エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

2話 王子とお勉強②

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 私たち兄弟が勉強をする部屋には机が三つ並べられていてトレバー先生は机の前に置かれた椅子に座っていた。

 薄い緑色に染められた長袖のシャツに、茶色の麻の長ズボン。城で仕える者のほとんどが白い衣服をまとうエルフの城で、先生の色のついた服装はとても目立つ。
 先生本人は髪と目が黒く、耳が丸い以外は、エルフとそう変わらない見た目だ。細いたれ目、通った鼻筋、いつもにこにこしている先生は優しそうに見えるが、意外と大胆で世界中を旅した経験を持つ。


「先生、こんにちは。体調いかがですか?何か大変な病気?」
「こんにちはレンドウィル王子。もうこの通りすっかり元気ですよ」
「前に見たときも元気そうでした」


 私が1番右の席に向かいながら尋ねるとトレバー先生はにこりと笑いながら答えた。

 この間まで元気だった先生が突然体調を崩したと聞いて驚いたが元気そうでよかった。ほっとして席に座ったところで小走りのエルウィンが部屋に滑り込んでくる。


「先生、こんにちは!」
「エルウィン王子、こんにちは。今日も元気ですねぇ」


 エルウィンは私と似たようなローブを着ているが、腰から足下にかけて縦に大きな切れ目が入っている。バタバタと走り回るものだから切れ目からローブと同じ薄青色の半ズボンが見え隠れしていた。


「先生、こんにちは、体調はいかがですか?」


 遅れてアイニェンもやってきた。軽い布地のドレスは妹のゆったりとした歩みでもふわふわと風に踊っている。
 母が髪につけていたのと同じ白い花を髪に挿していた。さっき会った時はつけていなかったからあの後母から貰ったんだろう。

 妹に大丈夫ですよ、ありがとうございます。と答えた後で先生はコホン、と咳払いをした。先生は話始める時に咳をする癖がある。


「さて皆さん、数日あけてしまってすみませんでした。どうやら風邪をひいてしまったようでね。でも今回のことで、皆さんに伝えたいことも増えました。今日は、エルフと他の種族についてお話ししましょう」


 はぁい、とみんなで答え、行儀よく座る。
 授業の始まりだ。


「この世界にはエルフ、人間やドワーフ、人魚にニンフ、ゴブリンなどいろいろな種族がいます。エルフの皆さんは他の種族より長生きと言うことは知っていますね?定かではありませんが、エルフは2000年以上生きると言われています。対して、僕のような人間の寿命は長くて100年です」

「100年?そんなのすぐ終わっちゃうよ」


 エルウィンが戸惑いを隠さず言う。


「そう思うかもしれませんね。僕たち人間は体の成長も心の成長も早いのです。今レンドウィル王子は18歳ですね、エルウィン王子は14歳、アイニェン王女は8歳」


 私たちは頷く。


「人間の8歳はまだ子供ですが、14歳では仕事につき、18歳では子供を持つものもいるでしょう」
「14歳なのに仕事?僕、エルフでよかった」
「18歳で子供……?」
「皆さんの年齢を人間に当てはめたら、ですよ。見た目だけなら3人とも人間で言う10歳くらいですかねぇ」


 私たちはまだ子供で、背丈も母の半分しかない。それにしても18でもうお父さんだなんて、人間は少ししか生きられないから、そんなに急いでいるんだろうか?


「エルフが大人だと認められるのは150歳を過ぎた頃ですね。それと比べると、僕たちはのんびりする間も無く成長していくのですよ」
「ふぅん、人間って忙しいのね。少ししか時間がないのだから、のんびり過ごせばいいのに」

「もちろんのんびり過ごす人間も大勢いますよ。ただ、僕のようにやりたいことが沢山あると、あっちへこっちへ駆け回ることになるんです」


 ここまで話して、トレバー先生はコホンとまた咳払いをした。


「今日はエルフと人間の違いが議題です。他の種族は明日やるので安心してくださいね。次は体の強さです。まずは体の強さを大きく4つに分けて考えましょう。病気・怪我・回復力・身体能力、それぞれ違った強さがあります。エルフは病気に対してはめっぽう強く、滅多に病気になることはありませんが、人間はすぐ病気になり……」


 2時間程の授業はあっという間に終わってしまった。気が付いたら夕日が差し込んでいる。

 あのあとトレバー先生は私たちエルフと人間の体の違いをいろいろと教えてくれた。重い荷物を持ち上げたり、みんなでジャンプできる高さを競ったり、息を止められる時間を計ったり。
 半分遊びのような気分でやっているけど、自分たちも参加すると覚えられるし何よりも楽しい。

 3人で教室から部屋まで歩きながらしみじみという。


「トレバー先生の授業、やっぱり楽しいね」
「あら、レンドウィルお兄様、ネオニールの悪口?」
「え?ちが、そういう意味じゃないよ!」
「あはは、でも兄上、それはネオニールの前では言わないほうが良いかも?」
「だから違うってば!」


 まったく。2人はいつもケンカしているくせに、こういう時だけ息を合わせて協力するんだから。

 纏わりついてくる2人をどうにか追い払って部屋に戻る。


「ただいま、ぴぃちゃん」


 部屋に入って小鳥に挨拶をするが返事はない。鳥かごを覗くと背中の羽毛に嘴を埋めて眠っている様だった。朝早い小鳥たちは夕方には眠くなってしまう。
 起こさないように小さく挨拶して鳥かごにそっと布をかぶせた。


「おやすみ、また明日ね」
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