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26.お菓子教室イベント4

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 全員のマフィンが完成して各々の調理台の近くに座る。みんなで完成したマフィンを食べる事になった。それぞれ雑談をしながら楽しんでいる。

「霧谷は両手に花か。くそ羨ましい……」

 前方に霧谷の両隣には隣のクラスの可愛い女子がいて女子達にちやほやされている。本当に羨まし過ぎて恨めしそうに霧谷を見つめる。
 
「いっちーだって両手に花岡と春風だろ? すげー華があるよなー」
「嘘つけっ。女子か野郎に囲まれんのとは全然気持ちがちげーんだよ」

 華があるかどうかはわからないが、一之瀬の両隣には春風と花岡がいる。一之瀬が女だったらイケメンに囲まれ華があって優越感に浸れる。しかし残念ながら一之瀬は男だ。同性だと、ちっとも楽しくはない。

「俺らよりあっちの女の子の方が良かったのか!? 俺は一之瀬の隣で嬉しいのにな……」
「こんなにも慕ってるのに一之瀬は何て酷い男なんだろう」
「お前らは何を言ってんだよ……」

 こちらを向いた花岡がしょんぼりと視線を落とす。一方、悲しそうな表情の春風は演技っぽくて棒読みな台詞で言った。それを見た女子達は「可哀想ぉー」と二人に同情している。一之瀬を悪者にしたいようだ。
 同時に花岡も春風も何故か一之瀬の太腿に触り出した。周りからこの角度では見えないが、ここで何をしようとしてるんだ。

「いっちーはモテて羨ましいなー」

 と霧谷がその後に主に野郎に、とぼそっとニヤついて言った。この状況を面白がっていてその憎たらしい態度にそんなんじゃねぇと言わずに睨み付ける。

(全くこいつらは……)

 また霧谷が女子達に霧谷くーんとちやほやされている。一々苛つくのも面倒になり見るをやめた。不意に春風が自分のマフィンを一之瀬の目の前に出した。

「一之瀬、僕のを食べてくれないかな? 今回は失敗しちゃったけど、初めてのお菓子の手作りだから一之瀬に最初に食べて欲しい」

 でも無理に食べなくていいからね、と春風は続けて優しく話した。そう言われると、美味いとか不味とか別として友人として食べないといけない空気だ。

「じゃあ、俺のと一個交換するか? ただ貰うってのもわりぃし」
「いいの? ありがとう。一之瀬のものは何でも嬉しいからね」

 一之瀬の問いににこやかに春風は答える。一之瀬のマフィンと春風のを交換した。

「俺のも交換しねぇか? 俺も一之瀬のマフィンが欲しい」
「お前のは交換しても意味ねぇじゃねーのか? 見た目もほとんど一緒だろ」
「俺は一之瀬のだから必要なんだ! 俺も一之瀬のを食べたい」

 花岡が真剣な顔付きで話す。どんだけ俺のを食べたいんだよと内心若干引き気味つつ花岡のも交換した。

 周りもマフィンを食べ始めた頃に一之瀬もマフィンを頬張る。丁度いい甘さで美味しい。マフィンを一個位食べるのは余裕であっという間に無くなった。

「口に付いてるね」

 春風は一之瀬の顔に近づき口元に付いているマフィンの欠片を指で取って自分の口に入れた。それ男相手にやるなよ。今、キュンと来たじゃないかと心が焦る。

「指にも付いてんな」

 花岡が一之瀬の手首を持って指先を舌で舐めとった。一瞬、擽ったくて変に感じてしまった。お前も男相手に何故やるんだ。それに素直な花岡にされると勘違いしそうだ。

「あのー、俺らもいるんだけど。ここでいちゃつくのやめてくんねぇ?」

 呆れ顔の霧谷に注意された。霧谷の横にいる女子達も驚いた目をして口が半開きなっている。みんながいる前で恥ずかし過ぎる。それを見ていた霧谷を含めて女子達にあらぬ誤解を招く。ここは絶対に誤魔化さないといけないと冷静に考えた。

「お、お前らさ、冗談が過ぎるだろ。ほ、ほら、少女漫画みたいな真似はやめろって。みんな、吃驚してるだろ?」
「冗談じゃ……むぐっ」

 余計な事を喋らせないように手で花岡の口を塞いだ。春風の方を見たが、片手をグーにして口元に当ててふふっと笑ってやがる。お前、笑っている場合かと呆れた。

「春風くんも花岡くんも乙女がキュンとするシーンをおさえてるんだね」
「すごーい、やっぱり恋愛上級者は違うよねぇ」

 女子達が手を合わせて顔を輝かせる。そんな様子に取り敢えず、変な誤解は解けたようで一之瀬はほっと胸を撫で下ろした。

「はぁー、何か甘くて胸焼けしたかも……」

 霧谷はわざとらしく言った。女子達は霧谷くんは甘いものが苦手なの? とかマフィン食べ過ぎたのかな? と霧谷を心配していた。多分、そういう意味ではない気がする。

 残りは……家族にあげようか。両親と弟とちょうど三個分ある。手作りのお菓子を見ていると、懐かしいあの日が思い浮かぶ。

 弥太郎くん。この手作りお菓子ね、とても美味しいよ。一生懸命に作ってくれてありがとう。

 目線を合わせて嬉しそうに微笑んだ年の離れた年上の幼馴染の顔を思い出す。今度、会ったら作ってやろうかと考えたが、もう叶わないかもしれない。初恋は既に手の届かない遠くに行ってしまったのだから。

「一之瀬、どうかしたか? ぼーとして」
「いや、食うと甘いが、ちょっとほろ苦いよな……」

「……焦げてるとこでも食べたのか?」
「まぁ、こっちの話だ」

 花岡が心配して声をかけたが、一之瀬の話に疑問符を浮かべていた。一之瀬は苦い過去を思い出して物思いにふけそうになった。
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