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13.類友はオタク
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「俺は小日向だ……」
あの頃の親友があの時にあの場所で初めて名前を名乗った。その声は気怠げでこちらを一切見ずに何かの本を読んでいる。
「こ……ひなた。こびなた? こひ……お前は今日からヒナタだ!」
「そんなの嫌に決まってるだろう」
と俺の方にやっと向いて淡々と突っ込んだ。俺は呼びにくい発音だと感じてあえてあだ名を勝手に付けたようとしたが、そいつはそのあだ名をお気に召さないようだ。そいつの胸に付いている名札をじろじろと見て下の名前を確認した。
──なぎさ、か。
男にしてはかっこいい名前。
「じゃあ、なぎ……」
「それ以上言ったら怒るぞ。もういい、ヒナタで」
仕方なく俺はそいつの下の名前を呼ぼうとしたら、不愉快そうな表情をさせて怒気を含んだ声で遮った。余程その名前を口にされるのが嫌だったようだ。さっき俺の付けたあだ名は下の名前よりは遥かにマシだと妥協したようだ。下の名前は涼し気な名前でかっこいいのに勿体ない。
「よし、ヒナタ。この集団行動が主な中学生活でぼっちはかなり不味い。それでだ、卒業まで俺と学校生活を過ごさねぇか?」
学校で一人ぼっちだった俺は中学時代の親友にそう持ちかける。そして同じく一人ぼっちだったそいつの返事は……。
──……
帰りのホームルームが終わり放課後になっていた。周りの席を見ると花岡も春風も霧谷も既に何処かに行ってしまったようだ。
(静かになったな……)
教室の中は人が疎で立ち話をしてる女子達、着席してふざけてる男子達、各々自由な時間を過ごしている。
花岡は部活の助っ人に呼ばれて早々といなくなってしまった。花岡は運動神経が良くて一般スポーツが何でもこなせるのに部活にはどこも所属していないのが未だに謎で一之瀬にとって七不思議の一つだ。助っ人してるんだったら、そのまま入ればいいのにといつも思う。確かにこの学園はスポーツに力を入れてない所だが、能力があれば何処かでは必要とされるだろう。
一方、春風はまた何か頼まれ事をされているのだろうか。普段の春風は生徒会の手伝いなど色んな雑用をしている話は聞いていた。
そして霧谷は友達を多数連れてカラオケに行ったようだ。霧谷には一応誘われたのだが、あまり知らない奴らが多くて気疲れしそうで断った。
それに今日この後、中学時代の友人と一緒に夕飯を食べる約束がある。久しぶりに会う友人に気が緩んでいた。
一之瀬は自分の席で鞄に必要な物を詰めて帰る支度をしていた。
不意に後ろから誰かに両肩を掴まれて少し驚いて背中がびくっと震えた。
「……何だ、春風か。何か用か?」
「一之瀬、僕と一緒に帰ろう。今日は生徒会の手伝いがなくて二人で帰れそうなんだ」
振り返って見上げたら、優しい声で春風が一之瀬と一緒に帰ろうと誘う。
だが、一之瀬の家と春風の家とは学校からどちらも反対方向で一緒に帰る意味がない。校門までならと提案をしたら、春風が一之瀬を家まで送ってくれるらしい。いくら仲が良い友人でもそれでは申し訳がなさ過ぎるし、男に送って貰うのもどうなんだとおかしい。
しかし、どの道、一之瀬には既に先約があるから断るしかない。
「今日は約束があって。わりぃけど、また今度な」
「……それって誰となのかな? もしかして友達とか?」
「中学ん時のダチだ」
そう話すと、そうなんだね……と残念そうな表情する春風に心が少し痛む。春風相手だと、いつも世話をされてる分、他の奴よりも頼み事は断りずらい。でも今回は先約があってしょうがない気もする。
その残念そうな顔を見て今度は一之瀬から一緒に帰るように誘おうかと考えた。
「一之瀬が都合いい日にその次は僕と一緒にご飯食べに行こうね」
「おう、今度行こうぜ」
微笑みながら春風は一之瀬の目線を合わせてから頭を撫でてまたね、と手を振り教室から出て行った。手を振り返した後、春風のその大きい背中が少しずつ離れていった。
いなくなってから気づいたが、さっきの台詞に若干違和感を覚える。
(……ん? 次って……。あいつにダチと飯食べに行くっていったか?)
