冬の稲妻

ブラックベリィ

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01★始まりは雨音から‥‥‥‥。

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 雅美は、真夜中にフッと目覚めてしまった。

 真っ暗な見覚えの無い室内に、内心で首を傾げる。

 あれ? ‥ここは‥‥‥‥えーっとぉ‥‥‥‥。
 ああ‥‥そうだ‥‥ここは‥‥秀人君のマンションだ。

 そして、雅美は、自分が何処にいるか、なぜ、此処にいるかを思い出したのだった。

 ぼくは、あの銭湯での‥‥‥‥。
 あうぅぅぅっ‥‥‥いやだぁぁ‥‥‥‥あんなモン。
 うえぇぇ‥思い出したくなぁいぃぃぃ‥‥‥‥。

 そして、雅美は、はたっとそこで気付く。
 何時もとは違う、不自然さを‥‥‥‥。

 「‥‥あ? ‥‥何でぼく、目ぇ覚めたんだろう? 変だなぁ? 朝まで、寝れるはずなのにぃ‥‥‥‥」

 首を傾げた雅美は、シトシトと雨の降る音に、ふと気付く。

 「ぅん? あれぇ? この音、もしかしてぇ‥‥シトシトしてるぅぅ‥‥‥‥」

 うふふふふ‥‥雨の音してるけどぉ‥‥ふ‥冬の雷鳴‥冬の稲妻‥‥‥なんて事は‥‥‥‥。

 「今、冬なんだからぁ‥‥‥‥無いよねぇ‥‥‥。だいじょうぶ、大丈夫」

 口の中でそう呟いた雅美は、ソファーの中に隠れるように丸まり、毛布を頭まですっぽり被る。

 シトシト、シトシトという独特の雨音が、シーンとした暗闇に響く。
 その雨の音の中に、ほんの微かだが、ゴォーという音が混ざり始める。
 雅美は、それにしっかり気付いてしまい、ゴックンとのどを鳴らして震える。

 「まさかねぇー‥‥‥‥」

 その雅美の予想に違わず、しだいに、ゴォーという風音の中に、独特な下腹に響くような、ゴロゴロという音が響き始める。

 「まさか‥まさか‥まさか‥‥大丈夫だよねぇ‥‥」

 自分を励ますように、雅美が呟いた瞬間、ピカッと稲妻が青黒い空間を斜めに走る。

 「‥キャー‥‥」

 雅美は光った瞬間、小さく叫んで、まくらをギュッと抱き締めた。

 「こわいよ‥‥怖いよぉ‥こわいよぉ‥こわいよぉ‥‥‥‥‥でも‥‥秀人君に馬鹿にされちゃうから‥‥‥叫べないよぉ‥‥」

 鈍い色の天空から稲妻がまた斜めに走り、どこかに落ちたのか、ドォーンという音が響き渡る。

 「キャイィーン‥‥」

 部屋の中に、子犬の悲鳴のようなモノが響き渡る。
 そう、雅美の悲鳴が‥‥‥‥。

 響く雷鳴に、雅美は涙を瞳に溜めて、むっくりとソファーから起き上がる。

 「‥‥もう‥‥だめ‥だ‥たえられない‥‥‥‥」

 雅美は、毛布を頭から被って、まくらを持って、震える足取りで、廊下へと出た。
 直ぐ近くの秀人の部屋のドアをノックする。

 そのノックの音に、気配に敏感な秀人は直ぐに雅美と着付き、ベットからするっと降りる。
 その姿は、まるで、ギリシャ神話の石像のように均等の取れた美しいと言ってはばかりの無い姿であった。
 秀人は、全裸のままドアを開けてひょいっと顔を出し、雅美の格好を見て不思議そうに尋ねる。

 「雅美、何やってんだ?その格好は」

 秀人の顔を見てほっとした雅美は、秀人の腕にぎゅっと縋り付き、我慢していた涙をぽろぽろと零しながら、必死に話そうとする。

 「うん、あのね‥‥‥あのね‥‥‥ぼくね‥ヒック‥‥‥」

 が、まったく意味を成さない言葉の羅列に、秀人は首傾げる。

 えぇーとぉ‥‥やっぱり‥これは‥カミナリのセイかな?

 涙ぐんだまま、既にパニック状態で理由を口にするコトの出来ない雅美を抱き寄せてやりながら、秀人はぼそっと言う。

 「お前、苦手なんだな、その調子じゃ」

 自分の状態を把握したセリフに、雅美はコクンと頷く。

 「うん」

 「ほら、毛布捨てて来い‥‥ほら」

 目の前で腕を伸ばしてくれた秀人に、雅美はカミナリ怖さに、何も考えずに縋る。
 当然、秀人が全裸であるということに、雅美は気付いていなかった。

 「うん」

 雅美は秀人の言葉に、ただ『うん、うん』と言いながら頷くだけであった。

 雅美、可愛いなぁ。
 こんなもんが苦手なのか? 綺麗なのになぁ‥‥‥‥。

 窓辺の向こうで暗黒の海に斜めに走る光の矢をチラリと見てから、クスッと静かに微笑う。

 秀人は、震える雅美を自分の腕に抱き込む。

 「ほら、雅美」

 「秀人君、ありがと‥‥くっすん‥‥‥キャッ‥‥‥」

 秀人の腕に抱かれて安心した雅美は、ついしがみついている指に力を入れてしまう。

 「雅美、爪を立てるな」

 さほど痛いとは感じなかったが、秀人は雅美の注意を自分に向ける為に文句を言う。

 「‥‥あ‥ごめんね、痛い? 痛い?」

 雅美は、秀人に言われて指先から力を抜く。
 が、秀人の腕からほんの少し血が流れているのを見て、つい子猫のように傷口を嘗めている。
 それを見て秀人は呆れてしまい、雅美に言葉もかけずに抱き上げた。

 駄目だ、こいつ、カミナリ怖さで、完璧に判断力が消えている。
 お前、判断力、どこにおいて来た。

 ‥‥‥‥っと、言っても無駄だな‥‥これじゃあ‥はぁー‥‥。
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