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序 章 はじまり
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しおりを挟む上守比和子。
私の名前だ。
ちなみにお父さんは光一朗で、その弟の叔父さんは光次朗。
ついでにお祖父ちゃんは三郎という。
鈴白村にあるお祖父ちゃんの家の裏山の奥地には、名もなき神社がある。
祀られているのは御倉神。
揚げ好きの、登場するタイミングがいつも残念な紺色の学生服の神様。
名もなき神社は上守の一族がまだ『神守』と名乗っていた頃、そのお役目の為に建てられた。
『神守』のお役目とは、神様の守をすること。
これは守るということではなくて、神様のお相手をするということ。
お世話したり、話を聞いたり、時には一緒に出掛けてみたり。
そうして神様のご機嫌を伺い、神守の上に君臨する正武家の為に祀神が尽力してくれることを願う。
神様の血縁は信じられないくらいに絡み合っていて、祀神の加護を取り付けてしまえばその祀神の子や嫁や親までがたまにそのお力を貸してくれる。
昔はまだ信仰が厚く、また神守の力も残っていたのだけれど、近代になるにつれその姿や気配を感じられる者がいなくなり、神守のお役目は正武家より解かれてしまっていた。
それはちょうど明治維新くらいで、外国から違う宗教が盛んに流れ込んできていた時期でもあった。
それなのになぜか今になって、お父さんが自分では言わないけど神守の力に目覚めてしまっていた。
そして私も。
どうして再び神守の力が目覚めてしまったのか。
私が思うに正武家に触発されたからだと思っている。
お父さんの故郷、鈴白村はこれといった観光も名産もない絵に描いたド田舎で、誇れるものといったら山々に囲まれた大自然くらいなものだ。
鈴白村の他に、鳴黒村、緑林村、藍染村、そしてあと一つは何だったかな、とりあえずこの地域はまとめて五村と呼ばれている。
その五村を取り纏めているのは村長等ではなく、鈴白村に屋敷を構える名家、正武家だった。
正武家は呆れるほどの昔、話によると平安くらいに時の帝の命を受け、鈴白村に根付くことになった。
彼らは都で不可思議な出来事を解決する役目を担っていたそうで、ある時都で厄災を振り撒いていたものを追い、辿り着いたのがこの鈴白村。
厄災のせいで村では人や作物に悪影響が出ていた。
それを祓い鎮めているうちに次々と正武家へ厄介事が持ち込まれ、鈴白の地を離れられなくなってしまった。
駄目押しとばかりに帝から、『鈴白を清浄の地とするまで都に戻ること罷りならん』と言われてしまって、結局正武家はある条件を出してそれを認めてもらった。
『鈴白を含む五村の地と、正武家の未来永劫の繁栄。現世の如何なる物事は正武家に干渉せず』
要するに、五村の土地寄越せ、正武家を繁栄させろ、ついでに正武家に関することには首を突っ込むなと。
それが現代の日本でもまだ罷り通っている。
それだけ正武家のお役目が長く続き、大袈裟に言ってしまえば国絡みのタブーなんだと私は思っている。
私は中学一年生の夏休みまで、まさかお祖父ちゃんの村がそんなところとは知らず、奇々怪々な出来事はテレビやネットの中の虚構の世界だとばかり思っていた。
お母さんが弟のヒカルの出産の為に入院しなくてはならなくなり、私は夏休みの間だけお祖父ちゃんの家に預けられ、そこで奇々怪々の出来事を経験することになり、信じざるを得なくなった。
そして私は鈴白村で、正武家の惣領息子、玉彦と出逢う。
同い年で、おかっぱ頭の、親友の小町曰く馬鹿みたいに端正な顔をした彼もまた、正武家として不思議な力を持っていた。
ツンデレで古臭い話し方の、寂しがり屋な玉彦は何だかんだと結局私を助けてくれていた。
様々な紆余曲折があり、玉彦とお互いの想う気持ちを確かめ合って夏休みが終わった私は鈴白村を後にする。
それから四年後。
再び夏休みに鈴白村を訪れた高二の私は、またしても奇々怪々な出来事に巻き込まれ、玉彦と世間一般で言う婚約をした。
この時の奇々怪々な出来事は未だ解決されず、私は鈴白を離れられない。
なので正武家当主の玉彦の父である澄彦さんの計らいで、お父さんの許可を取り、私は解決するまで正武家でお世話になることになった。
高校を編入してまで。
神守の血に目覚め始めた私と、正武家の惣領息子の玉彦。
この二人が揃ってまともな学校生活が送れるはずはなかった。
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