エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

文字の大きさ
上 下
4 / 40
第1章 幼少期

2話 王子とお勉強②

しおりを挟む
 私たち兄弟が勉強をする部屋には机が三つ並べられていてトレバー先生は机の前に置かれた椅子に座っていた。

 薄い緑色に染められた長袖のシャツに、茶色の麻の長ズボン。城で仕える者のほとんどが白い衣服をまとうエルフの城で、先生の色のついた服装はとても目立つ。
 先生本人は髪と目が黒く、耳が丸い以外は、エルフとそう変わらない見た目だ。細いたれ目、通った鼻筋、いつもにこにこしている先生は優しそうに見えるが、意外と大胆で世界中を旅した経験を持つ。


「先生、こんにちは。体調いかがですか?何か大変な病気?」
「こんにちはレンドウィル王子。もうこの通りすっかり元気ですよ」
「前に見たときも元気そうでした」


 私が1番右の席に向かいながら尋ねるとトレバー先生はにこりと笑いながら答えた。

 この間まで元気だった先生が突然体調を崩したと聞いて驚いたが元気そうでよかった。ほっとして席に座ったところで小走りのエルウィンが部屋に滑り込んでくる。


「先生、こんにちは!」
「エルウィン王子、こんにちは。今日も元気ですねぇ」


 エルウィンは私と似たようなローブを着ているが、腰から足下にかけて縦に大きな切れ目が入っている。バタバタと走り回るものだから切れ目からローブと同じ薄青色の半ズボンが見え隠れしていた。


「先生、こんにちは、体調はいかがですか?」


 遅れてアイニェンもやってきた。軽い布地のドレスは妹のゆったりとした歩みでもふわふわと風に踊っている。
 母が髪につけていたのと同じ白い花を髪に挿していた。さっき会った時はつけていなかったからあの後母から貰ったんだろう。

 妹に大丈夫ですよ、ありがとうございます。と答えた後で先生はコホン、と咳払いをした。先生は話始める時に咳をする癖がある。


「さて皆さん、数日あけてしまってすみませんでした。どうやら風邪をひいてしまったようでね。でも今回のことで、皆さんに伝えたいことも増えました。今日は、エルフと他の種族についてお話ししましょう」


 はぁい、とみんなで答え、行儀よく座る。
 授業の始まりだ。


「この世界にはエルフ、人間やドワーフ、人魚にニンフ、ゴブリンなどいろいろな種族がいます。エルフの皆さんは他の種族より長生きと言うことは知っていますね?定かではありませんが、エルフは2000年以上生きると言われています。対して、僕のような人間の寿命は長くて100年です」

「100年?そんなのすぐ終わっちゃうよ」


 エルウィンが戸惑いを隠さず言う。


「そう思うかもしれませんね。僕たち人間は体の成長も心の成長も早いのです。今レンドウィル王子は18歳ですね、エルウィン王子は14歳、アイニェン王女は8歳」


 私たちは頷く。


「人間の8歳はまだ子供ですが、14歳では仕事につき、18歳では子供を持つものもいるでしょう」
「14歳なのに仕事?僕、エルフでよかった」
「18歳で子供……?」
「皆さんの年齢を人間に当てはめたら、ですよ。見た目だけなら3人とも人間で言う10歳くらいですかねぇ」


 私たちはまだ子供で、背丈も母の半分しかない。それにしても18でもうお父さんだなんて、人間は少ししか生きられないから、そんなに急いでいるんだろうか?


「エルフが大人だと認められるのは150歳を過ぎた頃ですね。それと比べると、僕たちはのんびりする間も無く成長していくのですよ」
「ふぅん、人間って忙しいのね。少ししか時間がないのだから、のんびり過ごせばいいのに」

「もちろんのんびり過ごす人間も大勢いますよ。ただ、僕のようにやりたいことが沢山あると、あっちへこっちへ駆け回ることになるんです」


 ここまで話して、トレバー先生はコホンとまた咳払いをした。


「今日はエルフと人間の違いが議題です。他の種族は明日やるので安心してくださいね。次は体の強さです。まずは体の強さを大きく4つに分けて考えましょう。病気・怪我・回復力・身体能力、それぞれ違った強さがあります。エルフは病気に対してはめっぽう強く、滅多に病気になることはありませんが、人間はすぐ病気になり……」


 2時間程の授業はあっという間に終わってしまった。気が付いたら夕日が差し込んでいる。

 あのあとトレバー先生は私たちエルフと人間の体の違いをいろいろと教えてくれた。重い荷物を持ち上げたり、みんなでジャンプできる高さを競ったり、息を止められる時間を計ったり。
 半分遊びのような気分でやっているけど、自分たちも参加すると覚えられるし何よりも楽しい。

 3人で教室から部屋まで歩きながらしみじみという。


「トレバー先生の授業、やっぱり楽しいね」
「あら、レンドウィルお兄様、ネオニールの悪口?」
「え?ちが、そういう意味じゃないよ!」
「あはは、でも兄上、それはネオニールの前では言わないほうが良いかも?」
「だから違うってば!」


 まったく。2人はいつもケンカしているくせに、こういう時だけ息を合わせて協力するんだから。

 纏わりついてくる2人をどうにか追い払って部屋に戻る。


「ただいま、ぴぃちゃん」


 部屋に入って小鳥に挨拶をするが返事はない。鳥かごを覗くと背中の羽毛に嘴を埋めて眠っている様だった。朝早い小鳥たちは夕方には眠くなってしまう。
 起こさないように小さく挨拶して鳥かごにそっと布をかぶせた。


「おやすみ、また明日ね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...