11 / 450
第2章 聖女の資格について
011★恵里花が聞きそこねた、神官による守護獣と魔物のお話し2
しおりを挟む聖女候補達の反応に、鬱屈した気分が浮上したワルター神官は、うっすらと無意識に笑っていた。
が、ここには彼を諌めてくれる、両親も、第1皇子も居ないので、他の神官や騎士達はただ見ていることしか出来なかった。
そんな雰囲気など意に介さず、ワルター神官は、更に淡々と魔物の説明をする。
既に、話しがよれていることに気付かない、やはりかなり残念なワルター神官である。
「試練の森に生息している鳥類ですが
小型な鳥達は普通の森にいる鳥と
同じ種類が多いですね
まれに、小型の鳥類に化けている
幻獣がいます」
ほっとする内容に、聖女候補達は反応する。
「鳥は安全なんですね?」
1人が確認のように聞くと、ワルター神官はなんでもないことのように言う。
「鷹より大きい鳥になると
魔物の可能性が限りなく上がりますので
見かけたらそっと姿を隠すコトを
お勧めします」
それを聞いて、先ほどの忌避剤のようなモノはあるのか確認する為に、ワルター神官に聞く。
だって、説明してくれるのが、ワルター神官、彼1人しかいなかったから……。
「鳥型の魔物を忌避するモノは無いんですか?」
「ありません」
取り付く島も、にべもない答えに、聖女候補達は嘆く。
その声は、心情そのままにハモッていた。
「「「「「「うわぁぁぁ~…それって…マジ
かんべんしてよぉぉ」」」」」」
ワルター神官は、いじめっ子の表情をチラリッと覗かせつつも、そ知らぬフリで説明を続ける。
「次に、犬や猫の姿の動物ですが…………」
もう、こうなったらと、聖女候補の1人が、ワルター神官の説明を途中でぶった切って言う。
その声は悲鳴がやや混じっていた。
「忌避用の匂い袋とか
忌避剤とかあるんですか?」
ぶった切られたことを気にせず、ワルター神官はハフッとこれ見よがしに嘆息して、肩を竦めながら言う。
「あると言えばありますが」
どこか言葉を濁すワルター神官の様子に、聖女候補達は、無意識に全員がほぼ同じ角度で、コテンと小首を傾げる。
「「「「「……?……?」」」」」」
そのイイ反応に、ワルター神官はあまり忌避珠に意味は無いんですけどねぇ~的なニュアンスを含めた声で言う。
「獣型用に開発された
忌避用の匂い珠がありますが…………」
再び、説明が途中で止まったので、聖女候補の1人が思い切って聞く。
「何か問題があるんですか?」
その問いに、ワルター神官は、それはもう、大きく頷きながら言う。
「彼らは総じて鼻が良いんです」
元の世界での犬や猫を思い浮かべつつ、別の聖女候補が重ねるように言う。
「犬は鼻がききますよね」
確認するような言葉に、ワルター神官は再び遠くへと視線を向けながら、少しなげやりに言う。
「ええ、それを逆手に取ったモノなので
匂い珠を投げて、それが弾けると
辺り一面に強烈な匂いが放たれます
鼻が良いので、あっという間に
逃げてしまいます
ただ、それをすると守護獣になるはずの
神獣や聖獣や幻獣も寄ってきません
投げた人間にも、強烈な匂いが
纏わり付いてしまいますので
馬も乗れなくなります
ですから、使わない方が良いでしょう」
そう、彼、ワルター神官は、過去にやむにやまれず、緊急時ということで、使ってしまったことがあったのだ。
その後、必死に自分自身に《清浄》や《消臭》などの魔法をかけたが、1週間ばっちり消えず、愛馬にもしばらく拒絶された経験があるのだ。
そんな彼、ワルター神官の過去を知らない、聖女候補達は、切なげな溜め息を吐いたあと、気を取り直して聞く。
「もふもふの魔物と、それ以外の
見分け方はあるんですか?」
1番聞きたかった問いの答えは、ワルター神官の無残な言葉だった。
「聖女である皆様の感覚にて
判断して頂きます」
ガッツリと立ち上がって、頑張って色々と聞いていた聖女候補達は叫ぶ。
「「「「「「うっそー」」」」」」
そして、がっくりと座り込んでしまうのだった。
その哀れを誘う姿を、なぜか優しげに微笑みながら見詰めるワルター神官の姿に、回りにいた者達は、我が可愛さに何も言わなかった。
その場に、ワルター神官の両親(良心とも言う)や第1皇子(ストッパー?)が居たのなら、いたいけな少女達を苛めるんじゃないと怒ってくれたのだが…………。
あいにく、その場には、誰も居なかった。
その為、落ち込んだ聖女候補を宥める苦労をするのは…………。
という状態になってしまうのだった。
苦労を約束された彼らは、いずれワルター神官をシバキ倒せる第1皇子に、一部始終をチクルのはたしかな未来と…………。
11
お気に入りに追加
2,240
あなたにおすすめの小説
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
召喚されたのに、スルーされた私
ブラックベリィ
恋愛
6人の皇子様の花嫁候補として、召喚されたようなんですけど………。
地味で影が薄い私はスルーされてしまいました。
ちなみに、召喚されたのは3人。
2人は美少女な女子高生。1人は、はい、地味な私です。
ちなみに、2人は1つ上で、私はこの春に女子高生になる予定………。
春休みは、残念異世界への入り口でした。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる