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9.気まずい
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「一之瀬くん、お人形さんで遊ぼう」
「それよりもかけっこで勝負だ!」
俺はぼやけた空間で小学半ばの二人に同時に誘われた。一人は人形を持った女の子……みたいな男子。もう一人は勝ち気そうな男子。
「よし、三人で人形使ってかけっこでどうだ?」
俺はふざけてアホみたいな遊びを提案する。
「馬鹿か、混ぜんなよ」
「一之瀬くんの足と……の足を結んで……ちゃんとかけっこで勝負しよ」
『そんなの勝負になんねぇよ!』
おかしな勝負に俺と勝ち気な奴が二人同時に突っ込む。
「あははっ、ハモッたー。みんな仲良しだね」
女の子みたいな奴の笑顔に何かおかしくて三人で笑い合った。それはそれは暖かくてとても楽しい時間だった。
──……。
(夢か……。すげぇ懐かしいな……)
小学時代の懐かしい夢を見てしまった。春風が何でそんな事をしたのかとか来週はどういう顔して学校で会えばいいのかと休日ずっと悩んでたせいで現実逃避するために楽しかったあの時間を見せられたのかも知れない。
そういえば小学の時にやたらと突っかかってくる奴がいたなと思い出す。そいつにはかなり嫌われていてすれ違う度に睨まれたり、負けん気が強いのか飽きずに毎日勝負を挑まれたりした。勝負は一之瀬が全勝。人気がない学校裏で負けた悔しさからか本気で泣いていたのが印象的な奴だった。
印象的な奴はもう一人いた。そいつは可愛いらしい容姿のせいでいつも意地悪されて泣いていた。意地悪する奴を何となく成敗していたら、いつの間にかそいつに懐かれてしまった。腕を絡んできては心優しくて可愛いらしい上目遣いをされて色んな意味で勘違いしそうだった。しかし残念ながらそいつは男なのだ。
──あいつらは今も元気にやってっかな。
その二人の顔や名前ははっきりと覚えてはいない。小学時代は父親が転勤族で転校ばかりしていて当時のクラスメイトの奴らをほとんど覚えていなかった。一年以内での転校はざらにあっていちいち名前なんて覚えてられない。今でも癖なのかクラスメイトの名前を覚えるのが得意ではなかった。
過去の事を今考えてる場合ではなかった。現実を戻そう。あの金曜日の出来事で正直、この状況で学校なんて行きたくはない。だからといって落ち着くまで休むのもどうかと思うし、ただえさえ成績が思わしくないのに出席日数が足りなくなったら非常に不味い。
前日の夜も考え過ぎてあまり眠れずに寝不足のまま嫌々学校に重い足取りで向かう。
「おはよう、一之瀬」
「おう……おはよ」
教室に入って自分の席に向かうと、すでに春風が座っていていつも通りの柔らかい笑顔の春風に拍子抜けした。
呆然としてたら春風に頬へ急に手が伸ばされびくっとしたが、語られないように冷静を装う。
「薄らとクマが出来てるね。昨日は眠れなかったの?」
「……あ? ああ、寝ながらゲームしてたらそのまま床で寝ちまって。ぐっすり眠れなかったのかもな」
「ふふっ……相変わらず、だらしが無いな。体調が悪かったら、すぐに僕に言うんだよ」
そっと頭を撫でられた。変わらず優しい言葉に現実から逃げようとした自分に罪悪感を覚える。気を使わせないように本当はお前の事を考え過ぎて眠れなかったと本音は言えずに何とか誤魔化した。
春風が時計がある方を見て立ち上がって席を離れようとした。朝のホームルームまでにまだ十分ちょっとでまだ時間に余裕があった。朝はあまり席を外す事がない春風に不思議に思い腕を掴んでどこ行くんだと訊ねた。
「……トイレだよ」
「お……おう、わりぃ」
と手を離した。多分、本当はトイレではないと思う。一之瀬に心労をかけさせないように気を使い席を外してくれたかもわからない。
