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第14章 冒険者の始まりの街フォレンへ
190★呪文の物質化、成功のようです
しおりを挟む強い口調で、前向きな発言をするシアちゃんに、私のこころも揺れる。
だって、もし本当に、ジオンの声や身体を縛る呪縛の呪文が、物質化するならば、それをガッちゃんが食べて、エネルギーに変換できる可能性が大きいから‥‥‥。
物質化さえしてしまえば、ガッちゃんがその呪縛の力を、魔晶石に変換できるはずだから‥‥‥。
だから、思わず私は心もとない口調で呟いてしまう。
「できるかな?」
私の呟きに、シアちゃんはにっこりと笑って、何の気負いも無い感じで言う。
「やってみればいいじゃない
もし、私達で物質化出来なかったら
また、別の方法を探せば良いわよ
この世界は、思いが強ければ叶うわ
私は、そう思っているモノ
ああそうだ、ゲン担ぎにコレどうかな?
かなりレアなアイテムでしょ‥‥‥」
シアちゃんはそう言って、自分のインベントリから大きめの扇を取り出して、私にほらほら見てコレっ、という感じで見せる。
それはレイパレのオープニングとエンディングにチラッとだけ出ていたモノとそっくりだった。
「それって‥‥‥」
ああ、本当にレイパレ本編と外伝の共通の幻の攻略対象者に付随するキーアイテムの扇なのね‥‥もしかしたら、イケるかもしれない。
どっちかって言うと、ネガティブな私だけど、シアちゃんと話していると、出来るかもって思うわね。
うふふふ‥‥‥シアちゃんてば、楽しそうねぇ~‥‥‥本当に、前向きよねぇ‥‥‥。
しかし、あの見付からなかった扇がねぇ‥‥‥。
「そう、キーアイテムのひとつ」
胸を張ってそう言ったシアちゃんは、私に試してみようっと誘い、クルッと振り返って自分を見守るジオンに言う。
「ってコトで‥‥‥やってみようよ、ライム
私達の実験に付き合ってね、ジオン
まず、私が座っていたそこの石に座って‥‥‥
そしたら、この扇を開いて握って、ね」
隷属奴隷となったから、主のシアちゃんに従っているわけじゃないと、私でも見て判るほど、ジオンはシアちゃんを大事に思っている。
きっと、気付かないのはシアちゃんだけね。
フリード君も気付いているようだし‥‥‥ジオンは‥‥‥アレは自覚しているわね。
聞いた限りじゃ、出会ってそんなに経っていないようだけど、恋に時間なんて関係ないものね。
きっと、一目惚れってやつでしょうね‥‥‥面白いから、教えてあげないけど‥‥モトは、敵だったんだもの‥‥敵に塩は送らないわよ。
私がそんなコトを考えている間に、ジオンはシアちゃんに指示された通りに石に座って扇を握っていた。
そんなジオンに、満足そうに頷いたシアちゃんは、私に言う。
「さぁ‥やってみようよ、ライム
呪文の鎖の物質化に挑戦よ」
まるで小学生が、初めての理科の実験にワクワクするような表情で、私に言う。
私には、仮死状態で腕輪の中で待つ子達を、蘇生させるという目標がある。
もし、本当に、ジオンを呪縛する呪文が物質化できたなら、蘇生に必要な魔晶石が手に入るかもしれない、そう思って私はシアちゃんに頷いて言う。
「そうね、ここはチャレンジよね
もし物質化できれば、私の目的も
1歩大きく前進するもの‥‥‥
コウちゃんも、ガッちゃんも
一緒に祈ってね‥‥‥
で、どういう風にする?」
これの主導は、あくまでもシアちゃんじゃないとね。
私だとネガティブになっちゃって、成功しそうに無いもの。
で、シアちゃんはどうやってやるつもりなのかな?
