悪役令嬢?当て馬?モブ?

ブラックベリィ

文字の大きさ
上 下
73 / 173

0072★その頃のアゼリア王国13 大神官長の回想と破滅への足音

しおりを挟む


 あの国よりも、我が国の方が魔法を使うのがうまい。
 それ故に、証拠が無くて事件は未解決のままになっている。
 だが、公爵は妻と義娘を殺され、可愛い盛りの義孫娘を奪われたコトを、心底から恨んでいる。

 また、公爵令息も義母と義妹を殺され、可愛い義姪を奪われたコトを恨み忘れていない。
 公爵令息は結婚して息子も二人出来たが、その妻も息子達もセシリアを溺愛していたし、いずれはどちらかの嫁にという話もでていたから………。

 先代ハイドランジア公爵から渡されたカメリアの持参金と、商会のおかげで傾いていた公爵家は、すべての借金を払い領地経営も順調になり、公爵家としての対面も余裕でこなせるようになっていた。
 その恩義もあるし、なによりアメリアとカメリアを家族として愛するようになっていたから………。

 たとえ、セシリアの父親がわからなかったとしても、それは関係無かった。
 また、先代ハイドランジア公爵に、カメリアとアメリアのコトを頼まれていたから………。

 そして、娘の現ハイドランジア女公爵が、カメリアとアメリアに恨みと憎しみを持っているから気をつけて欲しい、出来れば守って欲しいと頼まれていた。
 それでもカメリアの望みで、貴族街と平民街の境にある小さな屋敷に、平民としての暮らしが出来がようにしていたらしい。

 そこで、公爵も嫡男も一緒に暮らしたりもしていたようだ。
 これは、ある意味で良い気分転換になっていたらしい。

 そして、貴族街に買い物に来ていた時に侍女や護衛とはぐれて、泣きそうになっていた侯爵令嬢とアメリアが知り合い意気投合して、目立つカフェに入り侯爵家に連絡をした。
 それが縁で、嫡男と侯爵令嬢は婚姻したようだ。

 これで、貧乏公爵と言われていた公爵家は、社交界での地位を元に戻したのだった。
 その上で、公爵家の嫡男夫妻の自分達に子供が出来なくても、アメリアに血縁の貴族男子を婿養子にすれば良いと考え、跡取りに対してのプレッシャーが無かったから、あっという間に妊娠したようだ。

 そして、跡取り息子とスペアの次男を、侯爵令嬢はあっさりと産んだのだ。
 子育てにカメリアもアメリアも参加していたし、乳母もいたので仲良くのんほほんと子育てを楽しんでいた。

 だから、アメリアが父親のわからない子供を妊娠しても、誰も何も言わなかった。
 調べたところによれば、アメリアの側にいた男は、他国の複雑な事情のある王子だった。

 そして、ハイドランジア公爵家の色彩をまとったセシリアが生まれた。
 王家に生贄の王妃を差し出す順番が、ハイドランジア公爵家にきていたというコトは無かった。

 それなのに、現ハイドランジア女公爵は、順番に当たっていたリリエンタール公爵に順番の交代を申し出た。
 リリエンタール公爵夫妻は相思相愛で、子供を愛していたので愛人を作っていなかった。
 要するに、王家に差し出す為の生贄を作っていなかった。

 それに目を付けて、現ハイドランジア女公爵は、生贄の順番の交換を提案したのだ。
 引き換えに、リリエンタール公爵家の宝石鉱山から産出されるいくつかの宝石を望んだ。

 そう、憎い異母妹の娘を生贄として王家に差し出し、宝石を手に入れるという………一石二鳥を得るコトを計画したのだ。
 そして、他国の公爵の孫娘を誘拐するという暴挙に出たのだ。

 父親のわからない子供を産んだ後妻の連れ子である娘を殺して、その娘を誘拐しても何も気にしないと思って………。
 私は、セシリアの身元を調べさせて、その真実を知った時、真っ青になった。

