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0152★他の人が起きる前に出発します
しおりを挟むリアは手早く着替え、何時ものフード付きマントを羽織って馬車の外へと出る。
そこには、既に起きて軍馬達の世話をしているグレンが居た。
「おはようグレン……ごめんねぇ…昨日は外で寝たんだってぇ……」
「ああ、おはよう、リア……いや、ぜんぜん大丈夫だったぞ。コイツらが側に居てくれたからな」
そう言って、グレンの両脇でリアに向かって尻尾をふりふりする二頭のシャドウハウンドを見て頷く。
「そうなんだ………うふふふ…ありがとうね………あら…綺麗なブルーの瞳ねぇ……アクアとも違う……海みたいね…え~と…女の子かしら? 女の子なら左手上げてくれる?
そう女の子なのね…それじゃ、マリンって名前はどうかしら?」
『ありがとうございます、マスター…マリン……素敵な名前…嬉しいです』
ご機嫌で尻尾をフリフリするマリンの頭を撫でてから、グレンの反対側の子を見れば、こちらも左手を上げて見せてくれる。
「そう、あなたも女の子なのねぇ……んぇ~…やっぱり綺麗な瞳ねぇ~…そうね、シアンなんてどうかな?」
『シアン…私はシアン……マスターありがとぉ~……』
リアに名前を付けてもらい、シアンはよほど嬉しかったらしく、小鹿のように跳ねて見せる。
そんなシアンの頭を撫で撫でしてから、リアはグレンに確認する。
「グレン、朝ごはんどうする? ここで食べてから行く? それとも、直ぐに移動して、ここから少し離れてからにする? クイン達は気遣いできる子達だけど、その分、気疲れしちゃうと思うのよねぇ……」
リアの言葉に、グレンはチラリッと視線を周りに向けてから頷く。
「そうだな、取り敢えずは此処から移動した方が良いかもなぁ………。昨日のコトを見ていた奴等に、妙なちょっかいを掛けられても困るしな。よし、直ぐに移動準備しちまうわ。ナナは子供達と一緒に馬車に乗せたままにしといてくれるか? ちょっとスピード出すから………ってことで、マリンとシアンで、他の子達も小さくなって馬車に乗るように先導してくれ」
前半はリアに、後半は左右にグレンに懐いて侍っていたシャドウハウンドのマリンとシアンへと指示する。
二頭のシャドウハウンドは、その辺でまだゴロゴロしている仲間の元へと走って行く。
リアも、いそいそと馬車の中へと戻る。
ちなみに、馬車から降りて来ていたのはリアだけで、アクアやクインはついて来ていなかったりする。
リアは気付かなかったが、リアが馬車から降りる為に背中を向けた途端、ナナがムクッと起きて、クインとアクアに、レオとグリを押し付けたのだ。
クインはレオに懐かれ、アクアはグリに懐かれて、リアに付いて行くコトが出来なかったのだ。
ちなみに当のナナは、我が子三頭が目覚めてしまったため、子供達が馬車の中を走り回らないようにと苦労していたりする。
そう、お前達だけリア(マスター)の後に付いて出るなんて許せないと、二頭をそれぞれクインとアクアに手渡した嫉妬深いナナだった。
そして、そんなやり取りを、ルリはあくびをしながら見ていたコトは言うまでもない。
それもこれも、リアが外に出ても、クインとアクアを除いた、シャドウハウンドが十頭外でごろ寝しているから出来るコトだったりする。
外でグレンと話したリアは、直ぐに馬車の中へと戻る。
「おや、どうしたんだい? 何か忘れ物でもしたのかい?」
ルリの質問に、リアは首を振る。
「ううん…ほら…ここだと人が多いからさ……ちょっと移動してから、ゆっくりと朝ごはんにしようって話しになったの……ってコトで、グレンは高速移動するみたいだから、ナナは馬車の中にこのまま居てね。直ぐにマリンとシアンが他のシャドウハウンド達を連れて来るから………」
そう言いながら、リアは姿見を腕輪型アイテムボックスから出して、そのまま入れるように魔力を流す。
リアが姿見の設置をしたのとほぼ同時に、小型化したマリンとシアンが馬車の中へと入って来る。
なお、リアに名前を付けてもらうと、シバ犬くらいまで縮むコトが出来るらしい。
名前をもらったマリンとシアンはシバ犬サイズだが、その後に続いたシャドウハウンド達は、超大型犬のグレートデンやボルゾイのサイズだった。
ふむ…あとで、残りのシャドウハウンド達にも名前を付けてあげよう
あと、ナナの子供達にも名前は必要よねぇ……あまり得意じゃないんだけどなぁ
まぁ…そんなコトを言ってられないものね
でも、グレンが早期移動を先に言ってくれて助かったわぁ~……
流石に、仲間でもない人達がいるところで、タブレットでお買い物なんて出来ないものね
やっぱり、初めての異世界の転生先から、前世の故郷のモノをネットショッピングしたら、時空神様にも捧げたいモノね
そんなコトを考えている間に、タッタッタッタッとシャドウハウンド達が姿見の中へと姿を消す。
そのついでに、ナナはひょいひょいひょいと自分の子供を姿見の中へと入れてしまう。
クククククッ ククククッ クゥゥ~… クゥ~……
と、楽し気に鳴いて、マリンにシアンを銜えて、姿見へと放り込み、クインとアクアも同じように放り込んだ。
シバ犬並に小型化していた為、ナナにあっさりと捕まってしまった四頭だった。
そして、二頭の足元に纏わり付いて楽しそうにしていたレオとグリもひょいひょいと放り込む。
ついでに、ユナも放り込むのがナナだった。
馬車の中に残ったのは、物陰に隠れていたお掃除スライムから分離させた子と、リアとルリと、大事なモノは姿見の中にしまっちゃえをしたナナだった。
そんなナナに、溜め息を付いたルリは、シャドウハウンド達が入り終わったコトを確認して、扉を締めてカンヌキを掛ける。
リアはリアで、広くなった馬車の中を見回してから、御者台の背面に当たる扉を開いてグレンに声を掛ける。
「グレン、みんなを入れたから、こっちはオッケーだよぉ」
「了解……んじゃ、出発するか……街道まではゆっくりな………腹が軽い状態だからな、思いっきり走って良いぞぉ~……良い場所があったら、そこで休憩と朝ごはんにするからなぁ~………」
グレンの言葉に、軍馬達は極力足音を立てないように、ゆっくりと大街道へと向かう。
勿論、リアは出発前に、隠蔽や消音などを重ね掛けしていたコトは言うまでもない。
ちなみに、夜明け直前で目覚めたので、起きて動き回っているのは奴隷くらいなモノで、命じられて仕事をしていたので、リア達のコトを注視する余裕は無かったりする。
ソッと宿泊が出来る停留所から出た軍馬達は、楽しそうに走り始める。
今回も、速度などを重視し、四頭立てである。
ご機嫌で走り始めたのを確認し、グレンがリアが居る馬車の中を振り返って小首を傾げる。
「あれ? リアとルリとナナ以外、みぃ~んな姿見の中へと入れたのか?」
その言葉に、物陰に隠れていた小さなお掃除スライムが飛び出して来る。
勿論、ナナが怖いので、リアに飛びついて、スススゥーっと肩に移動してしまう。
「ピッ」
自分も居るとアピールするミニお掃除スライムに、グレンは苦笑する。
「そっか…お前も居たんだな……なんだ、ナナに捕まらないようにかくれていたのか?」
「ピッ」
そうっと、小さく一部を尖らせて持ち上げ、手を上げたような状態で鳴く、ミニお掃除スライムだった。
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