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第1章 幼少期
18話 悪友と家族①
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嵐のようにネオニールが言いたいことを言って去った後、ヴァーデンはジハナに聞いた。
「ジハナ、お前、驚いていなかったな。側近の事を知っていたのか?」
「昨日。陛下とネオニール様に呼ばれてやる気があるか聞かれたんだ。内緒にしててごめん。こんなすぐの話だと思わなかったから」
ジハナは青い布を外ずし不安そうに両親を見る。
「断った方がよかった?父上は俺に金細工師になって欲しかっただろ」
ヴァーデンは諦めたように微笑んでゆっくりかぶりを振る。
「金細工師になって欲しいとは思う。だがネオニール様のあの様子だと、お前や私たちが何と答えようが言い包められていただろう。ジハナ、私が言いたいのはそう言う事じゃなく、お前がやりたくないのに役目を無理やり負わされていないかどうかだ。心配してるんだよ」
ジハナは驚いてヴァーデンを見て、次いでレアンナを見る。
今までジハナは出かける時に行き先を言わないし、ましてや王子たちの話など、ほとんど2人に話してこなかった。見張りに見つかることも増え、城下でも王子達を唆して脱走させている悪ガキという評判になってしまったから、両親は肩身の狭い思いをさせてしまっている。
それだというのに2人の目には純粋な気遣う気持ちだけが映っていて、歯痒い気持ちになる。散々迷惑をかけてきて今更ではあるが、家族に心配をかけたいわけではなかった。
「王子を出来る限り支えてやりたいと思うよ。王子は俺といると疲れないし、好きだって言ってくれる。でも側近ってネオニール様みたいなのだろ?俺ができるのって遊んだり城から連れ出したりだ。正直……自信ない」
ジハナが脚立の上で足を抱えて小さくなるとレアンナが手を伸ばしてジハナの頭を撫でた。ヴァーデンはジハナの回答に少し安心したようだった。
「お前、いつの間にそこまで王子と仲良くなっていたんだ?」
「……まぁ、よく遊びに行ってたし」
「私たちはてっきりお前が無理やり押しかけてるのかと……」
「王子が嫌がったらやめてたよ!謹慎の後、お昼に謝りに行った時なんて会いに来るのが遅いって怒られたんだぜ?朝一で来ると思って待ってたんだって」
「……はは、そうか。そうか!ならいい!勤めに励めよジハナ!」
ヴァーデンは大きく口をあけて笑い、ジハナの背をドンと叩く。いて!とジハナが叫んだところでレアンナが「あら?」と不思議そうな声を出した。
「側近って、住み込みだとネオニール様はおっしゃったわよね?」
「ああ、言っていたな」
「明日からなのかしら、どっちにしても明日は正式にお城へ行くのよね?」
「そうだな」
「大変!こうしちゃいられないわ!!」
「な、なに母さん、どういう事?」
「もしかしたら今日がジハナが家で過ごす最後の日ってことよ!夕飯はどうしましょう!それにあんた、今まで気にしていなかったけど髪はボサボサだし、その服なんてもう何年着ているかしら!あぁもう大変、買い物に行ってくるわ!」
「あ、俺、荷物持ちするよ」
「私も今日は仕事を切り上げよう、工房の火を落としてくる」
レアンナとジハナは買い物に行って城に勤めるもの向けに売られている白い服を数着新調し、お祝いと称してジハナの好きな果物をたくさん買い込んだ。ヴァーデンは今日は急用で作業を中断すると伝えに一度工房へ戻った。
ジハナは帰宅早々食事の準備をするレアンナを手伝おうとして、その前に体を洗って来るよう言われる。はぁいと良い子の返事をして、ジハナは購入したばかりの服をもって町のはずれにある浴場に向かった。
浴場は川沿いに作られた施設で、川岸と川を覆うように個室がいくつも並んで建っている。個室には横長の椅子が設置されていて、腰かけながら体を洗ったり拭いたりできるのだ。
空いている個室に入って、新しい服を濡れないように椅子に置くとジハナはポンポンと服を脱ぎザブンと川へ飛び込んだ。一気に頭まで潜ってぶんぶん頭を振る。髪は手櫛を入れようにも引っかかって悪化させるだけなのを知っているので、しばらく川に任せて髪を泳がせる。川の流れに手伝われ、絡まった髪がすこし解けた、気がした。
