わたしと玉彦の四十九日間

清水 律

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第六章 すみひこ

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 それから。

 須藤くんのお家で楽しく歓談とはいかなかった。
 お母さんはすぐに正武家に連絡を入れて、猿が現れたこと、人が襲われたことを伝えた。
 そしてすぐに正武家と御門森の人が迎えに来ると教えてくれた。

「ごめんなさいね。こんなことになるなんて。でも、すぐに追い払えて良かったわ。洗濯物を干していたら、猿が塀の上を走っているんだもの。びっくりしちゃったわよ」

 お母さんは私の肩を抱いて、朗らかに笑う。
 須藤くんはまだ警戒していて、外を何度も見ていた。

「それにしても光一朗くんに続いて貴方も猿に追いかけられるだなんてねぇ。なにか縁でもあるのかしら」

「え、お父さん?」

「そうよぅ。高校の時に、何度も追いかけられてね。男子なのに。それで澄彦くんと夜中に罠を張って待ち構えていたら、三郎さんが引っかかって。大騒動よ」

 それって、もしかして叔父さんが言っていた、お祖父ちゃんが澄彦さんに拳骨を落としたやつだ。

「母さん、来たよ」

 須藤くんがそう言うと同時に玄関のチャイムが鳴る。
 そして私はお母さんに連れられて外に出る。
 そこには澄彦さんと宗祐さんがいた。
 二人は私を見て、ぎょっとする。

「え、襲われたって比和子ちゃんなの!?」

 宗祐さんはすぐに私の足元にしゃがみ、怪我の具合を確認する。
 もう手当をしてもらっていて、包帯でぐるぐるだけど。
 澄彦さんは私に車に乗るように言って、須藤くんのお母さんと話し始める。
 私は宗祐さんに付き添われて、車に乗り込んだ。
 少し待っていると、続々と車が集まってくる。
 あとから宗祐さんに聞いた話だと、猿を追う猟師たちだそうで。
 その中に、見たことのある黒い車が。
 南天さんが降り、彼も降りてくる。
 私が乗る車に見向きもせずに、須藤くんの家の玄関前にいる澄彦さんと合流した。
 どうやら詳細を聞いているみたい。
 そして澄彦さんが何かを指示すると、みんな散っていく。
 それから澄彦さんは、車の後部座席で身を小さくさせていた私のところへとやって来ると、隣にドサッと腰を下ろした。

「お待たせ。比和子ちゃん」

「すみません、すみません」

「謝らなくたっていいんだよ。アレに襲われたのは君のせいじゃない。むしろこちらが謝らなきゃだよ」

「でも!」

 言い募る私の頬の涙の跡に、澄彦さんは優しく触れる。
 少し擦って、困ったように笑った。

「比和……」

 ガンッ。

 彼が通りすがりに車のドアを殴って行く。
 澄彦さんは振り返り、頬を膨らませた。

「邪魔者め。比和子ちゃん送ってくよ。手負いで猿は動けないと思うけど、しばらくは一人の行動はしない方が良いね。なんだったら付き人寄越すけど」

「え、遠慮します」

「もし少しでも違和感があったら、すぐに連絡して。これ玉パパの連絡先」

 小さな紙を受け取ると、そこには澄彦さんの携帯番号とアドレスとハートがあった。


 そして、やっぱり。

 私はお祖父ちゃんの家で、説教を食らった。
 でもそう長くはなく、これは澄彦さん効果だった。
 ただ悲しいことに、この日から亜由美ちゃんたちと一緒に遊ぶことはなくなった。
 私が須藤くんと急接近して、しかも猿に襲われて、それと私が彼との接点を断ち切ってしまったのも原因だった。

 この村には子供の派閥が三つある。

 一つは私がいたとこ。もう一つは那奈のお兄ちゃんのとこ。最後は、新興住宅が集まる場所のとりわけ村の柵(しがらみ)が薄いとこ。
 ちなみに須藤くんはこの柵が薄いとこに属している。
 私の唯一の楽しみといえば、南天さんと会える午前中だけ。
 それ以外は家に引きこもっていた。
 時折くうちゃんの散歩する声が聞こえたけど、外を見る勇気はなかった。

 私、どうしてこんなとこにまだ居るんだろう。
 早く夏休みが終わってしまえば良いのに。

 そんな私に救いの手が差し伸べられたのは、お盆の前日の一通のメールだった。

『一週間くらい遊びに行くよ~(*'ω'*)』

 それは親友の、小町からのメールだった。

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