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第七章 したたり

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「いやーマジで何にもないね、比和ここで何やってたの!?」

「現地で出来た友達と交流」

「うはっ。現地とか小町ウケるんですけど!」

 あの夜、小町からメールをもらって、私はすぐに電話をした。
 呼び出しを待たずに出た小町は、お母さんと喧嘩したから家出させろとすごい剣幕だった。
 そして……。
 青々とした田んぼのあぜ道を歩く私と小町の後ろに、男子二人。

「上守のじいちゃん家、でけーよなー」

 辺りをきょろきょろしながら、同級生の太一がスマホで写メを撮る。

「こんな絵に描いた様な田舎、まだ在ったんだな」

 守くんが感心したように、辺りを見渡した。
 そう、小町は一人ではなく、荷物持ちと称して御供二人を連れてきた。
 もちろん私への確信犯だ。
 私はそんなこと聞いていなかったから、小町が到着する夕方にお祖父ちゃんとバス停まで迎えに行ったのだけど、三人が揃っていて目が点になった。
 お祖父ちゃんは何人でも泊まって良いと言ってくれたので助かったけど、駄目だって言われたらどうするつもりだったんだろう。
 で、お祖父ちゃん家に落ち着いた三人は、こうして私と村の中を散策している。
 相変わらず何もないけど。

「お盆だけど、みんなこっち来て大丈夫だったの?」

「小町はお母さんと絶縁したから! もうずっとここに居るから!」

 いや、私は夏休み終わったら帰るよ?

「俺は別にどこにも行かないし。つーか親と旅行とかウザくて行きたくねーよ、な、守」

「オレは別に。とりあえず暇つぶしにはなるし。それに、これだけ比和に会わないと何かやらかしてるんじゃないかと心配だったし」

 守くんの仰る通り、私は色々と騒動を起こしている。
 さすが幼馴染。
 良くわかってらっしゃる。

「コンビニないの?」

「ないよ。駄菓子屋さんならあるけど。村に一つの」

「そこ行こうよ!」

 私は渋々三人を引き連れて、駄菓子屋に向かう。
 村に一つしかないから、誰かと会ってしまう確率が高くて、そしたら案の定、那奈たちがいた。

「うわー、なにここ! ドラマのセットじゃないのー?」

 小町はテンションが上がって、中に入るとカゴを持ちポイポイお菓子を放り込む。
 あれもこれもと山ほど買い込み、男子二人に持たせる。
 私はそんな中、背中に痛いほど視線を感じていた。

 そして店を出たら、お約束通り絡まれる。

「比和子、そいつら誰?」

 那奈が仁王立ちして、三人を指差す。
 那奈の後ろには、彼女のお兄ちゃんもいたけど、亜由美ちゃんもいた。
 私はそれが、なんだか悲しかった。

「那奈には関係ないじゃん。そこ退いてよ」

 私は無理にでも那奈の横を通り過ぎようとして、足を引っ掛けられて転んだ。
 私、無様だ。
 両手をついて砂を握り締める。

「玉様に飽きられたんだってね。ざまあみろだわ」

 那奈の言葉にみんなが笑う。
 顔を上げられない私は、亜由美ちゃんもそこで一緒になって笑っているのかわからない。

「おい、そこの中途半端に不細工な女! 小町の比和になんてことすんのよ!」

「大丈夫か? なんかこいつらと揉めてるのか?」

 本来なら喧嘩っ早い太一が私を助け起こしてくれる。
 守くんは散らばってしまったお菓子を拾い、袋に入れて差し出す。
 こんな姿、見られたくなかったな。
 情けなくて、私は俯いたままだ。

「ぶ、不細工~!?」

 私の横では小町と那奈の舌戦が繰り広げられる。

「そうよ! このブス! こんなことするとか心もブス!」

「な、な」

 那奈は少なくともこの村では美人で通っていた。
 それなりにオシャレにも気を使っていたし。
 でも相手が悪かった。
 小町はその名の通り、とびきりのべっぴんさんで、よくぞその名を付けたと私は小町の両親を尊敬する。
 年に何回もスカウトされる小町は、ぱっちりとした二重に大きな瞳、鼻筋がスッとしていて、薄めの唇が知的さを醸し出す。
 小町は私の中では、咲き誇る大輪の薔薇だった。

「どけよ、ブス! 邪魔邪魔! せっかく空気がキレイな良いとこなのに、ブスのせいで台無しだわー! 後ろの奴らもなんだっていうのよ。馬鹿みたいに集まっちゃって。見せものじゃないってーの! 散れ! 雑魚どもが!」

 唯一、欠点を挙げるとすればその口の悪さだ。

「上守、痛かったら負ぶってやるぞ?」

 私は太一に片手を上げて大丈夫のサインを出す。
 小町の勢いに圧倒されて、那奈たちは唖然としている。
 見るに見かねた守くんが間に割って入った。

「小町、もうその辺にしとけよ。ここは世間が狭い田舎なんだから、比和のじいちゃんに迷惑掛かるかもしれないだろ。行こう」

 何気に火に油を注いでると思うんですけど。
 私は守くんに促されて歩き出した。
 駄菓子屋から離れて少しした頃、私は三人に謝った。
 かなり嫌な思いをさせてしまった。
 せっかく遊びに来てくれたのに。

「とにかく、なんで来てすぐの比和があんな目に合うのか、小町意味わかんないんだけど」

「あーうん。ちょっと話せば長くなるんだけど」

 私は三人にどこまで話して良いものか、考える。
 そしてこの村には正武家という名家があって、そこの息子と喧嘩したのだと伝えた。
 あと、時々不可思議な出来事も起こるらしいとも。
 実際起こるんだけど、リアリストの三人は信じてくれないだろうし、滞在中にそんなことに遭遇することはないだろうと思って。

「じゃあソイツが後ろで糸を引っ張ってんのね!?」

「え、違うよ。アイツはそんなことしないよ」

「今で言う忖度ってやつじゃねーの?」

「とにかく触らぬ神に祟りなしだな」

 守くんが言った言葉は、的を得ていた。
 それから私たちは、袋一杯に詰まった駄菓子を持ってお祖父ちゃんの家に帰ったのだけど、晩ご飯前にそんなに食べて!と夏子さんに怒られてしまった。

 夜になって、いつもの私と夏子さんのフルーツタイムに、三人が加わって花火をした。
 これぞ夏休みって感じで、私はようやく笑顔になれた。
 久しぶりな気がする、こんなに笑ったの。

 小町が、太一が、守くんが来てくれて良かった。
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