 他国の公爵の妻と娘を殺し、孫娘を誘拐したという事実に恐れおののいた。
 下手したら、戦争一直線だ。

 そして、セシリアの父親は、事情があるとはいえ他国の王子だった。
 下手したら、二つの国から戦争をふっかけられる。

 先代ハイドランジア公爵に頼まれた公爵は、現ハイドランジア女公爵を疑っていた。
 が、他国の公爵を捕まえるコトは出来ない。
 そう、たとえ証拠を見つけても………。

 どこの国も、他国に自国の民を渡したりはしない。
 犯罪者だからという理由があっても、それはしない。

 犯罪者として自国の民を手渡すのは、その国より下だと認めるコトになるから………。
 私としては、セシリアが生贄として浄化するコトに耐えられなくなったら、王妃達を生贄にしてセシリアの身体に溜まってしまった負を浄化する予定だった。

 そして、現ハイドランジア女公爵と、その夫を秘密裏にあの公爵達に差し出す予定だったのに………。
 現ハイドランジア女公爵の産んだ子供達は、すべて生贄にする予定でいた。

 どちらにしても、現ハイドランジア女公爵は、戦争を引き起こすような重大なコトをしでかした犯罪者なのだから………。
 こころを痛めなくて良い、生贄達なのだから………。

 そう、あのくず王子の相手として、子供を生み魔道具を着けて浄化の生贄として使うコトのできる、理想的な生贄。
 息子のほうには、王妃をあてがって子供を生ませても良いしな。

 私のこころも、もはやそれを悪いとも思わない。
 多くの無辜の者達を、地位をカサに無理強いして、必要のない負を生み出し続けた罪人達の系譜に、同情などしない。

 いや、同情できるような輩ではないから、こころ穏やかに非道な考えをもてるというものだ。
 どちらにしろ、生贄を差し出すだけの公爵家や侯爵家など必要ない。

 浄化をするコトを真摯にまっとうする者達が、本当の貴族なのだから………既に、極僅かになってしまっているが。
 貴族を名乗るだけの穀潰し達に、義務と責任を背負ってもらう。

 元々が傲慢な高位貴族達だったが、義務と責任の浄化を真面目にしなかった公爵家や侯爵家は、大地の負に招き寄せられるように入り込んだ、他国の罪業を背負う悍ましい貴族達に入り込まれ、既に本筋に取って代わられている。

 建国からの確かな血筋を残して居る家もあるが、分家や傍系と化している。
 義務と責任を放棄した結果だろう。

 だからこそ、なんとしても建国からずっと、正当な血筋を維持し続けているガウェイ王には長生きしてもらい、まっとうな王子を作ってもらわなければ………。
 我らの忠誠は、代々この国の浄化をしている王に対してのみ捧げているのだから。

 とはいえ、あちらの公爵家の者は知っているのだ、現ハイドランジア女公爵が身勝手な恨みを持っているコトを………疑われているコトは既に必至。
 いや、既にセシリアの存在を確認する為の間者が侵入しているだろう。

 いくら他国のコトで易々と手が出せないとは言っても、こちらにセシリアが居るコトがバレれば言い逃れは出来ない。
 即、戦争というコトにはならないだろうが、不和になるコトは免れない。

 セシリアの父親は他国の王子で、母親は公爵令嬢………そして、セシリア自身も他国の公爵令嬢なのだから。
 そして、セシリアの置かれていた環境を知るコトになるだろう。

 そう…セシリアが、このアゼリア王国で生贄として………散ったコトを………。
 この目で確認して居ないが、セシリアがアゼリア王国に居ないのは確かな事実。

 あの浄化の為の魔道具は、大神官長たる私か、ガウェイ王にしか外せないモノなのだから………いや、一応、エイダン王子も外せるかもしれない。
 散っていない可能性が無いとはいえない………が。
 きっと、ろくでもないコトをしているだろう。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...