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0012★ミサンガが千切れ、追憶へと意識を飛ばす
しおりを挟む溜まった疲労感から意識を眠りの中へと滑り落した威知護は、悪霊から逃れる為の避難場として入り込んだ場所が、ある意味では一番危険な場所だと知らなかった。
威知護が入り込んだ体育館は、第一体育館と呼ばれる場所だった。
この場所は、氷室彪牙という男が治める領域だった。
だが、転入したての威知護はその事実を知らなかった。
クラスメイトとの交流もそこそこに、学園内の清浄なスポットと、自分の【対】となれる者を探すコトに一心になってしまい、足元がおろそかになっていたのだ。
そんな男の領域と知らずに、威知護は悪霊からの隠れ場所に選んでしまったのだった。
本来なら使用許可をとって、やっと使えるかも知れない場所だと知らず、疲れ切った威知護は昏々と深い眠りに揺蕩う。
開け放たれた小窓からは、心地よい夏風がゆるゆると流れ、精神的に疲労困憊の上、悪霊に〈生気〉を奪われた威知護を甘く微睡ませていた………が。
キーンコーン…カーンコーン……
と、聞き慣れた音に、意識が浮上し始めたところだった威知護を覚醒を促す。
その少し気の抜けたチャイムの音にハッとして、もそもそう動き腕時計を見て溜め息を吐き出す。
…………っ……マジかよぉ~っ……だぁ~ヤベー…なぁ…………
…………もしかしなくても…今のって…昼休み終了のチャイムの音だ…………
…………保健室に陣取った悪霊から隠れてほんのチョットだけ…………
…………ここで隠れて休もうって…思っただけなのに昏倒してた…………
…………何時の間に、時間が経ってたんだ………じゃねぇ~…………
…………取り敢えず、編入してきて一週間程度で授業はサボれない…………
…………午後の授業ぉ~………って……あれっ?……げっ…………
…………嘘だろ…ミサンガがめっちゃ熱もってて…火傷しそうなほど熱い…………
そう威知護が意識したとほぼ同時に、手首に着けていたミサンガがブツンッと千切れて、体操用マットに滑り落ちた。
…………えっとぉ~…うそっ…マジかよぉ~…ミサンガが千切れた…………
…………って…くっそぉ~…身体が全然動かねぇ~…あの悪霊か?…………
…………もしかしなくても…金縛りかよぉ…だぁぁぁ~…ついてねぇ~…………
…………けど、不幸中の幸いななのは、あの悪霊では無いようだ…………
チャイムの音によって、どうにか意識は疲労の眠りから覚醒したものの、威知護の身体は思うように動かなかった。
起きる為に身体を動かそうにも、自分の意志通りにならないのだ。
こうなっては、もう仕様が無いと威知護は開き直った。
…………だぁ~…動かねぇ~………はぁ~…しょーがねぇーかぁ…………
…………こう身体が気怠い上に、金縛りだもんな…………
…………もしかしたら、疲労から来る疑似金縛りかもしんねぇ~し…………
…………疲れすぎたセイでの身体のオーバーヒートの金縛りだといいなぁ~…………
…………どっちにしてもの思い通りに身体が動かねぇんじゃ…どうしようもねぇ~…はぁ~…………
…………アレから…たまぁ~にあるんだよなぁ…こういうこと…………
…………はふっ…しゃーねぇーか……午後の授業…フケちまうか…………
…………まだ、眠いしなぁー…ああ…もうイイや…しょうがない…………
…………次に起きたら、金縛りが解けていることを願おう…………
そう思い、威知護は何度か身動いても、金縛りが解けなかったので、結局午後の授業をサボることにしたのだった。
十六歳の誕生日と同時に、ガラリッと生活環境というモノが変わってしまった威知護は、溜め息に埋もれながら双眸を閉じるのだった。
そして、再び気怠い夢現つに身を任せた。
ぬるま湯のような、浅い微睡みをむさぼりながら、威知護は幼少期へと意識を飛ばす。
そう、自分が〔霊能力〕を手に入れる切っ掛けになった日へと…………。
それは、初めて威知護の母親の祖父母に出会った日だった。
威知護にとっては、曾祖父母と初めて顔を合わせた日でもあった。
…………あれは、確か…母さんの葬式の時だったかなぁ…………
…………実際には、生きているけど、死んだコトになった日…………
切なくも懐かしい思い出に呑まれた威知護のこころは、その当時の出来事を昨日のように、鮮明に蘇えらせる。
『威知護坊は、何が欲しいかな?
このジジがあげられるモノなら、何でもプレゼントしてやるぞぉ……
して…何か欲しいかな?威知護坊は?』
『そうよぉ、威知護ちゃんは何が欲しいかしら?
私達が上げられるモノなら、何でも用意してあげるわよ』
葬儀に参列した曾祖父母は、皺くちゃの顔を更に皺くちゃにして、母親を失って泣く威知護に、そう慰めの言葉ともに言ったのだ。
その時に、願ったのは母親の復活だった。
今、あの時にもどれるならと思うほど恥ずかしげも無く、母親を生き返らせてくれと泣きながら訴えた。
その時、曾祖父は母親の珠貴が本当は死んでいないコトを、ソッと教えてくれたのだった。
ただし、時期が来るまでは、そのコトを忘れるように、深層意識へとその事実ゴト沈めて…………。
母親の珠貴を生き返らせてという願いを封じ、更に問われた威知護は、強くなりたいとこころから望んだ。
それで導き出した答えは、超能力というモノだった。
母親を理不尽なコトで失い、泣いていた威知護を必死で慰める曾祖父母達に、子供らしい夢見がちなお願いをしたコトを思い出す。
…………泣く俺を、お爺やお婆は慰めてくれたっけ…………
…………今思うと…マジでないわぁ~っていう無謀なお願いしたよなぁ…………
子供特有の思い込みから、テレビでやっていた超能力は万能という認識で、欲しがったコトを思い出して、威知護は頬を赤らめる。
…………じゃなくて、なんか葬式の時の違和感があるなぁ…………
…………この記憶の中にある、変な感覚はなんだろうか?…………
…………確かに、あの葬式の時に俺は母さんの祖父母に会っている…………
…………でも、なんでか?母さんの両親の方は葬式に来てなかった?…………
…………いや、今ならわかるけど………じゃない…流されるな俺…………
…………この〔霊能力〕を手に入れたきっかけってお爺とお婆じゃん…………
…………嗚呼…懐かしいなぁ~…母さんのお爺ちゃんとお婆ちゃんに…………
…………恥ずかしげもなく超能力が欲しいって強請ったんだっけか…………
…………今更だけど、今考えると…かなり無謀なお強請りだよなぁ…………
威知護が超能力を願った当時、テレビでは色々な超能力番組が盛んにやっていた時期だった。
それを日夜見ていたコトで、超能力ってモノは万能ってイメージが刷り込まれ、欲しがったのが真相だったりする。
ようするに、お子様ゆえの現実の見えていない希望だったと言える。
そんな威知護が可愛くてしょうがなかった曾祖父母は、頭を撫でながら、うんうんと頷いて言った。
『そうか…そうか…威知護坊は…可愛いのぉ~………
なるほど、超能力が欲しいのか…よいよい………
では、このジジが逝く時に、威知護坊に超能力をあげよう』
『そぉ~…超能力ねぇ~……それなら…このババも逝く時に……
威知護ちゃんに、超能力をあげるわねぇ………
ババは、ジジが居ないと生きて行けないから…一緒に授けてあげるわ』
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