鋭い奴でもそこまでわかってしまうんだろうか。それとも知らないうちに口に出していた可能性も……。
そんな疑問が残ったまま、中学時代の友人が待つであろうラーメン店に向かった。
***
ラーメン店に到着して出入り口付近で待っていた中学時代の友人に挨拶もそこそこに一緒に店に入った。店内は夕飯時で賑わっているようだ。店員に案内されて席に座る。
「一之瀬、どうかしたのか? 今日は顔色があまり良くないぞ」
「ああ、ちょっとな……。腹減り過ぎてやべぇんだわ」
「そうか、ただ食い意地を張ってただけか」
「お前言い方がなー」
一之瀬に遠慮なんてしようとしないこいつは小日向渚だ。一之瀬の中学のイケてないグループにいた同級生で一番仲が良かった男友達だ。
今は一之瀬とは別の公立高校に通っている。一之瀬と同じく顔はどこでもいる平凡でお洒落な眼鏡が特徴なアニメオタク。今でも連絡は取り合っていてたまに遊んでいる。一之瀬的には親友だと思っているが、果たしてこいつはどう思っているのやら。一之瀬はヒナタとあだ名で呼んでいる。
顔には決して出さないが、親友と久しぶりに会えるのを楽しみにしていた。
事の発端は昨日の夕方に遡る。自宅の部屋に寛いでいた時に久しぶりに親友のヒナタに会いたいと思い早速誘おうして電話をかけた。
「よっ、ヒナタ!」
「……一之瀬か」
「ヒナタ、明日の学校帰りに晩飯食いに行かねぇか?」
「一之瀬から誘うなんて珍しいな」
「俺からたまには誘いたいんだよ。まぁ、気分だ、気分」
と電話の大まかな内容はこんな感じだ。
あの頃の親友があの時にあの場所で初めて名前を名乗った。その声は気怠げでこちらを一切見ずに何かの本を読んでいる。
「こ……ひなた。こびなた? こひ……お前は今日からヒナタだ!」
「そんなの嫌に決まってるだろう」
と俺の方にやっと向いて淡々と突っ込んだ。俺は呼びにくい発音だと感じてあえてあだ名を勝手に付けたようとしたが、そいつはそのあだ名をお気に召さないようだ。そいつの胸に付いている名札をじろじろと見て下の名前を確認した。
──なぎさ、か。
男にしてはかっこいい名前。
「じゃあ、なぎ……」
「それ以上言ったら怒るぞ。もういい、ヒナタで」
仕方なく俺はそいつの下の名前を呼ぼうとしたら、不愉快そうな表情をさせて怒気を含んだ声で遮った。余程その名前を口にされるのが嫌だったようだ。さっき俺の付けたあだ名は下の名前よりは遥かにマシだと妥協したようだ。下の名前は涼し気な名前でかっこいいのに勿体ない。
「よし、ヒナタ。この集団行動が主な中学生活でぼっちはかなり不味い。それでだ、卒業まで俺と学校生活を過ごさねぇか?」
学校で一人ぼっちだった俺は中学時代の親友にそう持ちかける。そして同じく一人ぼっちだったそいつの返事は……。
──……
帰りのホームルームが終わり放課後になっていた。周りの席を見ると花岡も春風も霧谷も既に何処かに行ってしまったようだ。
(静かになったな……)
教室の中は人が疎で立ち話をしてる女子達、着席してふざけてる男子達、各々自由な時間を過ごしている。
花岡は部活の助っ人に呼ばれて早々といなくなってしまった。花岡は運動神経が良くて一般スポーツが何でもこなせるのに部活にはどこも所属していないのが未だに謎で一之瀬にとって七不思議の一つだ。助っ人してるんだったら、そのまま入ればいいのにといつも思う。確かにこの学園はスポーツに力を入れてない所だが、能力があれば何処かでは必要とされるだろう。
一方、春風はまた何か頼まれ事をされているのだろうか。普段の春風は生徒会の手伝いなど色んな雑用をしている話は聞いていた。
