悪役令嬢?当て馬?モブ?

ブラックベリィ

文字の大きさ
上 下
122 / 173

0121★今の幸せ……

しおりを挟む


 リアが馬車に乗ったところで、ユナも一緒に乗り、ルリは屋根にグレンは御者台で御者という形で、馬車は出発した。
 ちなみに、古代遺跡で思い切り走った二頭も、中で休むよりも一緒に走りたい(ユナに訴えて、リアに伝えてもらった)というコトで、結局は馬車の左右でまったりと走っていた。

 勿論、今馬車を曳く軍馬二頭も、機会が有ったら思い切り走りたい(やはりユナに訴えた)とのことで、リアは肩を竦めて頷いていた。
 グレンは、大街道に出たら、頃合いを見計らって走らせてやるコトを約束していた。

 ちなみに、シャドウハウンド達は、ご機嫌で馬車を中心としてダイヤ型の包囲陣で周囲を警戒しながら、楽しそうに走っていたりする。
 やはり、どんな生き物も、外で自由には最高の待遇だったりする。

 まして、リアは妙な服従命令など出さないので、ただただ楽しいだけだった。
 ちなみに、食べたい獲物とか居たら、好きに捕まえに行って良いという許可も与えられていたりする。

 リアに自覚はないが、世間一般で言う従魔のような扱いは一切していなかった。
 幸いなコトに、錬金術師による改悪?改良?がされている為に、とても頭が良く、自己判断も高いコトは判明していた。
 そして、リアを自分達の主人と決めて、嬉々として守っているのだ。

 その光景は、はたから見れば、馬車を襲っているように見える光景だったが、リア達は誰もそのコトに気付いていなかった。
 常識があると思われるグレンですら、既にシャドウハウンド達に囲まれているという状況に慣れてしまっていて、ついぞそのコトに気付くコトは無かった。

 軽快に走る馬車と、楽しそうなシャドウハウンド達の中に、ナナもちゃっかりと混ざって走っていたりする。
 ちなみに、シャドウハウンド達も、ナナの行動を邪魔したりはしない。

 野生のウクダの怖さは、シャドウハウンド達にとってもかなりの脅威だった。
 なにせ、ナナがクククククーッと鳴いて、一歩を踏み出せば、尻尾を股に挟んで後ずさりする程には怖いらしいのだ。

 その姿を見たリアは、本当にウクダは怖い野生動物なのねぇ~…と、呑気に呟いていた。
 だいぶ、グレンやルリという存在に慣れたナナは、威嚇をしなくなっていたのは確かな事実だった。

 馬車を護るように走るシャドウハウンド達と、それに怯えも見せずにルンルンで走る軍馬達。
 そこにちゃっかりと混じって、楽しそうに走るナナの姿を見て、グレンはフッと無意識に笑う。


 本当に、リアは自分で籠の鳥だったって言うだけあって、世間知らずだよなぁ
 クスクス………だいぶ、自分が太っているコトを気にしているようだが……
 俺は、フコッとしているぐらいの方が好きだなぁ~………

 ハチやアリみたいに、腰をギュッと搾っている女は気持ち悪いんだよなぁ
 やたらと強烈な香水とかを付けて、ギラギラの宝飾品で飾って……ウエッ
 思い出したら、吐き気が………はぁ~……ヤダヤダ……

 グレンは、今の自分の恵まれまくっている境遇に感謝する。

 まっ……奴隷堕ちしたから、もう王位争いなんてモンから脱落しているだろうしなぁ
 今更、そういうモノに何にも魅力なんて感じない……ってか、元からいらないモノだし
 ただ、あの頃は、死にたくないって思うだけで、何がしたいって言うのも無かった

 リアに助け出され、あっさりとルリと交換された身体は元に戻るし
 なにより、リア手ずからの料理が美味しいんだよなぁ~………
 もしも、奴隷という身分から解放されたら、リアに婚姻を申し込みたいなぁ

 今の俺は、何も持って無いから、そんなコトは言えないけど………
 いや、このまま、リアの奴隷でずっと側に居るのも魅力的だよなぁ
 俺は、リアのモノっていう響きが……所有される安心感がたまらない

 リア達と居れば、不安も孤独も感じなくて良い
 リアが俺に恋愛感情を持たなくても良い…家族愛で充分満たされる
 そりゃ~…リアと思いを交わして……結婚出来たら最高だけどな

