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第7章 帝都にて、それぞれの時と思い

084★気が付くのが遅すぎて、外堀は埋まってました

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 母親としてはちょっと難のある言葉と精神構造だが、皇帝の妃としてとても有能なキャロラインの言葉に、アルファードは肩を竦めて言う。

 「母上の《魔力量》は7人の妃の中で
 1番ですからね
 その辺は、感謝していますよ…今は……」

 そう言って、黙ったままおとなしくしているエリカを、嬉しそうに抱き締める。

 〔本当に、そのお陰で、男としては
 ちょっと寂しいけど…………
 エリカに警戒されてないのは確かだ

 オスカーはどうやら……
 パパ認識みたいだからな

 後は、俺のお兄ちゃん認識を恋人に
 いやいや、夫に変えればイイだけ……〕

 などとちょっと妄想し、少しにやけるアルファードを、キャロラインは生温い視線で見つつ言う。

 「そうね、内在する《魔力量》が多すぎて
 成長が著しく遅れていたものね

 でも、今は見かけの成長が遅れていて
 良かったんじゃないの?
 同じ歳頃の方が、親しくなれるものね」

 キャロラインの言葉も、エリカに好んでもらえる要因なので、今はアルファードの精神をさいなんだりしなかった。
 どちらかというと、嬉しい言葉だったりする。
 だから、素直にその事実を肯定する。

 「そうですね。今はそう思いますよ」

 見かけは変わらないが、ひとまわり大人の男の精神へと成長した息子のアルファードに、キャロラインは少し困った顔をしつつも言う。

 「アルファード、ちょっと頼んでも
 良いかしら?」

 その表情から、キャロラインの精神をさいなむモノと認定し、アルファードは予防線を一応は張る言葉で答える。

 「内容にもよりますが?」

 その愛しい夫(皇帝)との愛の子から、有能で強く《魔力量》が膨大な魔法騎士団の団長としての姿勢へと変わったアルファードに、キャロラインは残念そうに言う。

 「はぁ~直ぐに魔法騎士団の団長に
 なってしまうのね

 貴方は、私の子供だって自覚が
 本当に有るの?」

 言外に、もっと親子らしい会話をしたいというニュアンスを込めて言えば、アルファードは厄介ごとはゴメンですというニュアンスを込めて言い返す。
 それでも、副音声が付かないだけまだ、マシなのだ。

 「母上、仕事のことも有りますので
 手短にお願いします」

 端的に、要求をどうぞと言うアルファードに、キャロラインは言葉遊びをする余裕がないので、素直に要求を口にする。
 そう、母親としてではなく、有能な西の妃として………。

 「アルバードとアーカンディル様が
 帝都に帰還し、皇位継承権者が全員揃ったら

 王宮でも神殿でも………
 まっ…どこでも良いんだけどね

 とにかく、聖女候補全員と顔合わせをする
 晩餐会、昼食会、お茶会、夜会、園遊会とか
 なんでも良いから、開きたいの」

 言っている意味は理解できるでしょうと言うキャロラインに、アルファードは頷く。

 「そうですね
 全員の顔合わせは必要でしょう」

 〔パーティーで、聖女候補のエリカを
 俺の婚約者だってお披露目したい
 できれば、綺麗に着飾って………〕

 ちょっと妄想で、アルファードの口元が緩んだのを見逃さなかったキャロラインは、そうでしょうそうでしょうと、自分も無意識に頷きつつも、言う。

 「それを、陛下に提案して欲しいのよ」

 そのキャロラインの言葉に、アルファードは小首を傾げる。

 「母上が提案すれば良いでしょう?」

 そんなアルファードに、キャロラインは首を振る。

 「いいえ、それではダメなのよ
 私では、野心満々な感じになってしまうわ

 そんなこと言って、もしも陛下に
 嫌われてしまったら………
 生きていけないわ

 それに、陛下は自分が皇太子と認めている
 貴方に言ってもらいたいはずよ」

 どこまでも、父(皇帝)と自分の幸せの為に、最上の方法を探して言うキャロラインに、今はエリカという、心から愛しい者を得て、その気持ちが理解できるようになったアルファードは了承する。

 「わかりました…では、それは
 父上と、お祖母様に提案します

 どうせ、あのシオババアも聖女候補全員と
 現皇太子を会わせたいはずだから
 わりと簡単に通ると思う」

 自分の希望にかなう答えを返してくれたアルファードに、キャロラインは本当に嬉しそうに言う。
 
 「そう…嬉しいわ
 貴方は、エリカ姫と結婚が
 決まってくれて安心ね

 ても、まだアルバードが決まらないと
 母として気になってしまうもの………

 できれば、あの子にも聖女候補の1人を
 結婚相手に欲しいのよねぇ………」

 そう言うキャロラインの言葉に、エリカはそこでハッとする。

 〔あっ…うっ…はうわぁ~…どうしよぉ~
 そう言えば、さっきもそんなこと言ってた

 意識が拒否して、スルーしちゃったけど……
 な…なんか…本当に…結婚決まっちゃった?

 美少年のアルと…じゃなくて…皇太子でしょ
 あうぅ~…皇太子妃とかって無理ぃ~……

 いやぁぁ~…アルは好きだけどぉ~……
 うぅ~……と責任がぁぁぁ……って……

 でも、なんか……結婚を拒否する言葉を
 口に出来る雰囲気じゃない……どうしよう〕

 アルファードの腕の中で、ようやく意識が状況に追い付いた時には、外堀が埋められて、にっちもさっちもならないことを悟り、エリカは声も無くパニックになっていた。







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