そして霧谷は友達を多数連れてカラオケに行ったようだ。霧谷には一応誘われたのだが、あまり知らない奴らが多くて気疲れしそうで断った。
それに今日この後、中学時代の友人と一緒に夕飯を食べる約束がある。久しぶりに会う友人に気が緩んでいた。
一之瀬は自分の席で鞄に必要な物を詰めて帰る支度をしていた。
不意に後ろから誰かに両肩を掴まれて少し驚いて背中がびくっと震えた。
「……何だ、春風か。何か用か?」
「一之瀬、僕と一緒に帰ろう。今日は生徒会の手伝いがなくて二人で帰れそうなんだ」
振り返って見上げたら、優しい声で春風が一之瀬と一緒に帰ろうと誘う。
だが、一之瀬の家と春風の家とは学校からどちらも反対方向で一緒に帰る意味がない。校門までならと提案をしたら、春風が一之瀬を家まで送ってくれるらしい。いくら仲が良い友人でもそれでは申し訳がなさ過ぎるし、男に送って貰うのもどうなんだとおかしい。
しかし、どの道、一之瀬には既に先約があるから断るしかない。
「今日は約束があって。わりぃけど、また今度な」
「……それって誰となのかな? もしかして友達とか?」
「中学ん時のダチだ」
そう話すと、そうなんだね……と残念そうな表情する春風に心が少し痛む。春風相手だと、いつも世話をされてる分、他の奴よりも頼み事は断りずらい。でも今回は先約があってしょうがない気もする。
その残念そうな顔を見て今度は一之瀬から一緒に帰るように誘おうかと考えた。
「一之瀬が都合いい日にその次は僕と一緒にご飯食べに行こうね」
「おう、今度行こうぜ」
微笑みながら春風は一之瀬の目線を合わせてから頭を撫でてまたね、と手を振り教室から出て行った。手を振り返した後、春風のその大きい背中が少しずつ離れていった。
いなくなってから気づいたが、さっきの台詞に若干違和感を覚える。
(……ん? 次って……。あいつにダチと飯食べに行くっていったか?)
鋭い奴でもそこまでわかってしまうんだろうか。それとも知らないうちに口に出していた可能性も……。
そんな疑問が残ったまま、中学時代の友人が待つであろうラーメン店に向かった。
***
ラーメン店に到着して出入り口付近で待っていた中学時代の友人に挨拶もそこそこに一緒に店に入った。店内は夕飯時で賑わっているようだ。店員に案内されて席に座る。
「一之瀬、どうかしたのか? 今日は顔色があまり良くないぞ」
「ああ、ちょっとな……。腹減り過ぎてやべぇんだわ」
「そうか、ただ食い意地を張ってただけか」
「お前言い方がなー」
一之瀬に遠慮なんてしようとしないこいつは小日向渚だ。一之瀬の中学のイケてないグループにいた同級生で一番仲が良かった男友達だ。
今は一之瀬とは別の公立高校に通っている。一之瀬と同じく顔はどこでもいる平凡でお洒落な眼鏡が特徴なアニメオタク。今でも連絡は取り合っていてたまに遊んでいる。一之瀬的には親友だと思っているが、果たしてこいつはどう思っているのやら。一之瀬はヒナタとあだ名で呼んでいる。
顔には決して出さないが、親友と久しぶりに会えるのを楽しみにしていた。
事の発端は昨日の夕方に遡る。自宅の部屋に寛いでいた時に久しぶりに親友のヒナタに会いたいと思い早速誘おうして電話をかけた。
「よっ、ヒナタ!」
「……一之瀬か」
「ヒナタ、明日の学校帰りに晩飯食いに行かねぇか?」
「一之瀬から誘うなんて珍しいな」
「俺からたまには誘いたいんだよ。まぁ、気分だ、気分」
と電話の大まかな内容はこんな感じだ。
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