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0039★その頃のアゼリア王国1
しおりを挟むセシリアが、アゼリア王国のコトをちょっと考えながら、寝落ちしたその頃。
アゼリア王国は、混乱の極地へと、暴走馬車のように突進していた。
その発端は、やはり、セシリア・アイリス・ハイドランジア公爵令嬢の婚約破棄から始まっていたりする。
時は遡って、倒れて意識を失ったセシリアが、王宮の下級兵士に引き摺られるようにして、どこぞへと運ばれる少し前から始まる。
「あぁ~あ……陛下や王妃様が居ない間に、婚約破棄なんてして…………」
「しっ…下手なコトを言うと…お前だって危ないぞ」
「そうだよ、陛下が決めた婚約者の公爵令嬢でさえ、あんなコトするんだぞ」
「いや…確かに…あの姿のを…婚約者って扱うのは………」
「ああ…流石に、エイダン王太子が可哀想だとは思うよ………でもなぁ……」
いずれは、両親が決めた婚約者と婚姻する運命にある者達は、エイダン王太子に対する同情が、以外に強かったりするんですね。
それもこれも、セシリア様が、感情から魔力まで、すべての制御を魔道具でされているからなのだが………。
はたして、この中で、その事実を知る者はどれだけいるのだろうか?
ほんの幼女の頃、ハイドランジア公爵夫妻に連れられて来た時の姿を思い出します。
王宮に来た時のセシリア様は、それは綺麗な黄金色の髪をしておりました。
瞳はと言えば、かげりひとつない透き通った、極上な翡翠と呼ばれる宝石のような碧眼でした。
たぶん、3つになるかどうかの、本当に幼い幼女でした。
なのに、ハイドランジア公爵夫妻は、手を繋ぐコトもしていなかった。
自分達の後ろに、ついて来させている姿に、違和感を覚えたコトを記憶してます。
そして、幼女特有の輝く笑顔もなく、表情に乏しかったコトも、思い出します。
あれは、何の為の謁見だったんでしょうねぇ………記憶が怪しいです。
ただ、ハイドランジア公爵夫妻が陛下達に挨拶し、王と王妃に挨拶させた時に、ほんの一瞬ですが、喜色を浮かべたコトをかいま見てしまったんですよね。
あの何とも言えない悍ましさを感じる笑みは、夢に出て来てしばらく睡眠不足になりました。
そして、当時の大神官長も、それはそれは気持ち悪い、国王夫妻と似たような、笑みを浮かべていました。
お陰で、しばらく王宮から足が遠のいてましたね。
それでも、あの頃は、まだ、王も、王妃も、大神官長も、その役目をちゃんと果たしていました。
我がアゼリア王国には、王と王妃と大神官長には、代々の役目がありました。
その役目のコトを知っているのは、王家血筋が降りた4大公爵家と2つの侯爵家。
そして、少し離れた場所にあり、名目は辺境伯4家の当主だけ。
とは言っても、4大公爵家のうち、3つまでもが世代交代の争いで、失伝していることは知っています。
2つの侯爵家のうち、ちゃんとその役目を知っている者は、何時の間にか、外交という名で、隣国へと出されていた。
辺境伯は、あまり王宮に上がってくるコトは無い。
そんな中で、ハイドランジア公爵夫妻の娘と紹介された幼女は、何時の間にが、エイダン王子の婚約者という立場におさまっていました。
そして、エイダン王子も、何時の間にか、エイダン王太子と呼ばれるようになっていました。
見た目が愛らしかった幼女は、徐々に色彩が悪くなり、不健康な姿へと変わって行きました。
そのかわり、何時も辛そうにしていた、国王夫妻と大神官長が、艶々としていました。
それで、何が行われた、私は、気付いてしまったのです。
本来ならば、国土の穢れを王が、国民への災いを王妃が、すべての感情が引き起こす澱みを大神官長が受け取り、日々浄化するのに………。
たったひとりの幼女に、3人で背負わなければならないモノを、すべて押し付けたのです。
ただ、その国土・国民に降りかかる、災い・穢れ・澱みのすべてを、にない浄化する者へと、施術する者が誰かは、残念ながら知りません。