何かと気にかけている春風に少し心の奥が痛んだ。
「それよりもかけっこで勝負だ!」
俺はぼやけた空間で小学半ばの二人に同時に誘われた。一人は人形を持った女の子……みたいな男子。もう一人は勝ち気そうな男子。
「よし、三人で人形使ってかけっこでどうだ?」
俺はふざけてアホみたいな遊びを提案する。
「馬鹿か、混ぜんなよ」
「一之瀬くんの足と……の足を結んで……ちゃんとかけっこで勝負しよ」
『そんなの勝負になんねぇよ!』
おかしな勝負に俺と勝ち気な奴が二人同時に突っ込む。
「あははっ、ハモッたー。みんな仲良しだね」
女の子みたいな奴の笑顔に何かおかしくて三人で笑い合った。それはそれは暖かくてとても楽しい時間だった。
──……。
(夢か……。すげぇ懐かしいな……)
小学時代の懐かしい夢を見てしまった。春風が何でそんな事をしたのかとか来週はどういう顔して学校で会えばいいのかと休日ずっと悩んでたせいで現実逃避するために楽しかったあの時間を見せられたのかも知れない。
そういえば小学の時にやたらと突っかかってくる奴がいたなと思い出す。そいつにはかなり嫌われていてすれ違う度に睨まれたり、負けん気が強いのか飽きずに毎日勝負を挑まれたりした。勝負は一之瀬が全勝。人気がない学校裏で負けた悔しさからか本気で泣いていたのが印象的な奴だった。
印象的な奴はもう一人いた。そいつは可愛いらしい容姿のせいでいつも意地悪されて泣いていた。意地悪する奴を何となく成敗していたら、いつの間にかそいつに懐かれてしまった。腕を絡んできては心優しくて可愛いらしい上目遣いをされて色んな意味で勘違いしそうだった。しかし残念ながらそいつは男なのだ。
──あいつらは今も元気にやってっかな。
その二人の顔や名前ははっきりと覚えてはいない。小学時代は父親が転勤族で転校ばかりしていて当時のクラスメイトの奴らをほとんど覚えていなかった。一年以内での転校はざらにあっていちいち名前なんて覚えてられない。今でも癖なのかクラスメイトの名前を覚えるのが得意ではなかった。
過去の事を今考えてる場合ではなかった。現実を戻そう。あの金曜日の出来事で正直、この状況で学校なんて行きたくはない。だからといって落ち着くまで休むのもどうかと思うし、ただえさえ成績が思わしくないのに出席日数が足りなくなったら非常に不味い。
前日の夜も考え過ぎてあまり眠れずに寝不足のまま嫌々学校に重い足取りで向かう。
「おはよう、一之瀬」
「おう……おはよ」
教室に入って自分の席に向かうと、すでに春風が座っていていつも通りの柔らかい笑顔の春風に拍子抜けした。
呆然としてたら春風に頬へ急に手が伸ばされびくっとしたが、語られないように冷静を装う。
「薄らとクマが出来てるね。昨日は眠れなかったの?」
「……あ? ああ、寝ながらゲームしてたらそのまま床で寝ちまって。ぐっすり眠れなかったのかもな」
「ふふっ……相変わらず、だらしが無いな。体調が悪かったら、すぐに僕に言うんだよ」
そっと頭を撫でられた。変わらず優しい言葉に現実から逃げようとした自分に罪悪感を覚える。気を使わせないように本当はお前の事を考え過ぎて眠れなかったと本音は言えずに何とか誤魔化した。
春風が時計がある方を見て立ち上がって席を離れようとした。朝のホームルームまでにまだ十分ちょっとでまだ時間に余裕があった。朝はあまり席を外す事がない春風に不思議に思い腕を掴んでどこ行くんだと訊ねた。
「……トイレだよ」
「お……おう、わりぃ」
と手を離した。多分、本当はトイレではないと思う。一之瀬に心労をかけさせないように気を使い席を外してくれたかもわからない。
何かと気にかけている春風に少し心の奥が痛んだ。
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