あのメガネの美少年のような力は、私達に無いんだけどね‥‥‥。
「じゃあ、私は座ったジオンの前で
扇を握った手に手を重ねるわ
ライムは、後ろに立って‥‥‥
そうね、両肩に手を置いて
物質化を願ってね、私も願うから‥‥‥
で、フリードは私の後ろに立って‥‥‥
コウちゃんは、ライムの右の後ろ
ガッちゃんは左の後ろに立って
3人で三角を作ってね
3は1番安定した最小の数っていうから
そして、一緒に物質化を願ってね
それじゃー行くよぉー‥‥‥」
シアちゃんの言葉に、私は私のこころからの目的の為に、ジオンの肩に両手を置いて、一心に祈り始める。
同時に、シアちゃんの強い口調での言葉が響く。
「ジオンを縛る呪文よ
物質化しろっ」
その言葉を聞いた瞬間、私も本気でジオンの全身を包む呪文の物質化を祈って叫ぶ。
「みんなを蘇生する為に
物質化してっ」
言い放った瞬間、私の中にある魔力が妙な反応をして、ズルッとジオンの両肩に置いた手のひら流れ出て、ジオンの身体へと吸い込まれる。
そして、シアちゃん、私と続いた後に、コウちゃんとガッちゃん、それにフリード君がハモって言う。
『物質化っしろ』
強くそうハモって言い放った声を聞いた瞬間、私のジオンの両肩に置いた手のひらから、ズルズルと魔力が持続的に吸い出されていくのを感じた。
同時に、ジオンを包んでいる呪文の鎖が、ふわっと目に見えるカタチを現した。
最初は透明から半透明へと変化して、薄い色の細い筆で書いたような呪文が、徐々に顕現化し始める。
相変わらず、私の中の魔力が引き出されていくのを感じながら、触れるコトが出来ない呪文が、触れるモノへと変化していくのを見て、こころから祈る。
どうか、本当に物質化してっ、ガッちゃんが食べられるくらいになって‥‥‥。
半透明のスライムのようなモノが、徐々に硬くなって行くのを確認しながら、私はジオンの両肩に置いた手のひらに魔力を集めて、放出するイメージを送る。
その魔力が、呪文の鎖に浸透して、物質化するコトを何度も何度もイメージして送り込む。
その甲斐があってか、呪文は完全にジオンの身体から浮き上がり、コクコクと色を変化させながら、細い筆で描かれたような呪文は、太い筆で描かれたかのようになり、どんどん立体化して行く。
その瞬間、確かに私は聞いた。
シャキィーン‥‥シャラシャラ
と、いう音を‥‥‥同時に、ジオンの声や身体の全身を縛り、覆っていた呪文の鎖は、黒々とした物質へと変化していた。
そこに込められた、呪詛の凄さに、ゴキュッと喉を鳴らした私は、次の瞬間、思いのままに叫んでいた。
「ガッちゃん、お願いっ
この縛鎖の呪文を1ヵ所でも
食べて欠ければ‥‥‥
ジオンの呪縛は解けるはずよっ
そしたら、あの子達を蘇生できるはず」
私の言葉と同時に、ガッちゃんはジオンの全身から浮き上がった、漆黒の黒曜石で出来たような呪文を、硬いお菓子を食べるかのように食べ始める。
ガリガリとした、固焼き煎餅のような音をさせて、ガッちゃんが物質化した呪文を食べ始めたとき、ああ固焼きのお煎餅が食べたいなぁ~と思ったのは、内緒である。
「マスター‥食べれますっ
ただ、マスターもシアさんも
まだ祈っていてください
たぶん、2人の祈りが切れたら
この物質化した呪文の鎖
消えてしまう」
その言葉を聞いて、あっやっぱりと思った。
この呪文の物質化は、たぶん私とシアちゃんのジオンに注いだ魔力が起しているモノだろうコトは予想できていた。
私の思いは、ジオンの呪縛の効果が切れれば良いというモノではない。
あくまでも、物質化した呪文をガッちゃんに全部食べてもらって、その呪縛の呪文に組み込まれている魔力を、魔晶石のカタチにしてもらうのが目的だ。
あっ‥‥‥そう言えば、魔晶石にする話し、シアちゃんにしてないや。
ジオンの呪縛から作った魔晶石、私にちょうだいって、後でシアちゃんに言わないとね。
そのかわり‥‥‥無防備すぎるシアちゃんに、予備の天使シリーズとかを手渡そう。
もちろん、フリード君やジオンにも、シアちゃんを守るのに相応しい装備させないとね。
まったく、シアちゃんて‥‥‥残念系で、心配だわぁ‥‥‥。
じゃなくて、どのぐらいで、ガッちゃんは食べ終わるかな?
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