを運び込むには、集落に害意とならないかを詳細に確認しないと、持ち込みは許されない。
マサルのように、集落のリーダー役となり、他の秘された守護地に居る家畜や野菜の種子などを交換しに行くこと以外で、外のモノは持ち込まれない。
そんな閉鎖された空間だった。
大人達は、他の子よりもおとなしいタケルが、自分の隠れ場所としての秘密基地という認識で一致し、そこに隠れている時は極力放置してやろうということで誰も何も言わなかったのだった。
ある意味で、日頃から良い子を演じるタケルへのご褒美的な処置(見ないふり)だった。
そんな大人達の目こぼしに気付かないまま、タケルは今日も大人達に頼まれたお手伝いをちゃんと終えてから、繭玉を隠した穴へと向かうのだった。
そんなタケルを面白くないと思っているやんちゃな子供達は、テクテクと集落の回りにある森林に向かうタケルを、家陰からジッと見ていた。
やんちゃな子供達は、大人達にほとんど怒られたことのないタケルを疎ましく思っていた。
その子供達の集団は、年齢的にバラバラだった。
集団の中には、タケルと年の近い者もポツポツとは居る。
ただ、近年不作が続いたことで、集落に居る子供達のほとんどは、タケルよりも年上の者ばかりだった。
隠された守護地の集落ゆえに、外界との交流はほとんど無い閉ざされた世界の中で、誕生する子供達は、貴重な集落の宝である。
必然として、子供達が怪我をしないように、健やかに育つようにと、大人達は見守りを強くしていた。
それゆえに、大人達の善意の監視は限りなくきつかったのだ。
何故なら、子供特有の浅慮で、大人達の言うことを聞かず危ないコトを平気でするからである。
だから、おとなしく大人の言うことをちゃんと聞き、割り振られた仕事も手を抜かずに黙々とするタケルに対しての、善意なる監視は緩かった。
そんな、自分達よりもかぎりなく自由を許されているタケルを、やんちゃな子供達は面白く思わなかったのは当然のことだった。
いつもいつも自分達ばかりが注意され、時にお仕置きとしてお尻を叩かれたりするのを、ただただ理不尽と思い、怒られないタケルが悪いと、勝手に恨んでいた。
勿論、してはいけないと言われたことを聞かずに、集落で大事にしているモノを触って壊したりした、自分達が悪いことをしたと反省することもない。
ただただ自分達と行動を共にしないことで、大人達に怒られないタケルが悪いと決めつけているのだ。
そんなやんちゃな子供達は、タケルが最近良く行く場所へと通じる獣道に深い落とし穴を掘っていた。
それでタケルが怪我をするとかいうことを、誰も考えたりはしなかったのは確かなことだった。
自分が向かう先に、そんなこと(落とし穴が掘られている)をされていると知らないタケルは、何時もと同じように、繭玉を隠した大樹へと向かっていた。
そして、やんちゃな子供達が掘った落とし穴に落ちたのは確かなことだった。
タケルが落とし穴に引っかかったことを喜びつつも、誰がやったかを知られないために、穴の中を確認するような子供は居なかった。
ただ、ガサガサと言う音が、その場から消えるだけだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる