妖魔戦輝

ブラックベリィ

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007★守護結界の意味を知る

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 確かここだったよなぁ……

 そんなことを考えながら、タケルは完全な目視ができなかった、人影のようなモノが飛び回った辺りを、じっくりと観察する。
 だからと言って、直ぐに何かが見付かるわけでは無かった。

 ただ、やはりそこはまだまだ自制心というモノがゆるゆるなお子様である。
 してはいけないと言われていることを、確実に我慢するのはかなり無理があった。

 それでも、タケルは大人達が『けして越えてはならない』と言っている、守護地の境界線ギリギリまで近くへとにじり寄ることで我慢した。
 タケルは境界線となる色違いのきわに座り込み、守護地の外側を観察する。

 あの時、なんか風がシュンッて震えて
 あっちの方から、なんかシュワッて来たんだよな
 人影っぽいモノが、この辺りに飛んで来たんだよなぁ

 記憶に残っている、その時のことを思い出しつつ、タケルは小首を傾げて考える。
 そして、飛んで来た方から、たぶん着地しただろう辺りへと、無意識に弧を描くように指でその軌道を辿るように動かしていた。

 何度かそれを繰り返し、無意識に飛んで来たモノが跳ねたと考えて、更に無意識に指先を動かした。
 そして、その指さした先にから少し離れたところに、見慣れないモノが鎮座していた。

 んぅ~……うん? あれぇ?
 あんなところに、あんなモノあったっけ?

 前回来た時には存在していなかった、不可思議な物体に気付きタケルはしばし考える。

 う~んとぉ~…卵さん? いや、繭玉さんかなぁ?
 あっ…なんかふわふわしたモノがユラユラと揺れてるぅ
 触ったら柔らかく温かいのかなぁ? 

 ほんわりと風に揺られる陽炎かげろうを微量立ち昇らせる、やや楕円の白色系の繭玉に興味を引かれたタケルは、無意識に境界線を越えそうになって、ハッとする。
 慌てて、立ちあがって踏み出しかけた足を引っ込め、無意識に1メートルほど後ずさった。

 はっ……あっぶなぁ~……つい…ふらふらとしちゃった

 タケルは、繭玉を触ってみたいという誘惑を、ハッとして振り切った。
 それとほぼ同時くらいに、境界線から5メートルほど辺りを異形化したイノシシ、俗に言うワイルドボアと呼ばれるモノが、雄叫びを上げながらドドドドドドッと地響きを立てながら走り抜けた。
 その直後に、小さな鳴き声が響き渡る。

 ギュイィィィーッ

 どうやら、走り抜けた先に、ホーンラビットが居たようだった。
 そのホーンラビットは、ワイルドボアに激しく蹴とばされたようだった。

 ドサッ

 重い音をたてて、守護地内にいるタケルの足元の直ぐ近くへと落下した。
 無意識に1メートルほど後退していたことで、直撃を幸運にもまぬがれたタケルは、自分の幸運に気付かないままおののく。

 げっ………マジかぁ? こっちに吹っ飛んできた
 守護結界を越えて、吹っ飛んで来るってありなのか?

 まるまると肥え太ったホーンラビットが、足元に飛んで来たコトにもびっくりした。
 だが、それ以上に境界線を飛び越えて、外の生き物が守護地内に入って来たことにも、タケルはびっくりしていた。

 足元に転がるホーンラビットを見て、タケルは小首を傾げる。
 口調こそ他の子とさほど変わらないどころか、やや遅い傾向にあるタケルだが、その思考は既に大人並だった。

 だからこそ、タケルは思い悩む。
 自分の父親が異血の家畜と新しい野菜の種子を持ち帰ったとしても、けして集落の食料が豊かでは無いということを知っているからだ。

 こんな外輪部まで来たコト知ったら、怒られるだろうなぁ
 でも、あんな大きな獲物を見逃すってぇ~のはなぁ……

 そう、境界線の少し先の目の前を横切ったのは、大きなワイルドボアに率いられる7頭だったからだ。

 やっぱり、知らないふりするのは、ないよなぁ
 1頭、いや、2頭獲れれば、保存食にも………

 そんなことを考えている間に、今度はホーンディアと呼ばれるモノまで現われていた。
 そして、先ほど目の前を通ったワイルドボア達と争い始める。
 どうやら繁殖に適した場所と認識され、縄張り争いに発展したようだった。

 ゴァァァーッ…ガァァァッ…という、唸り声と共に激突しているワイルドボアとホーンディアが争うのを見て、タケルは反射的に思ってしまう。

 あのままだと、あの繭玉さんが踏み潰されちゃうっ

 そう思った時には、タケルは無意識にタタッと走り出し、ひっしと繭玉を抱えていた。
 幸いだったのは、その繭玉が意外としっかりとした硬さがあったことと、まだ五つのタケルでも抱き上げられる程度の大きさと重さだったことだろう。

 あっ…意外と軽いっ…………じゃなくて、でちゃったっ

 自分の現状に気付いてハッとしたタケルは、繭玉を抱きかかえたまま、飛び出してしまった守護結界の境界線の内側へと、慌てて駆け込んだ。
 ただ、ほんの一瞬の越境だったにもかかわらず、ワイルドボアとホーンディアはタケルの存在を感知して、争っていたことを止めて襲い掛かって来たのだ。

 幸運だったのは、境界線から外へと出た距離が短かったことと、ワイルドボアとホーンディアが争っていた位置がやや遠かったことだ。
 本能に誘導されて飛び出たタケルが、気にしていた繭玉を抱えたまま、守護結界の張られた守護地にはいると同時に、害獣達はその存在を見失う。

 守護結界による、害意ある生き物からは不可視となる効果のお陰で、どちらもタケルを感知できなくなった。
 変異した野生動物は、ほぼ全ての種類で、人間を究極の外敵と判断し、種族争いをしている真っ最中でも、それを中断して襲い掛かって来るのだ。

 その対象が無害でひ弱な者でも、一切関係なかった。
 野生動物にとって、人間という種は見付けたら根絶せずにはいられない、究極の敵という認識なのだ。
 それこそ、カサカサと走り、飛びかかって来るGのように。

 ただ、タケルが予測した通り、守護地に張られている守護結界は生きているモノの害意に反応するモノで、ワイルドボアに蹴られて絶命したホーンラビットは、なんなく通過してタケルの足元に転がったのは確かな事実だった。

 タケルは繭玉を抱えたまま、転がるホーンラビットの元にまで戻って来て、ホッとして座り込む。








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