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第10章 緑の魔の森にて

134★魔魚は、まるでヒレの長い錦鯉のようでした

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 アルファードのセリフに、美を慈しむハイエルフの感覚でもってオスカーが言う。

 「姿が美しいので、観賞用にしたいと
 思ってしまいますねぇ」

 「そんなに綺麗なの?」

 「ほら、もう見えるぞ」

 アルファードの言葉に、エリカは魔魚を見つけた。
 確かにオスカーの言う通りだとエリカは思った。

 〔うわぁ~ヒレ長の鯉の群れだぁ~……
 昭和三色に大正三色、黄金に丹頂、紅白
 孔雀に浅黄に黒に銀鱗プラチナまで……

 田舎の池で飼っていたから懐かしいなぁ~
 あの魔魚の群れ、飼えないのかなぁ?〕

 「オスカーさん、これって
 飼えないんですか?」

 そんなエリカの質問に、オスカーも残念そうに首を振る。

 「実は、今まで飼うことに成功したためしが
 無いんですよねぇ…残念ながら」

 「そうなんですか?」

 「まず、魔魚の主食がわかりませんし
 繁殖方法もわかりません

 《結界》でおおった中に入れておいたら
 一日も持たずにコロッと逝ったそうです」

 「うっ《結界》は、ダメなんですか?」

 残念そうに言うエリカに、アルファードも肩を竦めて言う。

 「俺も試したけどダメだったな
 直ぐに弱ってしまう」

 「ガラスに強化魔法をかけてその中に、
 あの魔魚を入れてみましたが
 残念なことに直ぐに弱ってしまいました」

 アルファードやオスカーの実験結果?に、エリカは首を傾げて考える。

 〔う~ん…だったら、マグロとかの養殖の
 マネして網で囲ってみればイイかな?〕

 「ねぇ~アル、あの魔魚達の群れに
 エリカの考えた方法を試しても良い?」

 アルファードはエリカの可愛いお願いに、ふわっと笑って頷く。

 「ああ構わない」

 エリカは許可はもらったと心の中で呟きながら、魔魚の群れを見つつ言う。

 「じゃーやってみるね」

 そして、エリカは頭の中で生簀(いけす)を作る為の呪文を考える。

 〔うふふふ…厨二病って、こんな時でも
 ワクワクしちゃうのよねぇ……

 魔魚の観賞用と食用を兼ねるものに
 なったら良いのになぁ~……
 とりあえず、やってようって感じね〕

 「《封印》の鎖よ、魔魚の群れを
 その《力》で覆え」

 エリカの詠唱と共に、空中にキラキラと輝く鎖が無数に現われる。
 そして、魔魚の群れを覆って行く。
 魔魚の群れは、光り輝く鎖に拘束されて行く。
 エリカのイメージした、養殖用の生簀(いけす)らしいもの出来上がった。
 
 〔うふっ…うまい具合に、空気の流れを
 感じられるのに、その閉鎖空間からは
 逃げられないって状態に出来たわ

 さて、人間を襲うなら、肉食なのかな?
 見た目からで、錦鯉を前提としたら……

 あのコイの緑色のエサの粒って……
 基本が、小麦粉にフィッシュミールに
 大豆ミールや米ぬか、それと海藻粉末に
 あとはオキアミミールかな?

 フィシュとオキアミで動物性たんぱく質
 ってことを考えると、肉食系でもあるよね
 いや、魚系で完全に藻だけがエサっていうの
 かなり極少だから……きっと肉食系〕 

 エリカが、鎖で作った網のようなもので魔魚を捕らえたのを見て、アルファードとオスカーは視線を合わせて苦笑する。
 《結界》や強化ガラスというガッツリと《封印》するようなものと違って、エリカの鎖は、緩やかに魔魚を封じていたから。

 そして、その鎖は、魔魚の動きに合わせて、長さを変えて魔魚が鎖にぶつからないようになっていた。
 この辺は、魔魚の鱗に傷がつかないようにと無意識で思った為らしい。

 鎖は、魔魚の自由を奪わずに、拘束するという荒業を行っていた。
 が、一定の法則で、泳いで行くがその場所にぐるっと回って戻るようになっていた。

 魔の森の広場のような場所の真上に魔魚は、《封印》の鎖で閉じ込められたまま優雅に泳ぎ回っていた。
 魔魚は出入り出来ない鎖の網を潜って、魔の森に棲息する小型の昆虫達が出入りしようとするとその昆虫を捕食していた。

 その姿は、パンくずを食べる鯉によく似ていた。
 魔魚の様子を見ていたエリカは、ついためしたくなる。

 〔ふむ、この錦鯉もどきの魔魚って
 鯉と同じように雑食なのかしら?

 せっかくだから、ちょっとだけ実験して
 みようかな……くすくす……

 《魔倉庫》には、パンが入っているから
 それを、ちぎって投げてみよう

 おにぎりも割って投げてみようかな?
 それとチーズや蒸し鶏も投げてみようかな?〕

 ちょっと食べ物を与えてようと思ったエリカは、アルファードとオスカーに話し掛ける。
 勿論、その食べ物を投げるのに、勿体無いを考えないエリカだった。

 「アル、オスカーさん、この魔魚って
 私の世界の鯉っていう観賞用兼食用の
 淡水魚に似ているから…………

 鯉の食べるモノを、ためしに投げて
 みても良いかしら?」

 エリカの問い掛けに、アルファードはしょうがないなぁという表情で頷く。
 
 「似たような姿をしていても
 その鯉って水中で生きているものだろ?」

 アルファードの言葉に、エリカはあっさりと答える。

 「そうだけど」

 きょとんとしているエリカに、アルファードは優しく言う。

 「エリカの思っている通りに、その空間に
 投げたものを食べなくてもガッカリするなよ
 魔物と普通の魚は別の生き物なんだからな」

 「うん、勿論わかっているって
 でも、実験してみたいの」







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