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41.週末の体育は男の戦い2

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「今回はどうする? 一之瀬」
「くそっ、不味いな。全然思いつかねぇ……」

 残飯チームの中でも戦力になる一之瀬と山下は体育館の隅でひっそりと作戦会議をはじめる。いつもは山下は真っ直ぐで正当な作戦を、一之瀬は捻った悪巧みな作戦を提案するが、今回は中々良い案が浮かばない。
 真正面から勝負してもこの最弱メンバーでは絶対勝てないだろう。

(今回の他勢力は各々バランス良く均等。いや、霧谷と春風がいるチームが本命か。あいつらもスポーツ出来るし、周りもまぁまぁ出来る。スポーツなら断トツな花岡は……あれ? あいつどこ行ったんだ?)

 今は花岡を探している場合ではない。それよりも勝算がある作戦をいち早く探し出さないといけない。自分の顎に手を当てて深く考える。

 手段なんて選んでる余裕はねぇな。何か良い方法を……。

 とその時に悪良い考えを思い付いてにやりと笑った。

「他の方法がなければ、そうだな……交渉するしかねーな」
「……交渉? 何をするつもりなんだ」

 山下は疑問符を浮かべる。自信満々に実に巧妙な作戦を続けて話した。

「それはな、中でもギリ勝てそうなチームの中で騙しやすそうな奴を上手く唆してそいつに試合中、手を抜いたり妨害して貰おーじゃねぇか。それなら、絶対勝てるっ!」
「悪どい事を考えるな……。でも仮に言葉巧みに唆した所でそいつが上手く乗っかってくれると思うか?」
「当然、タダとは言わねぇよ。ここは美味い餌でフィッシングだ。その名もパンで馬鹿を釣る作戦だ!」
「えっ……パンでか?」

 山下の表情はわかりにくいが、微妙な反応を見せる。それはそうだ、普通に考えてパンでは食い付くとは思えない。それ相応の対価を払わないと人の心は動かせない。だから付加価値がある物を交渉の材料にしてやれば良い話だ。

「ただのパンじゃねぇぞ。購買で常に争奪戦になる数量限定のレインボージャムパンがあるだろ? それを餌に交渉してそいつを買収してやる!」

「買……収……」

 山下はそこまでやるのかと言ってるかのような顔をしてドン引きしている。
 レインボーパンとは校内の購買部で売っているふわふわの大きめの丸いパンの中に定番の苺とブルーベリー、ラフランス、桃、林檎、さくらんぼ、そしてずんだの七種類のジャムを詰め込んだ特別なジャムパンだ。週替わりでジャムの組み合わせが変わる。レインボーの部分は虹の七色(七種類)を指している。

「まぁ、パンが駄目なら学食の食券っのもありだな……。だが、これはあくまで最終手段だ。最下位になって昼休みの掃除で時間食いたくないだろ?」
「うーん、それは……確かにそうだけどそれで勝ったとしてもあまり気持ちいいものではないな。それに一度バレたら常に疑われたそうだし。やっぱり正当な戦い方を──」

「そっか、わりぃ……。余裕なさ過ぎて不正までやろうとしてたなんて俺、嫌な奴だよなぁ。俺はお前の誠実さに目が覚めたぜ。
その作戦を使わずに何か考えないといけねぇな……」

 その巧妙な作戦は多少リスクがあるから推奨はしたくはないのも本音だ。特に先生にバレたりしたら掃除一週間どころの話じゃなくなる。あの熱血系の気分屋の教師、佐山の事だ。二週間……いや、一ヶ月間か。毎日校庭十周や校内清掃もあり得る話だ。
 今回の巧妙な作戦は一旦保留にして山下の意見を否定せずに尊重して主力のやる気を出させる事にした。

「一之瀬は俺達を思って一生懸命に考えてくれたんだよな。ありがとう、一之瀬」
「い、いや……俺は何も」

 一之瀬の善意だと素直に受け取った山下に良心を痛める。邪念の塊の野郎が礼を言われるとはなんとも複雑である。

「俺、頑張るから」
「頼んだぞ? お前だけが頼りだからな」
「……一之瀬、ちょっと近い」

 鼓舞するために咄嗟に山下の両肩を掴んだが、山下にとっては距離感が近いようで引き気味に目を逸らされた。

「おお……わりぃ。馴れ馴れしいよなぁ」
「いや、俺は全然気にしないが。一之瀬がいいのならそのままでもいいよ」
「……そうか」
「ただ──

この距離だと簡単に手が届きそうだな」

 山下は突然、一之瀬の腰に手を回した。

「……へ?」
「……人肌は暖かいな」

 腰が山下の方に寄せられて山下に抱き付くような体勢になってしまった。その予想外の行動に驚きの余り固まってしまう。
 山下は真横で何か呟いていたが、茫然としている一之瀬の耳には全く入ってなかった。
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