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0002★異世界の変動
しおりを挟むだが、取捨選択によって長く続いた平穏な世界の秩序は、突如として突き崩された。
最初に、幻獣世界の変革の兆しを敏感に感じ取った者は、二種類の反応を示した。
ある種の幻獣達は、その変革の時を乗り切る為に、より強い王を戴く為に蠢き出した。
また、一方では、その頂点たる王になる為にと、強き個体が狂ったように身内争いをし始めた。
まず真っ先に狙われたのが、身近にいる弱い個体だった。
そう、将来ライバルになり得る個体を、育つ前にと摘み取りだしたのだ。
それとは別に、その秩序の崩壊を感じ取っても冷静沈着を保ち、ソッと隠遁生活へと移行し、隠れ住む幻獣達も現われた。
勿論、人族もその変化に気付き、触発される者も現われた。
そう、上位種である幻獣を捕らえ、その全てをむさぼり喰らって、自分を存在進化させようという者達だ。
当然のこととして、普通の動物達すらも、備わった本能に促されて、弱い幻獣を獲物とするモノも出現していた。
それは、穏やかで静寂に進んでいた文明文化の均衡が、明確に崩れた証拠だった。
長い時をかけて築かれた、高度文明と秩序が突如として一挙に崩壊し、まさに弱肉強食の世界へと逆戻りしたのだ。
その時から、幻獣世界は、どんな意味においても【力】こそ全てという弱肉強食が【理】となったのだった。
それは、長き停滞に飽いた、創造神の悪戯だったのだろう。
ながらく平穏な状態で停滞した世界は、進化と無縁の死と静寂の世界と変わらぬのだからと。
そんな均衡が採れた世界に、あらゆる生命あるモノが、前へ進み進化する為に一石がと投じられたのだ。
そう、新たなる【理】を是として進化を促す為に。
創造神は…様々な種に存在進化を促す為、多様な【能力】のカケラを振り撒いた。
勿論、その多様な【能力】のカケラは、新たに誕生する生命にしか付与されないモノだった。
そして、それは創造神も関知するコトでは無かったが、ある事象も含んでいたのだ。
それは、既に誕生して時を経た幻獣を含むあらゆる生命体にも、その存在進化を促す【能力】のカケラを取り込む機会が、平等に与えられているコトだった。
ただし、その平等に与えられた機会というモノは、酷く単純明快で原始的な方法だった。
それは、様々な【能力】のカケラを内包した個体を、むさぼり喰らって、自分の中に取り込むというものだったのだから。
それが叶うと知った生命体は、当然のコトとして、生まれながらに王の素質や資格といった、上位の存在へと進化する為のカケラを持つ幼い幻獣達を探し求めた。
捕まえて、むさぼ喰らい、更なる上位の存在になる為に。
【能力】が付与された幼い個体が真っ先に狙われ、素質や資格などのカケラを持たない強い幻獣に、むさぼり喰らわれ始めた。
何故なら、王となる素質や資格を有する個体をむさぼり喰らうことによって、本来、それらを持たずに誕生した幻獣でも、素質や資格を継承するコトが出来ると知ってしまったからだ。
ようするに、王となる為の素養と資格を持たずに誕生したモノでも、それらを持つ個体をむさぼり喰らい、その全てを吸収するコトによって、資格や素養が得られるのだ。
勿論、種族的には本来保有していない、魔力器官や魔力袋と共に【魔力】なども、保有個体をむさぼり喰らえば全て得られるという特典まで付加されていた。
まさに進化に貪欲な者には、堪らなく魅力的な条件だった。
そして、それは人族でも野山に生きる動物でも一緒だった。
全ての生命体に与えられた、ある種のチャンスに気付いたならば、それを手にしようとするのは、もはや当然のことだった。
勿論当然のこととして、王の資格や素養のある個体を喰らえば喰らっただけ、その保有する素質と資格が上昇し、それに伴う全ての【能力】が飛躍的に上昇する。
ちなみに、王の資格のカケラだけや、素養のカケラだけという個体は、結構な頻度で次々と誕生していたりする。
資格や資質のカケラは、見た目が砕け散ったガラス片のような姿をしていると、まことしやかに噂されていた。
また、小さなカケラではなく、王の資格そのモノや、素養そのモノはまったき真珠のような完全な球体だと噂されていた。
勿論、そのカケラや球体にも、内包するモノの大小はかなりある。
そのカケラをかき集めて、初めて完全な球体となった王の素質や、素養となるのだ。
当然のコトとしてその素養や資格も、カケラや球体を集めれば集めるほど、大きさは増大する。
その中で、両方の素養と資格を兼ねそろえ、カケラではなく球体を内包して誕生する幻獣は希少な存在だった。
その希少な存在は、だいたい百万体に一体ぐらいの割合でしか誕生しなかった。
そして【魔力】による【魔法】を行使する為に、精神文明が極限まで成熟したコトで、争いを好まない穏やかで冷静沈着な高度文明と秩序は、それまでの停滞期間の反動が出たかのようになっていた。
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