悪役令嬢?当て馬?モブ?

ブラックベリィ

文字の大きさ
上 下
124 / 173

0123★数の暴力に立往生

しおりを挟む


 穏やかな時間というモノは、得てして破られるモノである。
 まさに、今がそれだったりする。

 リア達がまったりとした時間に揺蕩(たゆた)っていた時に、それは起きた。
 聞こえて来るのは、シャドウハウンド達の重なる唸り声と、争っている物音だった。

 物音によって覚醒したリアがガバッと起き上がっろうとしたところに、ルリは長い尻尾でソッとその身体を支える。
 リアは支えてくれたルリに感謝しつつも、まず先に御者をしているグレンへと声を掛ける。
 
 「……ハッ……グレンっ…何があったのっ………ルリ…ありがとう…助かるわ」

 脂肪が付きまくって思い身体を支えてもらったリアは、ルリにお礼を言いつつも、膝に縋って眠って居たユナの頭を撫でて言う。

 「ユナも起きたのね………って、あら…馬車が止まっているわね……もしかして、不味いのかしら?」

 リア同様、馬車が停止したコトに気付いたルリが言う。

 「アタシが外を確認してくるよ…シャドウハウンド達と何かが戦っているようだからね……加勢すればどうにでもなるだろうからね……ちょいと撫でて来るよ」

 リアに巻いていた長い尻尾をシュルリッと外して、一瞬で人型へと変じたルリは、すぐさま外へと出て行った。

 う~ん……まぁ…シャドウハウンド達がそうそう負けるとは思えないのよねぇ~………
 あとは、数かしらねぇ~……数って言えば、サンドウルフかしら?
 あれも集団で獲物を襲う魔獣だから困るのよねぇ~……

 ああそうだ…ちょっと覗き穴から見てみようかしらねぇ
 標的が定まって、見えているなら魔法も使えるし
 魔力も半分以上戻っているしね………ふふふふ………

 ソッと身体を起こし、脱いだ精霊のブーツを履きなおし、唇の前で指を立ててシーとユナに言って、リアは馬車の側面から外を見る為に開けられている覗き穴へと顔を近付ける。
 勿論、覗き穴には、透明な板が嵌め込まれ、外から覗けないように普段は覆いが付けられていたりする。

 リアはチョイッと覆いを避けて、穴を覗き込めば、大量のサンドウルフが群れていた。
 軽く五十頭ぐらいは居そうな大きな群れに襲われて、立往生してしまったらしいコトに気付き、リアはナナを探す。

 ヤダ…ちょっと想像していたより不味いかしら?
 数が多すぎじゃない……いくらシャドウハウンド達が居ても、これはキツイわね
 あの子(軍馬)達の足で駆け抜けられなかったってコトは、相当頭の良いリーダーがいるようね

 じゃなくて、それよりも今はナナよ…ナナは何処なのかしら?
 あの子って意外と強いみたいだけど、お母さんなのよ
 あの数だもの、もしもしがあったら絶対に困るのよ

 出来ればさっさとナナを回収して、馬車の中に乗せちゃいたいわ
 子供達は、安全の為に姿見の中に回収しましょう
 ユナには悪いけど、先に子供達と一緒に姿見の中に入って居てもらいましょう

 「ユナ…悪いけど、子供達と一緒に姿見の中に隠れていてくれる」

 そう言いながら、リアは腕輪型アイテムボックスに収納した姿見を出して言う。

 「うん…レオとグリと子ウクダちゃん達と入ってるね」

 言いたいコトはいっぱいあるだろうに、それを我慢して頷くユナに、リアはソッと手を伸ばして頭を撫でる。

 「ありがとう、ユナ……直ぐに、ナナも回収するわね」

 リアの言葉に頷き、ユナは姿見の中へと子供達と共に入って行く。

 ヨシ……これで、ユナと子供達は大丈夫ね
 あとは、ナナを回収して、左右の軍馬も前に繋いで四頭立てで駆け抜けるしかないわね
 それには、まずナナの回収ね

 リアは覗き穴からナナの位置を確認して呆れる。

 あらあら……ナナってば…参戦していたのね
 いや…シャドウハウンド達でさえ嫌がるんだものね
 それでも、数が多すぎるわね……もしかしなくても、五十頭じゃすまないかも

 そんなコトを思いながら、リアはナナが入れるぐらい扉をガバッと開いて呼ぶ。

 「ナナっ……入ってっ……」

 リアはウインドランスをサンドウルフの上に降らせながら、手招きする。
 リアの意図を察したナナは、素直にサンドウルフを足蹴にして馬車の中へと飛び込む。
 追い縋るサンドウルフ達は、馬車に張られた結界に阻まれて、ナナをとらえるコトは出来なかった。

 いかに防御に秀でた結界であろうとも、進行方向に障害となるサンドウルフがみっしりといては、いかな優秀な軍馬達だとて立往生してしまっていた。

 「リア…危ないコトをするでないっ……」

 サッと御者台側からルリが馬車の中に戻って来た頃には、ナナはさっさと姿見の中へと入っていた。
 それを腕輪型アイテムボックスに収納したリアは、にっこりと笑って言う。

 「もう…心配性ねぇ~…結界が張ってあるから大丈夫よ……でも、なんか異常ねぇ~…あんなに大きな群れってそうは無いと思うんだけど」

 リアの反省の無い言葉に、ルリは溜め息を吐いて言う。

 「小規模なスタンピードかねぇ……そうすると、ゴブリンやコボルトなんかも出て来るだろうし……オークなんかも居れば…そうだって断定できるんだけどねぇ……」

 「えっと……その言い方だと、今は居ないのね」

 「ああ…見たところ、サンドウルフだけの集団のようだから、どこからか追い出されたって可能性はあるねぇ……縄張りにワイバーンでも居着かれたのかねぇ……」

 「追い出されたって? そういうのあるの?」

 「たまにあるね……大概はワイバーンかねぇ……このアタシが出て暴れても…全然引く気なんか無いんだから…だいぶおかしくなっているようだねぇ………」

 そうよね、ルリって魔獣帝なのよね……なのに引かないって、確かにおかしいわ
 なるほど、正常な判断が出来なくなっている状態なのね
 たしかに…ある種のスタンピードね……困るんだけど

 ルリの言葉に、なるほどと思いつつ、リアはハッとして聞く。

 「グレンは?」

 リアの質問に、ルリは肩を竦めて言う。

 「一応、軍馬達を繋ぎなおしているのは見たから、四頭立てで、前に魔法でも打ち込んで無理矢理突破する気なんじゃないかねぇ………はぁ~……」

 やれやれという風情のルリに、リアはクスッと笑って言う。

 「なら、繋ぎ終わったら突破だね………魔法は私が打ちたいから、御者台の後ろから打つね………御者台には乗せてもらえないだろうから……で、シャドウハウンド達は大丈夫だった?」

 リアの質問に、ルリはちょっとすまなそうな表情になる。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...