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6.悩みの種

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「──流れでそういう話になって大人の本を渡されて……」

「あんなもん、学校に持ってくる奴いるんだな」

 相談があると暗い顔をした武田に連れられて人があまり通らない校内の階段の踊り場にいた。よっぽど、誰にも聞かれたくない話なんだと察した。
 そして武田は事の発端を話した。いつもと同じく新しく出来た友達とたわいない世間話から始まり、話題のゲーム、漫画の話と……盛り上がった。しかし最終的に推しキャラは誰かから下ネタ話へと移り変わってしまい何をおかずにするかと話を振られたが、そういうのは見ないと武田は言ったらしい。
 友達は大人の動画サイトをすすめたが、家が色々と厳しい武田はパソコンや携帯を所持しておらず、見かねた友達に親切にも大人の本数冊を寄越された。……というか押し付けられたというのが正しいか。どちらにしろ武田にとってはありがた迷惑な話だ。

 どうしようっ、と涙目になりながら困った様子の武田。慰めるようと軽く頭を撫でてやったが、相変わらず不憫な奴だと同情する。

「うぅ……っ、こんなのお母さんに見つかったら、ますます居場所がなくなって家族に軽蔑されるぅぅっ」
「それ位でうそだろ!? こんなもんはな、思春期の男なら誰しも通る道だぞ。真の男になるためのロマンと欲望が詰まった教本を何だと思ってるんだ! 武田の母さんはお前の事をちっともわかってねぇ。男というのはな……──」

「一之瀬くんって以外と熱い人なんだね……」

 一之瀬は拳を握りながら熱心に語る。そのお陰かはたまた呆れたのか武田は幾分落ち着きを取り戻した。

「よし、わかった。俺がその本を預かる。これで武田は安心して家に帰れるんだろ?」

「……え? 本当にいいの? 迷惑なんじゃない?」
「ダチが小さい事でも困ってたら助けるのは当然だろーが。いいから、貸せよ」
「ありがとう、一之瀬くん……」

 大人の本が入ってる黒い袋を武田から受け取ってその場を後にした。

***

 教室を覗いたら花岡と霧谷はいたが一緒にいると思っていた春風だけはいなかった。
 気にせずに席に戻ろうと花岡と霧谷がいる所に向かおうとした。

 瞬間に一之瀬、と耳元で名前をささやかれてゾクッとしながらも振り向いたら、春風のどアップがあった。顔があまりに近くにあって咄嗟に距離を取ってしまった。
 一之瀬のその動きに春風はくすっと笑っていた。

「おわ……って驚かすんじゃねーよ、春風。マジで心臓が飛び出しそうだったぜ……」

「驚かせてごめん。偶然、一之瀬を見かけたから声かけたんだけど、吃驚びっくりさせちゃったね」
「ああ、全くその通りだ。気配なんか消すなよ」
「気配を消してるつもりはないんだけどなぁ」

 穏やかに話す春風に自覚がないのかよ、と突っ込んだ。それに対しそんな事はないかな、と春風は微笑んだ。のほほんとしたこの和やかなムードに日々のすさんだ心も癒される。

「ところで一之瀬はさっきまで武田と何を話してたのかな?」
「それは……」

 言いかけてふと考えたら、春風が一之瀬と武田が一緒にいる所を見たような言い方をしていた。これは確実に見たんだな。会話を聞かれていたかどうかはまではわからない。
 しかし武田とのデリケートな話だからいくら仲が良くても春風には軽々しく話せない。それにこういった下ネタは春風にとって地雷のような気がして一之瀬は言葉を濁す。

「大した事じゃねぇよ、ただの雑談だ。お前に話してもつまんねぇと思うぞ」
「だったら僕にも話せるって事だよね? それでどんな内容だったの?」
「どんな内容っつってもな……」

 やけに食い付くなと思いつつ話をかわすために思考を巡らせる。春風が相手だと中途半端な誤魔化しでは通用しないし、かえってややこしくなりそうだ。

「はっきりとは話さないんだね。もしかして他の人に聞かれちゃまずい話なのかな?」
「いや、まずいって訳じゃねーが、その……あれだ。男同士の物凄ーく恥ずい話だから勘弁してやってくれ」
「恥ずかしい話って、例えば恋愛関連とかだったり……」

 当たらずとも遠からずと言った所だが、真面目な春風に大人の本の話だなんてはっきりと言える訳がない。

「……武田に何か言われたのか?」
「別に言われてねぇよ」

「そう……僕には話せないんだね」

 さっきから根掘り葉掘り聞く春風に少し苛ついてついつい強めに言葉をぼろっと吐き出した。

「お前には関係ねぇだろっ!」

 春風はばつが悪そうな顔をした。いつも優しいお前にそんな顔をさせたくはなかった。いくら仲良い友人でも話せないのもある事はわかって欲しいと心の中で思う。

「……ごめんね。確かに武田との話は僕には関係ない。だけど、一之瀬が何か頼まれたりして困ってるんじゃないかと心配なんだ」
「……お前は心配しすぎだって。別に俺の事なんてどうでもいいから。俺にじゃなく他に頭を使えよ」
「どうでもいいなんて言わないで。どんな些細な内容でも僕にとっては重要なんだ。一之瀬に対しては真剣に向き合いたい」
「何でそこまでするんだ。俺は春風に何かした覚えはねぇし、むしろ負担かけるような事しか……」

「だって僕は一之瀬が……いや、一番の友達だから普段の話も悩んでる事も全て聞きたい。どんな事でも分かち合いたいんだ」
「お前一体どうしたんだよ……」

 いつも以上に真剣な顔をした春風にじりじり迫られその気迫に圧倒された。

 何でお前は平凡な俺程度の男にこんなにも必死になってんだと思うも意図はつかめずに曖昧な気持ちだけが残った。
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