不憫に思っても、何もして上げられないのが実際でした。
それでも、セシリア・アイリス・ハイドランジア公爵令嬢は、王太子妃として、けなげに、背負わされたモノを受け止め、つたないながらも浄化し続けていました。
だから、誰も、側に居ない時に、王都で流行っているお菓子などを差し入れるぐらいしか出来ませんでした。
それも、何時の間にか気付かれたらしく、私にも外交という名の役目がくだされました。
やっと帰ってくれば、甥っ子の卒業式に、父兄のかわりに参加しろと送りだされて……。
いや、兄上が来たくなかったの、今ならよぉーく理解ります。
エイダン王太子は、婚約者のセシリア・アイリス・ハイドランジア公爵令嬢の手を取らないどころか、娼婦のような少女を腕にぶら下げているのだから………。
そのあげくに、セシリア・アイリス・ハイドランジア公爵令嬢を乱暴に引き倒して、腕を後ろ手に捻り上げるなどという暴挙を行ったのだから………。
流石に、我が目を疑うようなコトが、眼前で行われている。
思わず、動こうとしたら、ガシッと左右の肩を、友人達に捕まれて、首を振って見せる。
こういうコトが、日常茶飯事で行われているコトを、友人達は知っていたらしい。
「王太子の理不尽は、今に始まったことじゃない……耐えろ」
「今、出て行くと……もっと、面白がって、ハイドランジア公爵令嬢に酷いコトするぞ」
「もっと…ひどい?………」
「ああ…下手をすれば…ドレスを剥かれて……下級兵士に…強姦でもさせかねない」
「既に、公爵令嬢という地位を剥奪しているんだ……そのぐらいやりかねない」
「陛下達が戻って来ても……汚されていれば……もう結婚しなくて良いとおもっているんだろうよ」
「いくら、陛下の命令であろうと……人前で汚された令嬢など『娶らない』って突っぱねる為だろうな」
友人達の言葉に、乱暴な扱いを受けるハイドランジア公爵令嬢……いや、公爵令嬢という地位を剥奪されたから、もうセシリア嬢としか呼べないか…を助けるコトが出来なかった。
そんな会話をしている間に、セシリア嬢が身に付けていたモノを奪う。
額を飾るサークレットや、耳飾り、ネックレス、アンクレット、指輪と、根こそぎ取り外して、嗤っているエイダン王太子達。
その様子を見て、私は、このアゼリア王国が終焉に向かうコトを確信した。
あれは、どれもこれもが、強力な魔道具なのだから………。
だが、王家の血筋を引いていれば、あんなに簡単に外せる物だったのだな。
同時に、ズシッとしたモノが、私自身にかかったコトで、私自身も、薄いながらも、王家の血を引いているコトを自覚するしかなかった。
今は、婚約破棄と卒業パーティーで、気分が高揚していて気付かないだろうが、数日もしないうちに、王家の血筋を引く者達は、今までのツケを払うコトになるだろう。
私自身、本当に引いていたらしい……この身体の重さがソレを証明している。
今なら理解る、あの数々の魔道具の正体が。
アゼリア王家の……このアゼリア王国の大地、生きる場所を支える為の契約者………血筋を引いた者が、生贄となり、支えていたのだ。
肩代わりさせる為の、悍ましい魔道具。
あの魔道具が、セシリア嬢ひとりを生贄とさせていたモノだ。
それが外された今、この大地に生きる生きとし行ける者達に、すべてが還って来る。
もっとも大きく、それが還って来るのは、王家の血筋を引いた者達へだ。
おばあ様が、先々代の王弟に手をつけられて、捨てられた身だと、こっそりと口さがない侍女に教えられたが、どうやら本当らしい。
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勿論、格段に影響を受けなそうな、新興貴族だけど、私と馬の合う彼に、この後の顛末を教えてくれと、手紙を出して……。
私は、このアゼリア王国に、思い入れなどひとカケラもない。
さっさと、甥を回収し、友人達と離れよう。
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