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0063★その頃のアゼリア王国9 大神官長の回想と思い
しおりを挟むお昼ご飯をたっぷり食べたセシリアは、ルリやグレンの勧めで、馬車の中で昼寝をするコトになった。
セシリア自身に自覚がなくても、長年の魔道具による強制的な浄化をさせられていた身体は、深刻なほど疲労の極地なのだ。
そのコトをルリに指摘されたセシリアは、しぶしぶお昼寝をするコトを了承した。
ただ、これから眠るならと、余裕の出て来た魔力で、お腹の中に隠した龍帝陛下が深く眠る卵と化した、元陽の精霊王の靈石の上で掌を置き、ソッと優しく魔力を注いだ。
その後、まだ余裕のあったセシリアは、ルリに未熟児と言われたレオと、異形ゆえに親に捨てられたらしいグリへと魔力を注ぎ、何枚も重ねてフコフコにされたラグの上に横になったのだった。
ちなみに、馬車を出発させる前に、やはり母ウクダが3頭の子供達を馬車の中に乗せたのは言うまでもない。
そして、盗賊の襲撃時に怖い思いをしたコトで、馬車の隅ではなく、横になったセシリアにペタペタペタと3頭とも張り付いて、すぐさまスヨスヨと幸せの眠りの園へと降り立ったのは確かな事実だった。
ちょっと…眠れないかも…と…思ったけど…子ウクダちゃん達の寝息で………
と、セシリアは、子ウクダ達の寝息に引き摺られて、あっさりと眠りの園へと降り立ち、途中まで観た………大神官長様の回想という名の………録画の続きを観るコトになるのだった。
あれ……ここって………って、ああ…大神官長の……だ……うふふふ………
時空神様…ありがとうございます…お夕飯時には、新しいお料理を捧げますね
眠りに落ちたはずの自分が、再び大神官長の回想の真っただ中にいるのを感じて、セシリアは時空神に感謝しつつ、その気持ちと行いを見詰めるのだった。
大神官長の懺悔のような回想に、セシリアは起きた時に綺麗さっぱりと忘れていたコトを同時に思いだして頭を抱える。
嗚呼…そう言えば……大神官長さま、私のコトを聖女って言っていたような気が…
えぇ~…悪役令嬢から…今度は、聖女…ですか?大神官長さま…それはイヤです
絶対に御免こうむりたいから…しぃ~らぁ~ないっとぉ~……聴いてませぇ~ん
いや、それにしても、神官見習いになる時に、自身を神饌(=供物)とする
なんてトンデモ誓約させているなんて………流石、大神官長さまって感じですね
まさしく、清濁併せ呑む……ですね…腹黒じゃないですか………
そんな感想を持つセシリアは、ただ黙って大神官長の回想と、その思いを見詰め続ける。
嗚呼、マーリン王は、どれだけ悔しかったことでしょう。
我々に、もっと力があったなら、ならず者とかした輩を排斥できたものを。
そんなこころ優しいマーリン王は、差し出された哀れな娘達を愛おしみ、数多の王子と王女を得た。
なんと言っても、生贄として差し出された娘達の中には、本筋の色濃い血を持った娘が多かったゆえに………。
そして、未来の浄化能力者を生み出す血を拡散する為に………。
捨てられた娘達を哀れと思いながらも、自分に課せられた義務と責任をまっとうする為に、多くの子をなした。
強欲王と呼ばれたアーサー王に仕えた我らは、代々近衛騎士を輩出して行いった。
その中には、冒険者となり、魔石を次代のランスロット王や、その次代のトリスタン王に捧げていた。
そして、冷酷王と呼ばれたマーリン王にも、冒険者となった者達は魔石を捧げていた。
近衛騎士達と新興貴族の子孫達による、魔物狩りで集めた魔石で王国内の浄化は、きちんと回っていた。
勿論、神官となった者達の祈りによる浄化も、それに協力していたから………。
そんなマーリン王と、それに従う新興貴族達や近衛騎士達に、公爵達は卑怯で外道で非道で、おぞましい一手を打ってきた。
新興族達や近衛騎士達が民の人気を集めるコトを面白く思わなかったのだろう。
おぞましいことに、そんな身勝手な妬みで、貴族としての身分格差で、断る選択肢の無い婚姻の申し込みをして、無理やり娶るというコトを始めたのだ。
新興貴族となった者達の娘達は、無理やり公爵達、建国の折からの貴族の愛妾にさせられた。
その上で、哀れな娘達の産んだ子供達を、生贄としてマーリン王に差し出すのだと嘲笑う。
愛しい娘を奪われ、生まれた可愛い孫娘を、生贄にすると言われた新興貴族達の怒りと憎悪と憎しみと悲しみは、尽きるコトは無かった。
それは、怨念となり負の念となり、魔石と魔道具による浄化能力をあっさりと超えてしまうコトだった。
やっとの思いで、生活に支障が無いようにしていたというのに………。
憎悪と怨念によって、アゼリア王国の魔石による浄化能力を、遥かに超えてしまった。
それこそが、公爵達の真の狙いだった。
この憎しみは、何時までも続くとマーリン王に嗤いながら言ったのだ。
それを見た我らの祖先の近衛騎士達は、このままでは、本当に人が住めない大地へと戻ってしまうと憂いた。
そして、自ら公爵達の愛妾や婿となり、子を産み育てて、内部からのっとるコトを試みるコトにしたのだ。
あくどい手を使うなら、我らもそれに習おうではないかと………。
真の目的の為には、これも必要悪である……評判が堕ちるコトを恐れるな…と。
そして、神官達を、いくつかの系統に分けた。
公爵達を筆頭とする、古い貴族達に気が付かれるコトなく。
俗物な者として、その血統に入り込む者達と。
王家に心酔する神官の血統の者達と。
ただ、神にひたすら妄信する神官の血統と。
国民に奉仕するコトを、信条とする神官の血統に。
建国の折から続く貴族達に、取るに足りない者達と思われる為に………。
娘を孫娘達を奪われ、古い貴族に恨みを持ち過ぎた新興貴族と、決別したのだった。
そうして、コツコツと神官達は、公爵達の懐に入っていた。
大神官長を、浄化の為の生贄に差し出した上での信頼も得た。
そんな時に、ハイドランジア公爵家より、生贄としてセシリアが差し出された。
その膨大な魔力と浄化能力に大神官長は、大いに喜んだ。
魔道具をセシリアに移せれば、衰弱しつつあるガウェイ王の負担を減らせる…と。
ガウェイ王の心臓は、このまま負担していたら数年も持たないのだから………。
ただ、代々の神官長を務める者は、頭を悩ませていた。
どうしてかは不明なのだが、王となる方は、ちゃんとご自分の義務と責任をまっとうするのに………。
その気高い血筋を、何度も降下されたはずの公爵家も侯爵家も伯爵家も、まっとうな方がほとんど出ない。
まっとうな方は疎まれ、その娘は王の妃や側室や愛妾へと差し出され、その血筋を絶たれて行く。
まるで、なにかの呪いのように、いまだに負の連鎖は消えず、浄化が追い付かなくなりつつあるというのに………。
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