わたしと玉彦の四十九日間

清水 律

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最終章 それから

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 あと二週間で、あれから四回目の夏休みを迎える。

 私は高校二年生になっていた。
 通山の家の庭で青空を見上げ、忘れられないあの日々を想う。
 ホースで花に水をやり虹を作れば、鮮やかに想い出される。

「ねぇねぇ」

 足元に纏わりつくのは、弟のヒカル。
 すくすくと大きく育っている。

「なぁに? どうしたの?」

 抱き上げるとズシリと重く、そろそろ抱っこをするのもしんどくなってきた。
 ヒカルは私の後方を見上げ、短い手を伸ばす。

「あげーあげー」

「へっ?」

 三歳児が喋らないはずの言葉に私は振り向いた。
 とても嫌な予感に、冷や汗が出る。

「おおーかわゆいおのこじゃのー」

「あんた、何しに来たのよ!」

 ヒカルは嬉しそうに頭を撫でられている。
 宙に浮いた御倉神に。
 実に四年ぶりの登場に私はすっかり油断をしていた。
 そもそもなんでここに出てくるわけ!?

「呼びに来た」

「は?」

「お主を呼びに来てやったのじゃ」

 何の為に。誰が。
 するといつも腰にぶら下げている、青紐の金色の鈴が三回鳴った。
 私はヒカルを降ろし、鈴を握り締める。

 彼ともあれ以来、一度も会っていない。
 四季の折々にだけご機嫌伺いの手紙が届くくらいで。
 私はいつも急いで返事を出すのだけれど、次の季節まで手紙はない。
 彼と同じ高校に通う亜由美ちゃんによれば、中々忙しい学校生活のようで彼が私にかまっている暇はなさそうだった。

 学校も家のこともある。
 しかもスマホで電話しようものなら、すぐに壊れるし。
 彼の父親曰く、力の揺り返しを制御できるようになればそういうことも無くなるらしい。
 通りで。彼の父親からは普通にメールが届いているはずである。
 なので私たちの生存確認は鈴を通して行われていた。

 遠く離れていても、そこには掛けがえのない絆が確かにある。

「ヒカル、お家に入って。御倉神、揚げ買ってきてあげるから、ちょっと待っててね」

「うん!」

「まことか!」

 御倉神は何故かヒカルと一緒にベランダから家の中に入る。
 そして珍しくリビングに居たお父さんの叫びがこだまする。
 あ、やっぱりお父さんも視えてるんだ。
 ヒカルはまだ三歳だから、当たり前だけど。

 私は御財布を持って玄関を飛び出す。

 その時に鈴を四回鳴らす。

 すると返事はすぐに。

 今年の夏も、忘れられなくなりそうだった。


 →『私と玉彦の六隠廻り』へと続く

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