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第12章 エリカはポションを作ってみたい

185★クッキーでサンタ・レゾーヌを釣りました

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 イシュトの声に、エリカは、思考の海から浮上した。
 そう、エリカは、サンタ・レゾーヌと奈良のシカを比べて、シカセンベイの代わりに、クッキーを与えてみようと思っていたのだ。

 ダメ元という考えで、エリカは《魔倉庫》から、バニラの甘い香りタァーップリのプレーンクッキーを取り出した。
 その甘い香りは、アルファード達の元にも届いた。
 もちろん、サンタ・レゾーヌの好奇心旺盛な子供達にも届いた。

 そして、好奇心と無謀なチャレンジ精神を持っている子共のサンタ・レゾーヌは、エリカの前に飛び出した。
 そして、それは何というように、ベェーベェームゥームゥーと甘えるように鳴く。

 〔あら、口を開けてくれたわ…ラッキー…
 ポイッとね……食べてくれるかな?〕

 エリカはそう思った瞬間、鳴いた為に開いた口に、条件反射的に素早くクッキーを投げ込んでみた。
 その結果、驚いたサンタ・レゾーヌの子供達は、口を閉じてその勢いでクッキーを齧り、その甘さ美味しさとその香りにうっとりしてしまう。

 ご機嫌になった子供達は、エリカの側に寄り、嬉しそうにムゥーベェーと鳴きながら口を開けて見せる。 
 どうやら、もっと欲しいと言っているらしい。

 その甘ったれた声に反応して、エリカの《結界》の外に、サンタ・レゾーヌの子供達が次々と《転移》してきた。
 それには、もれなく親のサンタ・レゾーヌも付いて来る。
 その姿を見てエリカは、にっこりと微かに黒く笑った。

 〔うふふ……餌付け成功ね
 シカセンベイの代わりに
 クッキーって感じね

 角をひょいって取ってもイイのか?
 アルに聞いてみよう

 シカと一緒の角なら、取っても
 次の年には生えるからイイ
 って、なんないかなぁ?〕

 「アル、この子達は、クッキーで
 大人しくなるみたいよ

 それと、さっき聞きそびれたけど
 この子達の角って、また生えてくるの?」

 話しかけられたアルファードは、エリカの周りでクッキーが欲しく口を開けては鳴くサンタ・レゾーヌの群れを見た。
 改めて廻りを見ると次々に《転移》してくる姿も見える。
 
 〔あはは……エリカってば
 サンタ・レゾーヌを手懐けたようだな?

 クッキーで、魔物が懐くなんて
 奇跡としか言いようがない

 本当に聖女だなぁ…って、思う
 流石は、俺のエリカだ〕

 腐った?デレた?ことを考えながらも、爽やかな表情でアルファードは答える。
 
 「コイツ等の角は、発情期で
 ケンカしたときに折れたり

 俺達に切られたりすると
 半年から1年で生えるって
 書いてあったな」

 「だったら、クッキーで釣って
 角を切ってみる?」

 「ああ、試してもイイぞ
 既に2対の角を手に入れているからな」

 「それじゃ子供達は、クッキーを
 1枚あげたら、ポイッて捨てて

 大人のサンタ・レゾーヌに
 クッキーを与えてみましょうか?」

 「ああそれで頼む
 クッキーを食べている間に切ってみる
 それで残りが逃げてもかまわないから」

 こうして、エリカは子供達に1枚あげて、それらを追い払い大人のサンタ・レゾーヌを手招きしてみた。
 すると、いそいそと集まり、エリカの手からクッキーをもらって食べている。
 魔物としての凶暴さも、野生動物としての警戒心も無い、その姿にエリカは呆れていた。

 〔うわぁ~……奈良のシカさん達と
 全然かわらなぁ~い

 いや、図体はかなぁ~り大きいけど
 けっこう可愛いかも……〕

 アルファードも呆れていたが、エリカの手作りクッキーを自分以外のそれも魔物が食べていることにムッとしていた。
 だから、卑怯なこととか騙まし討ちなんて気にも留めず、あっさりと角を切り落とした。

 それに気が付いても、サンタ・レゾーヌは逃げようとしなかった。
 彼らは、人間が角を欲しがるだけで、自分達をケガさせたり、殺しないことをよく知っていたから…………。

 その為に、エリカのクッキーと引き換えに、大量の角を手に入れたアルファードだった。
 本来なら今までの苦労ってなんなの?という状態なのだ。
 が、実際には、今日初めてサンタ・レゾーヌの角を取ったので、特に感慨深い思いは無かった彼らだった。

 のちに、長命な神官や魔法使い達や騎士を引退した者達が、静かに涙したことは確かなことだった。
 このとき、アルファードは思った。
 エリカと出かけるときは、オスカーかマクルーファ、ミカエルやラファエル、マイケルやギデオンやレギオンを、絶対に連れて行くとこころに誓ったのだった。

 自分が、エリカを守って戦えなかったコトが、かなりムカついたので、余裕で動けるようにサポートしてくれるオスカーやマクルーファの存在のありがたさを実感していたから。

 こうして、思いがけずポーションの材料は手に入ったが、当初の予定(露店と屋台を見て歩く=デート)は未定になってしまった。
 サンタ・レゾーヌの角を回収しているところへ、血相を変えて完全武装した帝都騎士団の騎士達が到着したから…………。
 彼らに、この森に《転移》でサンタ・レゾーヌが現われることを改めて話し、エリカのクッキーを大量に与えた。

 「このクッキーを投げれば
 彼らはそれを求めていなくなります

 もし、人間とのトラブルが
 起きそうになったらそうして下さいね」
 
 面倒ごとを押し付けるんだからと思い、エリカは帝都騎士団の騎士達に、抹茶クッキー、チョコチップクッキー、プレーンクッキー、ホットケーキにお好み焼きなどを結構な量を出した。
 その量を見て、アルファードの内心は、かなり切れていた。

 〔俺のクッキーが、ホットケーキが
 お好み焼きが、なんで帝都騎士団の
 ヤツラに分けてやる必要があるんだよ

 ったく、ここに、サンタ・レゾーヌが
 現われるって情報を、俺達に
 教えるぐらいの働きしろよ

 ったく、後で団長をいたぶってやるか
 エリカのお菓子の対価も徴収してやる〕

 そんな醜い感情をエリカに見せたくなくて、黙っていたアルファードだった。
 アルファードの内心と変わらないコトを考えていたのは、アラン達エリカを守る守護騎士達だった。
 こころの狭い彼らは、後日、帝都騎士団に嫌がらせをしたのは言うまでもなかった。
 こうして、エリカは、ポーションの材料の1つを手に入れたのだった。 
  





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