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第6章 野営地にて………

041★1番可哀想なのは誰?

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 団長のアルファードの鉄拳制裁は怖い、が、更に怖いオスカーの言葉に、マクルーファは、でかい図体でちょこんと座り、情け無さそうに謝る。

 「姫君…勝手に…尻尾を出して…驚かせて…
 申し訳ありませんでした

 異界に存在しない獣人の常識を、押し付けて
 まことに申し訳ありませんでした」

 精神が大ダメージ中なので、いまだにケモ耳と尻尾をしまえない姿で、しょんぼりと謝るマクルーファに、エリカは首を振る。

 〔うっく…そんな姿も可愛いんですけど……
 悪いのエリカだし…あぁ~…なにも言えない

 でも、おためごかしに宥めながら撫でたい……
 いや、これ以上マクルーファさんがイジメられる
 要因を作っちゃ悪いわよね

 でも…あのふこふこの尻尾とか…撫でたいなぁ
 …じゃなくて、とりあえず謝っておこう〕

 内心の葛藤をなんとか押し殺し、エリカはしょんぼりしているマクルーファに言う。

 「そんな…私が…マクルーファさんの尻尾を
 勝手に握ったことが…原因で……

 オスカーさんに怒られてしまって……
 私の方こそ…ごめんなさい」

 エリカの言葉に、少し復活したマクルーファは、無意識のアピールを始めてしまう。

 「姫君は、優しいですね
 俺の祖先は…慈愛の聖女様と……」

 それに気付いたオスカーが、マクルーファの話しの途中で思いっきりぶった切る。

 「そこまでにしなさい…マクルーファ
 聖女様について、色々な説明をするのは
 神官と決まっています

 いかに…慈愛の聖女様の子孫でも………
 それは…許されません

 ここに居る…アルファード団長も
 キデオン様もレギオン様も………

 慈愛の聖母様…聖母な聖女様…寵愛の聖女様
 その他にも…《召還》された…
 多くの聖女様の子孫なんですよ…わかりますね」

 そう宣言するオスカーに、エリカを抱き締めているアルファードが、恐る恐る言う。
 怒ったオスカーは、アルファードでも怖いのだ。

 「でっでも…好きだって言うのは…
 良いだろう?」

 ひとつ大きく溜め息を吐いてから、オスカーはエリカを抱えて離さないアルファードを見ながら言う。

 「聖女様の説明が終わってからでしょう
 それは、その後で言って下さい」

 そんなオスカーに、アルファードは自分が団長で皇族だと主張しようとする。

 「おいっ…オスカー…」

 が、オスカーは、黒く染まった笑顔で、ざっくりとその言葉を途中で斬り捨てる。

 「私は、魔法騎士団の騎士です
 騎士は平等に扱います

 団長もマクルーファも騎士であることに
 代わりはありません

 姫君が好きなら…アプローチするべきです
 ただし…私が適切と思える範囲内で……」

 オスカーの言葉に、必死で言い返す(口をちょっととがらせて)アルファードだった。
 その姿は、騎士の頂点に立つ最強の男とは到底思えない。
 そう、アルファードは、単なるエリカに恋する世慣れない少年でしかなかった。
 
 「許せなかったら…どうするんだよ?」

 何を判り切ったことを聞くんですかと、顔に貼り付けてオスカーは笑う。
 まるで、優しい悪魔のように…………。
 なまじ、ハイエルフの血を引き、細身で整った容姿なので、余計禍々しさを感じてしまう。
 白金の髪に、薄い水色の瞳を細めてアルファードを見詰めて言う。

 「邪魔するに決まっているでしょう」

 その主を主と思わない態度に、つい、若くて経験の少ないギデオンが、無謀にも口を挟む。
 どうやら、兄、アルファードが不憫に思えたかららしい。

 「いや…それ…言って
 イイことじゃ無いでしょう」

 その言葉を放ったギデオンに視線を向けて、オスカーはいっそう黒く笑う。

 「おや、私に意見ですか?
 キデオン様」

 オスカーのマジな視線を初めて受けたギデオンは、一瞬でビビッテしまう。
 尻尾巻いた犬と化して逃げを打つ。

 「いっいやそんなことは……」

 動揺してどもるギデオンに笑いかけるオスカーに、他の者達も震える
 無敵状態のオスカーは、爽やかに笑う。

 「そうですか?」

 そんな怖い男に、エリカはあっさりと声をかける。

 〔なんか…色々と…アル達が可哀想な気がする
 ここは…私が話しの流れを変えるしか無いよね

 どんなに怒っていても…パパやお兄ちゃんは…
 私の声に反応してくれたから………
 きっと、オスカーさんもなんとかなるはず
 ……たぶん…きっと…〕

 「オスカーさん、何を邪魔するんですか?」

 可愛いエリカに声を掛けられたオスカーは、その黒いオーラをすっと引っ込め爽やかなオーラに戻した。

 〔不味いですね…マクルーファのセイで…
 理性がガリッと削られてしまいましたね

 姫君は…騎士達の言い争いを
 聞いたコトが無いんですから………

 ここは…ひとまず…コイツらの躾けを諦めて
 姫君を安心させましょう

 異世界から来ただけでも不安なんですから…
 私が…守ってあげなければ……〕

 「姫君、今は、気にしなくて良いですよ」

 オスカーの声とオーラが、自分の知っている状態になったのでエリカはほっとしてふにぁ~と無意識で笑う。

 「そう……ですか?」

 落ち着いたエリカに、オスカーはにっこり笑って尋ねる。

 「はいそうですよ…ところで…
 聖女様について…聞きたいですか?」

 エリカは、騎士達の噂話しの聖女について聞くことを諦めていなかった。
 それを強調するような言葉でオスカーに言う。

 「はい。気になって眠れないかもしれません」

 エリカは、この時、魔法騎士団の最強の盾(オスカー)と最強の矛(アルファード)を手にしたのだった。
 なお、矛盾という言葉と違って、魔法騎士団では、盾の方が強いと有名だったりする。






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