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0016★絶望へのカウントダウン
しおりを挟む身体の条件反射によって音をたててしまった威知護は、複数の足音が近付いて来るのを知覚するコトは出来たが、相も変わらず金縛りから逃れるコトは出来なかった。
あげく、首を絶息寸前まで締められた上で、女の姿を持つ悪霊に生体エネルギーを啜り上げられたコトで、死を意識するほどの寒気と共に、力が抜けて、全身に気怠さまで感じていた。
小部屋の前までたどり着いた足音と、彪牙と2人の部下とのやりとりを、霞みのかかった頭で聞きながら、威知護は金縛りよって、まったく動かない身体をなんとか動かそうと必死で踠く。
が、生体エネルギーをゴッソリと奪われた上で、金縛りが解けない威知護は、覚醒した意識だけが、酷く焦っていた。
そんな中、威知護は絶息によって朦朧とし、霞のかかっている状態のまま、頭の芯だけが妙に醒めていくのを感じてた。
…………なんだ?急に意識がはっきりして来たぞ?…………
…………じゃない…意識が目覚めたって…身体が動かなきゃ…………
女の姿を持つ悪霊に纏わり憑かれ、縊り殺すように首を締め上げられた最悪な状態で、その破滅への足音は、威知護に更なる絶望を感じさせる。
本当は、今すぐにでも裸足で逃げた状態だが、生体エネルギーを奪われた威知護の身体はピクリとも動かなかんった。
『ほぉ~ら来たわよ…あなたを……闇の巫子に磨いてくれる男達が……
クスクス……どんな風に…啼いて…堕ちるのかしら…たのしみ』
いやらしくかろうじて呼吸が出来る程度に締めつけられる喉に、女の姿を持つ悪霊の負の冷気が侵食する。
ジワジワと染み込むように、身体が冷えて行くのを、威知護は息苦しい中で感じていた。
生体エネルギーを奪われ、負の霊気を染み込まされてた威知護は、身体が痺れるような感覚にとらわれる。
それが、だんだんと強くなって行くと同時に、威知護は思考だけが明瞭なコトを恨む。
…………クッ…久々にマジ怖ぇ~……グゥゥゥ…苦しい…………
…………あぁ~…くっそぉぉぉ~逃げられるモンなら…………
…………今すぐ、どっちからも…逃げてぇ~ぞ…くそぉぉ~…………
…………けど…無理だぁ~……金縛り解けねぇ~し…………
…………生体エネルギーを枯渇寸前まで奪われて…………
…………負の霊気を染み込まされたんで身体が痺れてる…………
…………嗚呼…悪霊に首を締め上げられて縊り殺されるのが先か…………
…………いや、俺を穢すのが目的だって言った…………
…………闇の巫子にするって…嬲り者にして穢し貶めるって…………
…………その相手は、たぶん間違いなく今、この部屋に向かっている男達…………
…………階下で制裁を取り仕切っていた男に嬲りモノにされるか?…………
…………ふっくぅぅぅ…息が…呼吸が出来ねぇ…あぁ意識が霞む…………
威知護の意識が絶息で落ちる寸前、複数の明確な足音が聞こえ、中二階の小部屋の引き戸が引かれた。
その瞬間、音無き音が響いた。
ピキッ ビキッキキキキィー カシャーン
響き渡る破壊音に、威知護はソレが、女の姿をした悪霊が現れたと同時に、この小部屋に張られた【結界】が破られた音だと知る。
開かれた引き戸の向こうから、ぶわっと強烈な〔霊威〕が室内へと流れ込んで来る。
それと同時に、女の姿をした悪霊と地縛霊が同時に悲鳴を上げる。
『…ひゃゃゃゃゃゃゃゃゃ~…うそぉぉぉぉ~……ギャッン………』
地縛霊であるはずの女の霊が驚愕の悲鳴を上げ、小部屋の中から強制的に流れ込んで来た〔霊威〕よってはじき出される。
その場から動かすコトが出来ないはずの地縛霊が、引き戸を開かれただけで無理やり排除されるほどの強烈な〔霊威〕に、威知護は絶望と同時に自分がある意味では助かったコトを知る。
何故ならば、今、威知護の首を絶息寸前まで締めていた女の姿の悪霊の手の力が、その瞬間から緩んだからだ。
『クッ…うぐぅぅぅ……ばかなっ…ばかなっ……ただの人間に…この私が
……ここまで来たのにっ……私達を視えもしない…人間の〔霊威〕に
口惜しや……汚辱を与え……穢れさせれば……
我等が****様の…贄が…闇の巫子…器へと磨かねばならぬのに……』
そんな口惜し気な声に重なって、体育館で制裁を取り仕切っていた男が小部屋の中へと入って来る。
同時に、カツカツと大きくない靴音が近付いて来た。
その直後、女の姿をした悪霊も、先刻の地縛霊と同様、彪牙の〔霊威〕によって、威知護の側からはじかれる。
『クソッ……だが…見付けた……私の刻印も付けた…クッ…』
という捨て台詞を威知護に残して、地縛霊同様、小部屋から女の姿をした悪霊もはじき出されたのだった。
その瞬間、直前まで気道を締め上げられていた威知護は、ヒュッという呼吸音と共に息を吸い込み、ゲホゲホと咳き込む。
が、枯渇状態まで生体エネルギーを奪われ、負の霊気を染み込まされた身体は、金縛りの原因が排除されても、そうそうに復活するコトは出来なかった。
やっと真っ当な酸素を取り込んだ威知護は、苦しみから解放されたコトで、生理的な涙を滲ませていた。
直ぐ側にまで足音が近付くと同時に、威知護も強烈な〔霊威〕を浴びる。
が、それはけして不快なモノではなかった。
…………はぁ~…この〔霊威〕…なんか癒されるぅ~…………
…………寒風を浴びた後に、暖房の効いた部屋に入ったような感じだ…………
呆けている場合ではないのだが、生体エネルギーをゴッソリと奪われ、負の霊気を染み込まされた身体が、息吹を吹き返す感覚に威知護は酔う。
男として危機的な状況にあると理解っていても、やっと長い金縛りと呼吸困難な状態から解放された威知護の身体は、思うように動くコトは出来なかった。
…………やべぇ~…この〔霊威〕…滅茶苦茶…気持ち良い…………
…………って…もしかして…俺の【対】なのかぁ?…………
…………うわぁ~…その可能性が濃厚…ってやっぱり男か…………
…………顔も見てねぇ~のに…俺の中の何かが喜んでる…………
…………なんにしても、一時的にでもあの女の悪霊から解放されたぁ…………
…………いや、全然問題は解決してねぇ~けど……刻印着けられたし………
などと、現実逃避によって、現状から乖離したコトを考える威知護だった。
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