わたしと玉彦の四十九日間

清水 律

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第八章 はくえん

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「それで今後の策だけど」

 澄彦さんが古文書を閉じ、地図を再び明かりの下に晒す。

「猿と白猿が違うものとして、猿は討ち取った。だからもう正武家の者を狙う猿は居ないだろう。問題は、白猿だ」

 白猿が狙うのは私。
 そう考えただけで、あの時の追いかけられた恐怖に身が震える。
 すると右手に温もり。
 見なくてもわかってる。
 これは玉彦の手。
 私を守ってくれる玉彦の手。

「さて選択肢は二つ。これは比和子ちゃんが決めるべきだ」

「はい」

「一つめ、通山に帰ってもう二度と鈴白には訪れない。多分白猿はこの正武家の治める五村の外には出られない」

 澄彦さんはぐるっと地図を指先で囲んだ。

「二つめ、危険だけど囮になり白猿を誘き寄せ、討伐する」

 私は隣に玉彦を感じながら、頷く。
 そんなの、選ばなくたって最初から決まってる。

「須藤くん」

「え、はい」

「私、須藤くんの名字は川下じゃないと思う」

「……そうだね」

「豹馬くん」

「なに?」

「私、玉彦の初恋が豹馬くんじゃなくて安心した」

「勘弁してくれよ……」

「玉彦」

「なんだ」

「ぜんっぜん覚えてないけど、今度もまた守ってくれるんでしょ?」

「忘れないと約束するならな」

 私は大きく深呼吸して、困り顔で笑う澄彦さんに選択を告げる。
 失敗したら、なんて全く考えなかった。

「私、囮役引き受けます」

「正武家澄彦、ここにしかと心得た」

 初めて感じた澄彦さんの正武家の当主としての気概。
 玉彦はまだまだ追いつけないな、と思いつつ繋がる手に力を込めた。
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