ジハナは絡まった髪をつまみ、どうにか解けないかといじるが、やっぱり難しそうだ。諦めて川から上がり、大して水を拭きもしないまま新品の服を身につける。着古していない新しい服はどれも生地が厚くて堅く、重苦しく感じた。
「ジハナ、お前、驚いていなかったな。側近の事を知っていたのか?」
「昨日。陛下とネオニール様に呼ばれてやる気があるか聞かれたんだ。内緒にしててごめん。こんなすぐの話だと思わなかったから」
ジハナは青い布を外ずし不安そうに両親を見る。
「断った方がよかった?父上は俺に金細工師になって欲しかっただろ」
ヴァーデンは諦めたように微笑んでゆっくりかぶりを振る。
「金細工師になって欲しいとは思う。だがネオニール様のあの様子だと、お前や私たちが何と答えようが言い包められていただろう。ジハナ、私が言いたいのはそう言う事じゃなく、お前がやりたくないのに役目を無理やり負わされていないかどうかだ。心配してるんだよ」
ジハナは驚いてヴァーデンを見て、次いでレアンナを見る。
今までジハナは出かける時に行き先を言わないし、ましてや王子たちの話など、ほとんど2人に話してこなかった。見張りに見つかることも増え、城下でも王子達を唆して脱走させている悪ガキという評判になってしまったから、両親は肩身の狭い思いをさせてしまっている。
それだというのに2人の目には純粋な気遣う気持ちだけが映っていて、歯痒い気持ちになる。散々迷惑をかけてきて今更ではあるが、家族に心配をかけたいわけではなかった。
「王子を出来る限り支えてやりたいと思うよ。王子は俺といると疲れないし、好きだって言ってくれる。でも側近ってネオニール様みたいなのだろ?俺ができるのって遊んだり城から連れ出したりだ。正直……自信ない」
ジハナが脚立の上で足を抱えて小さくなるとレアンナが手を伸ばしてジハナの頭を撫でた。ヴァーデンはジハナの回答に少し安心したようだった。
「お前、いつの間にそこまで王子と仲良くなっていたんだ?」
「……まぁ、よく遊びに行ってたし」
「私たちはてっきりお前が無理やり押しかけてるのかと……」
「王子が嫌がったらやめてたよ!謹慎の後、お昼に謝りに行った時なんて会いに来るのが遅いって怒られたんだぜ?朝一で来ると思って待ってたんだって」
「……はは、そうか。そうか!ならいい!勤めに励めよジハナ!」
ヴァーデンは大きく口をあけて笑い、ジハナの背をドンと叩く。いて!とジハナが叫んだところでレアンナが「あら?」と不思議そうな声を出した。
「側近って、住み込みだとネオニール様はおっしゃったわよね?」
「ああ、言っていたな」
「明日からなのかしら、どっちにしても明日は正式にお城へ行くのよね?」
「そうだな」
「大変!こうしちゃいられないわ!!」
「な、なに母さん、どういう事?」
「もしかしたら今日がジハナが家で過ごす最後の日ってことよ!夕飯はどうしましょう!それにあんた、今まで気にしていなかったけど髪はボサボサだし、その服なんてもう何年着ているかしら!あぁもう大変、買い物に行ってくるわ!」
「あ、俺、荷物持ちするよ」
「私も今日は仕事を切り上げよう、工房の火を落としてくる」
レアンナとジハナは買い物に行って城に勤めるもの向けに売られている白い服を数着新調し、お祝いと称してジハナの好きな果物をたくさん買い込んだ。ヴァーデンは今日は急用で作業を中断すると伝えに一度工房へ戻った。
ジハナは帰宅早々食事の準備をするレアンナを手伝おうとして、その前に体を洗って来るよう言われる。はぁいと良い子の返事をして、ジハナは購入したばかりの服をもって町のはずれにある浴場に向かった。
浴場は川沿いに作られた施設で、川岸と川を覆うように個室がいくつも並んで建っている。個室には横長の椅子が設置されていて、腰かけながら体を洗ったり拭いたりできるのだ。
空いている個室に入って、新しい服を濡れないように椅子に置くとジハナはポンポンと服を脱ぎザブンと川へ飛び込んだ。一気に頭まで潜ってぶんぶん頭を振る。髪は手櫛を入れようにも引っかかって悪化させるだけなのを知っているので、しばらく川に任せて髪を泳がせる。川の流れに手伝われ、絡まった髪がすこし解けた、気がした。
ジハナは絡まった髪をつまみ、どうにか解けないかといじるが、やっぱり難しそうだ。諦めて川から上がり、大して水を拭きもしないまま新品の服を身につける。着古していない新しい服はどれも生地が厚くて堅く、重苦しく感じた。
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