悪役令嬢?当て馬?モブ?

ブラックベリィ

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0071★その頃のアゼリア王国12 大神官長の回想と隠された真実

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 巧妙に隠されていたが、セシリアの出自を探ってみれば、眩暈とひきつけを起こしそうなモノが出て来た。

 それは、先代ハイドランジア公爵の真実の愛というモノの結果だった。

 先代ハイドランジア公爵は、他国の平民女性を愛した。
 その平民女性は、ハイドランジア公爵夫人を恐れて、平民として暮らしていた。

 先代ハイドランジア公爵が、別邸や宝石やドレスを与えると言う度に。

 『あなたの愛だけが欲しい。それに、愛の証のこの子がいるから何もいらない』

 と、何度も言い、平民としての暮らしに必要な分以外のモノを、受け取らなかった。
 なんとも、つつましやかで、羨ましいほどの女性だろうか………ゴホン。

 その女性は、王都の平民と貴族が住む境にある、小さな家に娘と無理やり付けられた数人の召使のみとで、慎ましくくらしていた。
 ただし、娘は公爵令嬢としてふさわしい教育を受けさせられた。

 それなのに、先代ハイドランジア公爵夫人は、二人を憎み何度も嫌がらせを繰り返した。
 勿論、現ハイドランジア女公爵も、同じように憎しみを二人にぶつけた。

 それに怒った先代ハイドランジア公爵は、先代ハイドランジア公爵夫人の不貞と浪費を理由に、ひっそりと離婚した。
 勿論、その不貞と浪費の分の金額を、先代ハイドランジア公爵夫人の実家に請求した。

 その結果、先代ハイドランジア公爵夫人は、実家にもどるとすぐに病死した。
 先代ハイドランジア公爵は、その金で、その平民女性の故国に小さな家を買い、召使を雇い、二人が生涯受け取れるように、年金を与える契約をその国の機関とした。

 現ハイドランジア女公爵に、愛する平民女性と可愛い我が子に与えた資産を奪われないようにと………。
 勿論、先代ハイドランジア公爵自身が持っていた個人資産もすべて二人に与えていた。

 自分の娘をまったく信用していなかったから、自国ではなく他国の機関に離婚した公爵夫人の実家からむしり取った資産を委ねたのだった。
 その上で、セシリアの母アメリアとその祖母カメリアが貴族としての生活が出来るようにと、先代ハイドランジア公爵は思い切ったコトをした。

 その国のとある傾ききった貧乏公爵の後添いに、カメリアを書類上で嫁がせた。
 その為に、自分の才覚で稼いだ個人資産と、その為に設立した商会を持参金として渡した。

 貧乏になるだけあって誠実な公爵は、結婚したカメリアの娘アメリアを養女として社交界デビューをさせていた。
 公爵には、それなりに優秀な嫡男がいたので、アメリアを養女にしてもかまわなかったから………。

 先代ハイドランジア公爵は、この国の生贄に愛する我が子や孫がされないように、自国との縁を二人に切らせた。
 この為に、正式に認知されていたアメリアは、ハイドランジア公爵家の爵位も資産も継ぐ権利を失った。

 そう、この国の犠牲? 生贄になる義務と責任も、同時に無くなったのだ。
 すべての手続きと、アメリアの社交界デビューを見守り帰国した先代ハイドランジア公爵は、帰国と同時に倒れて亡くなった。

 かの国の社交界デビューは、この国よりも早い。
 だが、婚姻は、社交界デビューと一緒ではない。

 社交界デビューは、婚約者を見つけるためにするものという不文律があるからだった。
 わずか10才で社交界デビューするのだ。

 子供だから、ドレスも簡素で気安いモノを………アクセサリーも、そこまで派手で高価ななものは付けない。
 ようするに、貧乏な貴族でも、そこまで経済的に負担にならないようにしているのだ。

 先代ハイドランジア公爵は、早い社交界デビューに目を付けてこの国の公爵に最愛の妻と娘を託した。
 自分に何があっても、二人を守る為に………。

 そして、自分の屋敷に妻と娘の安全を確保して帰ったコトで、気が抜けていたところで死んだ。
 これは、現ハイドランジア女公爵の毒殺である。
 その証拠も、既に手に入れてある。

 先代ハイドランジア公爵は、実の娘であるエリザベスを嫌っていたし疑ってもいたので、二人を他国に逃がして、公爵家との縁を切った。
 そのコトを書類を見せてエリザベスに説明していたので、自分をすぐに殺そうとするとは思っていなかったらしい。

 エリザベスとしては、母親の実家から送られた慰謝料も父親の個人資産や商会もすべて自分のモノになると思っていたらしい。
 そして、それがアメリアに渡されたと知って、父親を憎み怒りとともに後先考えずに毒を盛り殺した。

 おかげで、証拠は簡単に見付かった。
 これだけでも、ハイドランジア女公爵を処分できる理由としては充分だ。

 だが、ハイドランジア女公爵は、更に問題になるコトをしでかしていた。
 そう、既に他国に渡り、他国の高位貴族となっていた者の殺害と略奪だ。

 他国の公爵夫人カメリアと、公爵令嬢となっていたアメリアを殺害して、その子供のセシリアを誘拐してきたコトが重罪だ。
 国家間を戦争へと導くような、あまりにも大き過ぎる大罪。

 表向きは平民として暮らしていたカメリアに、孫娘のセシリアを見せに行ったアメリア達と、その召使や侍女や護衛騎士達をすべて殺害してセシリア誘拐してきたのだから………。
 あの国では、未婚でセシリアを産んだとはいえ、公爵令嬢であるアメリアと、その母である公爵夫人のカメリアが殺害されて、公爵の孫のセシリアが誘拐されたというコトで、未だに犯人を捜しているのだ。

 もし、その攫われたセシリアが、ハイドランジア女公爵の娘の代わりに、浄化の為の生贄として魔道具を身に付けさせられ、虐げられていたと知られたら………。
 真実を知った時、私は確かに迷った。
 それでも、セシリアよりも浄化できる者は居ないと、私は目を瞑った。













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