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0081★ルリは頭を抱える
しおりを挟むセシリアは、調理して出来上がったカラアゲとソーセージを、自分の腕輪型のアイテムボックスと、ユナに持たせたマジックポーチに分けて、収納する。
それをなんとはなしに観ているルリの前で、ユナが瞳をキラキラさせながら、セシリアに自分もできるかと聞いて、簡単な調理の真似事をし始めていた。
ユナは危なげなく水魔法を使い、セシリアの目の前でジャガイモもどきを洗浄する。
勿論、ユナは洗浄に使った水を、側に出した壷へと放り込む。
そして、風の魔法を使い、ジャガイモもどきを浮かせて、器用に皮を剥く。
更に、剥いたジャガイモもどきを細切りにするのを観て、ルリは頭を抱えてしまう。
嗚呼…失敗……ユナが、魔法はそういう風に使えるモノだって学習しちまっているよ
それでも、砂漠では水が大事だというコトをちゃんと理解してくれているね
捨てずに、壷に溜めているからねぇ…偉いよユナ
無意識にウンウンと頷きながらも、ユナがセシリアの魔法の使い方を真似しているのを改めて確認し、苦笑いを浮かべてしまう。
そう言えば、外での調理の間も、ユナはリアの側に付きっ切りだったからねぇ
知らないってコトは、基本となる固定概念のようなモノがないってコトだからね
ユナは、魔法に関しての一般常識のようなモノがなかったんだねぇ
だから、身近な者の使い方を観て覚えるしかない
そして、リアが使っている魔法を観ていたから
魔法は、そうやって使えばいいって学習しちまったんだろうねぇ
だから、ユナはリアの真似がそのままできちゃうんだろう
ある意味で、リアはユナの姉というより母親に近いんじゃないかしらねぇ
子供の姿をしているけど、本当は見掛けよりも、ずっと幼いのかもしれない
きっと、ユナは生まれたてで無力な時に、ハンターに捕獲されたんだろう
はぁ~…こうなると親だって存在しているのか、あやしいモンだよ
本当に、もしかしなくても、アタシよりもとんでもない存在かもしれないねぇ
そんなコト知らずに、捕獲したユナを、単なる狐獣人の子供って思ったのかもねぇ
きっと、見た目の愛らしさから、愛玩用として高く売れるって捕まえたんだろうねぇ
そういうモノが好きな、貴族に飼われると思ったんだろうね
だから、主人となる者に素直に飼い主に従うように、食事を少なくしていたんだろう
リアに、お腹いっぱいご飯が食べたいって言うほどだから………
高く売りつける為に、何も教えていないのは確かだね
躾けるのも楽しみっていう、悍ましくもあさましい貴族なんてごまんといるからね
そんな貴族には、かなりの確率でゲスな者が存在するからねぇ……おおイヤだ
そういう意味じゃ、ユナもリアに買われて幸せなクチだね
しかしかまぁ……本当に、上手にリアの魔法の使い方を学んでいるねぇ
既存の常識が無いから、魔法の可能性ってモンをリアに伝授されやすいんだろうねぇ
まぁ…そうやって、新しい魔法ってヤツは伝授されて行くんだろう……たぶん
いや、まぁ…リアの魔法が特殊なだけだと思っていたんだけど、違うようだねぇ
ユナが使えるってコトは、固定概念がなければリアの魔法を習えるってコトだからね
アタシも、ちょっと挑戦してみようかねぇ………面白そうだし
生もイイけど、やっぱり調理したモノの方が美味しいって思えるしねぇ……
簡単なモノなら、アタシでも真似できるかも知れないし………
リアの真似をするだけで、更に魔力操作の質が上がりそうだしね
「リア、アタシも手伝おうか? 洞窟の中の遺跡が『ダンジョン』だった場合、何日も迷うってコトもありそうだからね」
ルリの言葉に、セシリアはちょっと首を傾げてから頷く。
「なら、ルリにはお肉を切ってもらおうかな…このぐらいのブロック肉をいくつか作ってくれるかな…ローストビーフにするから…あと、サイコロステーキ用に2センチぐらいの小さな肉の塊りが欲しいな」
「了解だよ、リア……ところで、ローストビーフって何だい?」
セシリアの言葉に、ルリは頷いから、聞きなれない言葉に首を傾げる。
「んーと、肉の半分ぐらいを加熱して、薄切りしたモノかな? 生肉とは違った風味になると思うよ……何なら、ひとつ見本で作るから、味見してみる?」
セシリアの言葉に、取り敢えず、ジャガイモの細切りをちゃんと成功させたユナが可愛く片手を上げて言う。
「はぁ~い…ユナも、そのローストビーフって言うの食べたいですぅ」
その言葉に、集中して調理していたセシリアは、お腹が空いているコトに意識が向く。
「そうねぇ…なんかお腹空いて来ているし…って、もしかして、お昼ご飯の時間過ぎてない? 時短で作るから、適当なところで馬車を停めてもらおうか………」
そう言いながら、セシリアは御者をしているグレンに声をかける。
「グレン、ちょっと遅いけどお昼にしない? なんかお腹空いてきたから………」
セシリアがそう声を掛けると、御者台の方からグレンが答える。
「了解………ちょうど、岩って呼べそうなモノがゴロゴロと転がるところが近くに見えたから、その手前で停止させるな」
そう言うのとほぼ同時ぐらいに、馬車の速度がスッと下がったのを体感する。
「おや、丁度良かったみたいだねぇ……ちょっと馬車ン中では制御の心配あったから、外で肉の調理の補助をしてみようかねぇ」
ルリがそう言えば、ユナがにこにこしながら言う。
「ジャガジャガを洗って切るの簡単に出来たよぉ……ルリお姉ちゃんも簡単にできるよぉ」
と、愛らしく言うユナに、ルリはちょっと苦笑を浮かべながら頷く。
「そうだね、そしたら、リアの負担が減るね」
「うん」
へぇ~……あのジャガイモもどきって、ジャガジャガっていうんだ
やっぱり、名前が似ているんだねぇ……
そう言えば、正気……というか、前世を思い出して助かったなぁって思ったのよね
そんなコトを考えて居る間に、馬車が停止してグレンが御者台から戻って来る。
「どうする? 昼食は馬車の中で食べるか? それとも外にするか?」
グレンの言葉に、ルリがセシリアを振り返る。
「あっじゃぁ…お外で食べようよ……結界張れば風が吹いていても平気だし……って、もしかして日差し強い?」
セシリアの言葉に、グレンちょっと首を傾げてから答える。
「う~ん…大丈夫じゃないかな………んじゃ、その水が入っている壷は俺が外に出そう………ジャガジャガの剥いた皮も入っているようだから、馬達も喜ぶだろうしな」
そう言って、壷を持って馬車の外へと向かう。
「そんじゃリア、ナナと子供達も外に出してやりな」
「うん、そうだね……それじゃ外に出たら隠蔽結界張って、姿見から出すね………それじゃ、ユナ馬車から降りよう」
「うん」
嬉しそうなユナと、優しい表情のセシリアの背後について、ルリも長い尾を優雅に振りながら馬車から降りるのだった。
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