 そんなコトを思いながら、グレンはチラリッと馬車の中へと視線を振る。
 馬車の中では、リアがまた何らかの料理を作っているらしく、美味しそうな匂いが漂って来ていた。

 「グレ~ン……味見してくれるぅ~………」

 そう言う声と共に、リアが新しい料理を手に現われる。

 「コレね……ピザって言うんだけどね………もっとチーズ乗せた方が良いかなぁ? カラアゲとか、照り焼きチキンを刻んだの乗せて焼いたモノなんだけど………」

 木皿に何種類か乗せられた細長い三角形の美味しそうな匂いを振りまくピザに、グレンは喉がゴクリと鳴る

 「へぇ~……ピザって言うのかぁ~……うん…美味しそうな匂いだな」

 「うん……手綱もって無くても走ってくれるんだから、ちょっと手を綺麗にして食べましょう……はい『クリーン』……手づかみで食べるのよ」

 そう言って、ひとつを摘まんで食べて見せるリアに、グレンは頷いて木皿に乗せられたピザを手にする。
 そしてもそのままリアが食べたように、ピザにかぶりつく。

 「うん…美味いな……チーズがイイ感じで溶けて……」

 似たような食べ物はあるけど…リアが作るモノって本気で美味しいんだよなぁ~…
 それに、毒とか媚薬とか、そういうモンを気にしないで、温かいモノを食べられる
 後継者レースに乗せられている間には、味わえなかった幸せだ

 ハメられたコトを恨む気持ちよりも、解放された嬉しさが勝る
 そりゃ~…実験材料にされたあげくに、魔獣の姿で生餌は悍ましかったけど………
 別に、性的な凌辱や虐待とかも受けてないからなぁ……恨む要素が少ないんだよな

 グレンは、二つ目のピザに舌鼓をうちつつ、リアに問い掛ける。

 「どうする、取り敢えず、マジでこのままモルガン国に行くか? あの国は、意外と交易で食料品とか色々と珍しいモノがあったはずだけど………あと、たまに遺跡の出土品で妙なモノが市場に出ていたりするんだ」

 グレンの言葉に、リアはちょっと小首を傾げて言う。

 「うん、グレンが平気なら行きたいなぁ~…新しい香辛料とか欲しいもの……チーズやヨーグルトはナナのお乳……あっ……次に休憩する時に、お乳を搾ってあげなきゃ……大丈夫かしら?」

 リアの言葉に、グレンもすっかり忘れていたので、思わずナナへと視線を向けた。
 途端に、ピンッときたらしいナナがタタッとすぐそばまで走って来て、首を伸ばす。
 どうやら、木皿に乗ったピザを目敏く気付いたようだった。

 グレンは木皿に乗る、まだ食べてない味のモノを奪われるくらいならと、半分以上食べたピザをナナの口元へと差し出す。
 ナナはもらえるコトにラッキーという思いしかなく、パクッと拘りなくグレンの手から食べかけのピザをもらい、おとなしくさがって行く。

 あとでまたもらおうと、おとなしく引き下がったのだ。
 グレンはラストになったピザをもらい、モグモグしてから言う。

 「なんか…エールが欲しくなるな……カラアゲやソーセージの時も思ったけど……」

 奴隷の身分で、そういうモノは手が出ないと思いつつ、思わずそう口にしてしまったグレンに、リアが笑う。

 「くすくす………ルリも似たようなコト言っていたわよ………今日の夕食には、エールも出そうか?」

 「えっ? もしかして有るのか?」

 確認するグレンに、リアは型を竦めて頷く。

 「うん……私は呑まないけど……買っておいてくれたらしくて、エールもあるわよ……私は、ぶどう酒が好みだったから……いっぱい残っているのよねぇ……」

 その言葉に、グレンは無意識に瞳をキラキラさせる。

 「じゃぁ…夕飯にはエール欲しいな」

 「くすくす………了解………と……そう言えば、このピザ…どうだった?」

 「美味しいっ……ソーセージが乗ったのも食べたいな……あと、あと乗せでローストビーフが乗ったヤツとか……」

 「ふふふふ………次の休憩までに、色々といっぱい作っておくわね」

 そう言って、リアが馬車の中へと戻る後ろ姿に、グレンは今の幸せを噛み締める。

 うん……この幸せは、絶対に手放せないな…リアの奴隷、最高だよ
 嗚呼、ずっとずっと……リア達と旅をしたいなぁ~………
 ときどき、遺跡とか『ダンジョン』で冒険したりして…

 グレンは、リア達とずっとこのままで居られるコトをこころの中で祈るのだった。

 
 

 
 
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...